インプル研『経営コラム(インプルリポート)』
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711.簿記の仕組み⑩ 特殊な仕訳 たな卸
会計には経営をリスクから守る仕組みがある。リスクから経営を守る仕組みを「リスクヘッジ」という。
そもそもリスクヘッジとは、これから起こるかもしれないリスクを予測し、そのリスクに対応できる体勢を取っておくことをいう。
会計には次のようなリスクヘッジの仕組みがある。
1.資金の調達と資金の運用の面から企業の財政状況を貸借対照表として明らかにして、財政からリスクを避ける仕組み
2.資金の源泉と資金の使途の面から事業の損益状況を損益計算書として明らかにして、営業成績からリスクを避ける仕組み
3.損益計算書の当期利益を貸借対照表の繰越利益剰余金に組み込み、B/SとP/Lを結び付けて、資金繰りからリスクを
避ける仕組み
4.引当金や減価償却、月次棚卸などの仕訳をすることで、健全な経営ができるようにリスクを避ける仕組み
これらの仕組みによって、会計は健全な企業経営へ導けるようになっている。
前回は、その一つの仕組みである『貸倒引当金』を紹介したわけだが、今回は『棚卸資産』のリスクヘッジを紹介する。
(2)棚卸資産とは
売上原価は、期首棚卸高に期中仕入高を加え、そこから期末棚卸高を引くことで計算されるので、在庫は正しい原価を計算する
上で大変重要なものとなる。
売上原価=期首棚卸高+期中仕入高-期末棚卸高
仮に、実際の在庫以上に棚卸資産を計上すれば、それだけ売上原価が減るので、利益は実際以上に大きくなる。
逆に、実際の在庫より少なく棚卸資産を計上すれば、それだけ売上原価は大きくなるので、利益は実際以下となる。
これがいわゆる「利益操作」と言われるものだ。
在庫である『棚卸資産』は正確な利益を把握するために大変重要!
したがって、棚卸資産は経営をリスクヘッジしてするためには大変重要なものといえる。
また、その在庫を決算のときにしか確認しないならば、月々は正しい利益を把握せずに経営していることになる。
あるいは、毎月在庫を確認していても、それが不正確であれば、やはり月々の利益は不正確なものとなる。
特に製造業、卸売業、小売業においては在庫管理がいい加減だと、利益を把握しないで経営していることに等しく、
大変心許ない経営をしていることになる。
『実地棚卸』は経営のリスクヘッジをする上で大変重要!
①在庫は月次棚卸さえしていれば安心なのか?
決算時にしか実地棚卸をしていないことは、経営上、非常に大きな問題をはらんでいることはすでに説明をしたとおりだ。
では、毎月、月末に実地棚卸をしていれば安心なのかといえば、精度の問題がある。
形式的な月末棚卸を実施しても、それはしていないことと「五十歩百歩」となる。
肝心なことは、実地棚卸の精度が上げられるまでは、毎週でも毎日でも実地棚卸をすることだ。
したがって、正しく実地棚卸ができるまでは、「毎日でも実地棚卸をする」ということが正解となる。
実地棚卸は精度が上げられるまでは頻度を上げてやることが大切!
②棚卸資産の仕訳
では、棚卸の仕訳をどのようにすればよいのか。
棚卸に関する仕訳を、「期首」と「期中」および「期末」の3つ時期から考えてみる。
1.期首の棚卸高の仕訳
まず、会計では「棚卸資産」を次の6種類に分けるように決められている。
1)販売する目的に仕入れたモノ →「商品」に計上する
2)販売する目的で生産したモノ →「製品」に計上する
3)製品ではないが販売できる状態にあるモノ →「半製品」に計上する
4)製品の材料であるモノ →「原材料」に計上する
5)生産途中でまだ販売できない状態のモノ →「仕掛品」に計上する
6)製品の消耗品的なモノ →「貯蔵品」に計上する
これらの前期末の残高を期首年月日で『期首棚卸高』へ振替える。
《期首年月日》 PL:期首棚卸高 / BS:商品
PL:期首棚卸高 / BS:製品
PL:期首棚卸高 / BS:半製品
PL:期首材料棚卸高 / BS:原材料
PL:期首仕掛品棚卸高 / BS:仕掛品
解説:一旦、B/Sの各棚卸資産をP/Lの各期首棚卸高へ振替える。これらの仕訳は期首年月日にしか行わない。
期首棚卸高への振替は1度しか行わない!
2.期中の仕入の仕訳
企業は必要に応じて期中に仕入を行い、月末にはいくらかの在庫が残る。
商品又は材料仕入は、商品又は材料という資産を、掛または現金で仕入するので、次のような仕訳となる。
《仕入年月日》 PL:商品仕入高 / BS:買掛金又は現金
PL:材料仕入高 / BS:買掛金又は現金
解説:仕入した商品や材料はB/Sの棚卸資産ではなく、一旦、P/Lの商品仕入高や材料仕入高に計上する。
仕入計上はB/Sの棚卸資産ではなく、P/Lの商品仕入高と材料仕入高に計上する!
