710.簿記の仕組み⑨ 特殊な仕訳 貸倒れ

2025年6月8日

3 特殊な仕訳

 ここまでの仕訳の説明で、90%~95%の仕訳はできる。

 しかし、あと少し、より経営を安定に運営するために、あるはより経営状況を正確に把握するために、

 特殊な仕訳がいくつかある。

 ここからはそれらについて紹介していこう。

 その最初は『貸倒引当金』だ。

 

(1)貸倒引当金とは

 得意先の突然の倒産などによって、売掛金や受取手形の売上債権が回収できなくなることは、どの企業でも起こり得えることだ。

 『貸倒引当金』とは、そんな突然のリスクに備え、あらかじめ一定の基準で売上債権が回収できなくなることを想定し、その額を

 流動資産から除外しておくことで、安全な経営が執行できるようにする仕組みだ。

 そのような訳から、貸倒引当金は流動資産のその他流動資産にマイナス項目として表示され、その額を動資産資産合計から除いて

 経営判断できるようになっている。

貸倒引当金はリスクに備え、流動資産にマイナス表示されている!

 

 なお、この貸倒引当金制度は大法人では適用できないが、中小企業にはその保護を目的に適用できるようになっている。

 その意味では、貸倒引当金は中小企業を保護するための制度といえる。

貸倒引当金は中小企業を守るための制度である!

 

 

①貸倒引当金の仕訳

 1.設定・繰り入れる(増やす)とき

 たとえば、貸倒引当金を50万円と見積もり、50万円を繰り入れるときには、次のような仕訳をする。

  貸倒償却  50万円     / 貸倒引当金   50万円

  →販管費の「貸倒償却」に50万円計上するとともに、流動資産のマイナス科目である「貸倒引当金」にも50万計上する。

 なお、すでに貸倒引当金を設定している場合で、増加させる場合も増加させる金額だけを同様に仕訳をする。

 2.繰り戻す(減らす)とき

 たとえば、貸倒引当金を10万円と見積もったが、すで貸倒引当金を30万円計上しているので20万円減額したいときは、

 次のような仕訳をする。

  貸倒引当金  20万円     / 貸倒償却   20万円

  →「貸倒引当金」は流動資産のマイナス科目なので、この仕訳で20万円が減額され、販管費の「貸倒償却」も20万円減る。

 3.実際に貸倒れが起こったとき

  1)貸倒引当金内の売掛金が貸倒れたとき

  たとえば、売掛金20万円が貸倒れたが、貸倒引当金を30万円引当てている場合は、次のような仕訳をする。

   貸倒引当金  20万円     / 売掛金    20万円

   →「貸倒引当金」は流動資産科目のマイナス科目なのでこの仕訳で20万円が減額され、同時に売掛金も20万円減る。

  2)貸倒引当金以上の売掛金が貸倒れたとき

  たとえば、売掛金50万円が貸倒れ、貸倒引当金は30万円しか引当てていない場合は、次のような仕訳をする。

   貸倒引当金  30万円     / 売掛金    30万円

   貸倒損失   20万円     / 売掛金    20万円

   →「貸倒引当金」を超えた分は、営業外費用「貸倒損失」として20万円計上する。

 

 

②貸倒引当金の見積もり方

 では、そんな貸倒引当金をどのように見積もればよいのか。

 経営者の判断だけで好きなだけ計上することは、会計ルール上認められていない。

 基本的には、次の算式で『貸倒引当金』を見積もる。

 貸倒引当金の見積=売上債権の期末残高×設定率

 

 なお、設定率とは、「過去3年間の貸倒損失発生額」に基づいて計算することになっている。

 しかし、中小企業の場合は業種ごとに「法定繰入率」の特例があるので、それによって設定すればよい。

  《中小企業の法定繰入率》

  1.製造         1000分の 8

  2.卸売及び小売・飲食  1000分の10

  3.金融・保険      1000分の 3

  4.割賦・信用斡旋    1000分の13

  5.その他        1000分の 6

 

貸倒引当金の設定でリスクヘッジができる貸借対照表となる!