3.第1月目の月末棚卸高の仕訳
月末になると売れ残った商品などが手元にあるので、実地棚卸で在庫を確認したうえで、「月末棚卸高」を計上する。
「月末棚卸高」は、期末棚卸高を月末棚卸高と読み替えて計上する。
《月末年月日》 BS:商品 / PL:期末棚卸高
BS:製品 / PL:期末棚卸高
BS:半製品 / PL:期末棚卸高
BS:原材料 / PL:期末材料棚卸高
BS:仕掛品 / PL:期末仕掛品棚卸高
解説:実地棚卸をした結果、確認した在庫をB/Sの棚卸資産とP/Lの月末棚卸資産に計上する。
こうすることで、「期首棚卸高+仕入高-月末棚卸高」という計算で、期首第1月目の売上原価が計算できる。
なお、この仕訳は毎月末に行う。
毎月の売上原価を把握するために月末棚卸高の計上を毎月月末に行う!
4.第2月目の月初棚卸高の仕訳
第2月目を迎えると、前月末の棚卸高である「期末棚卸高」を一旦ゼロにする。
《月初年月日》 PL:期末棚卸高 / BS:商品
PL:期末棚卸高 / BS:製品
PL:期末棚卸高 / BS:半製品
PL:期末材料棚卸高 / BS:原材料
PL:期末仕掛品棚卸高 / BS:仕掛品
解説:月末棚卸高をB/Sの棚卸資産を相手科目に、一旦ゼロにする。
但し、期首棚卸高という科目は使わず、期末棚卸高という科目を使う。
月末棚卸高の月初戻しに「期首棚卸高」という科目は使わない!
この仕訳を期首第2月から第12月まで、毎月月初に行う。
5.期中仕入の仕訳
期中仕入の仕訳は②と同じである。
《仕入年月日》 PL:商品仕入高 / BS:買掛金又は現金
PL:材料仕入高 / BS:買掛金又は現金
6.第2月目の月末棚卸高の仕訳
第2月目の月末も売れ残った商品などが手元に残るので、実地棚卸で確認のうえ、③と同様「月末棚卸高」を計上する。
《月末年月日》 BS:商品 / PL:期末棚卸高
BS:製品 / PL:期末棚卸高
BS:半製品 / PL:期末棚卸高
BS:原材料 / PL:期末材料棚卸高
BS:仕掛品 / PL:期末仕掛品棚卸高
この仕訳を、期首第2月月末から第11月月末まで、毎月月末に行う。
7.期末棚卸高の仕訳
期末を迎えると、期末の実地棚卸を行い、その結果を文字どおり期末棚卸高に計上する。
それによって「期首棚卸高+期中仕入高-期末棚卸高」という計算で、今期の売上原価が計算できる。
《期末年月日》 BS:商品 / PL:期末棚卸高
BS:製品 / PL:期末棚卸高
BS:半製品 / PL:期末棚卸高
BS:原材料 / PL:期末材料棚卸高
BS:仕掛品 / PL:期末仕掛品棚卸高
これで棚卸に関する一連の仕訳は終わる。
8.まとめ
1.~7.までをまとめると、次のようになる。
1)期首月には期首年月日で、前期末棚卸資産を期首棚卸高に計上する。
以後「期首棚卸高」という科目は使わず、期首棚卸高をフィックスする。
2)期首月末には月末在庫をBSの棚卸資産とPLの期末棚卸高に計上する。
3)期首第2月から第12月(期末月)までは、月初に月末棚卸高である期末棚卸高を棚卸資産を相手科目に一旦ゼロにする。
4)月末にはあらためて、BSの棚卸資産とPLの期末棚卸高に月末在庫を計上する。
③棚卸資産のリスク
棚卸資産管理をいい加減にしていると、どのようなリスクが生じるのか?
1.二重帳簿を誘発
まず考えられることは、棚卸資産の仕訳をいい加減にしていると、本当の利益が計算できない。
したがって、必然的に二重帳簿を誘発する。
何故なら、形式的な会計帳簿では経営状況がわからないので、必然的に何らかの別の帳簿かメモが必要となるからである。
2.デッドストックによる不良在庫の発生
結局、在庫状況を把握していないので、売れ残りが生じやすくなり、それらがデッドストックとなる。
それらがさらに在庫管理の妨げとなり、やがては「不良在庫」を発生させる。
3.売上原価を高くする
売れ残りがデッドストックとなって廃棄処分をすれば、それらの仕入代金は売上原価に計上されているので、
結局は売上原価を高くする。
それが常習化すると『収益構造』が悪くなり、それが赤字経営の温床となる。
4.粉飾につながりやすくなる
帳簿上の在庫を増やせば、帳簿上の原価が下がることを気づき、ついついそれが赤字経営に対する安直な粉飾に繋がっていく。
このように、棚卸資産はさまざまなリスクを呼び出す要因がある。
したがって、正しい棚卸資産管理を行うことがリスクヘッジとなるわけです。
棚卸資産の管理は不良在庫、赤字経営、粉飾決算などの『リスクヘッジ』となる!