63.財務体質の改善方法

2010年10月2日

前回は総資産、総資本について説明しました。今回はそれらを財務体質の改善に活かす方法を紹介します。

1.財務体質の改善とは
例えば、A社は次のような期末貸借対照表であったとします。 (単位:円)
<資産の部>       <負債・純資産の部>     <主な経営分析>
現金     100,000  買掛金     1,000,000 ・手元流動性    900千円
預金     500,000  短期借入金   2,000,000 ・手元流動性比率  0.77ヶ月
売掛金   1,500,000  他の流動負債   500,000 ・当座比率       68.5%
有価証券   300,000  流動負債    3,500,000 ・流動比率      114.2%
当座資産計 2,400,000   ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ・固定比率      280.0%
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄  長期借入金   3,000,000 ・固定長期適合率   93.3%
棚卸資産  1,100,000  役員借入金   2,000,000 ・自己資本比率    22.7%
他の流動資産 500,000  固定負債    5,000,000 ・ギアリング比率   200.0%
流動資産計 4,000,000   ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ・売上債権回転期間  39.1日
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄  負債合計    8,500,000 ・棚卸資産回転期間 28.6日
固定資産  7,000,000  資本金     3,000,000 ・買入債務回転期間 26.0日
==========  繰越利益剰余金 △500,000 ・運転資金要調達高1,600千円
総資産   11,000,000  純資産     2,500,000 ・運転資金要調達率  11.4%
============= ・借入金対月商倍率 4.3ヶ月
総資本     11,000,000 ・預金対借入金比率  10.0%
*年間売上高14,000,000 *平均月商1,160,000 *1日当たりの売上高38,500

かんたんな経営分析をすれば右端のようになります。問題はここからです。ます第一歩は簡単な経営分析をして、「自社の状況をどう読むか」です。上か順番に見ていきましょう。
(1) 手元流動性
90万円、月商の僅か0.8ヶ月分程度しかありません。かなりの自転車操業のようです。ここは課題としてピックアップしましょう。
(2) 資金の使い方
これは当座・流動・固定・固定長期適合の各比率で見ます。これらを見ると返済期間の短い資金(流動負債)は、資金化しやすいモノ(当座資産・流動資産)で使われており、少し流動比率は低いようにも思いますが、まずまず問題は無いと判断します。
(3) 資金の回収と効率性
これは回転期間で見ます。まず、売上債権回転期間。39.1日、一般的にはそう悪くない回収期間ですが、しかし、A社は年商1,400万円程度の小さな会社です。かつ手元流動性も少ない会社です。会社の規模から言えば、もう少し回収を早めなくてならないでしょう。まして、手元流動性が少ないのですから。
次に棚卸資産回転期間。28.6日です。やはり規模から考えれば多いですね。もっと小回りを利かして、在庫を減らすべきでしょう。減らすためにはもっと顧客のことを真剣に見つめて、顧客ニーズを把握する努力をする必要もありそうです。
最後に買入債務回転期間26.0日。これはこの状況を維持するとともに、出来るのであれば仕入先に常にお願いし、少しでも伸ばせるのであれば伸ばしてもらいましょう。
(4) 運転資金
販売活動を支障なくしていくためには、あと160万円ほど運転資金が必要です。それに対して手元流動性は90万円、何とかせねばなりません。また、A社もまだまだ売上を伸ばす気でいるのでしょから、その際に気をつけなければならないのが、売上が伸びだした当初はそれだけ運転資金が余計に必要になるということです。A社の場合は運転資金要調達率が11%です。つまり、100万円売上が伸びれば、11万円ほどの運転資金が必要になるということです。ここも注意する必要があります。
(5) 借入の状況
借入金の月商倍率は4.3ヶ月。まだ悪くありませんが、ギリギリのところですかね。借入先は基本的に金融機関になります。問題は金融機関がどう見るかです。金融機関の姿勢を知ることは簡単です。融資商品の条件を見れば、それぞれ金融機関の姿勢が分かります。条件はその金融機関の見方です。例えば、「赤字企業でないこと」と書いてあれば、赤字企業のことを良くは思っていないということです(当たり前ですが)。しかし、「良く思っていない」と「貸さない」とは別物です。申込する側としては、良く思っていないのですから、それを改善する計画を持って交渉する必要があるということです。A社の場合は繰越損失も僅かですし、借入金月商倍率も4ヶ月ですから、まだまだいざという時は融資を受けられるチャンスはあると言えます。ただ、預貸率(預金対借入金比率)も低いので、手元資金を多くする必要があります。

2.改善事項の意思決定
以上のことから、次のようなことを改善事項として意思決定しました。①手元流動性を増やす。②売上債権回収期間を短縮する。③棚卸回転期間を短縮する。これが第二歩となります。

3.解決策
第三歩は改善事項の解決策です。どのような方法論を持って改善するかです。
(1) 手元流動性を増やすためには
根本的には売上を増やすことです。A社では売上を増やすために、来期からインターネットショップサイトを開設することにします。
(2) 売上債権回転期間を短縮するためには
A社では来期からの取引に関しては入金期限を5日早めることにしました。また入金期日の前に、入金期日が近づいてきた旨をe-メールで事前に案内することにしました。さらに期日になっても入金がない場合は、すぐに連絡を入れて支払期日を確認することにもしました。さらにその期日に入金がない場合には担当者が得意先に行くことにしました。それでもない場合は社長と行くことにしました。このように回収に関しては5段の構えを持って短縮することにしました。
(3) 棚卸資産回転期間を短縮するために
まず、在庫化している商品についてはすぐに特売などを実施し、一掃することにしました。また来期からは仕入の回数を増やし、1回当たりの発注量を少なくしました。さらには適正在庫量を定めて、それを超える場合は早いうちから処分できる体制を作りました。

4.PDCA
第四歩は決めただけでは改善できません。そう、実行しないと成果には結び付かないのです。さらに計画とおりの成果を出すためには、PDCAマネジメントを実行する必要があります。つまり、計画(P)を立て、行動(D)し、計画と行動結果を検証(C)し、その差異を是正するための打ち手(A)を講じ、PDCAマネジメント・サイクルを回していくわけです。

このような結果、売上高は10%と伸び、売上債権回転日数は28日となり、棚卸回転日数も15日となり、それに連れて買入債務回転日数も20日となりました。結果はどうなったでしょうか?
翌期のA社期末貸借対照表 (単位:円)
※但し、単純モデル化するために、P/Lの売上原価、販管費は同額であったとし、かつB/Sもその他は変わらないとします。
<資産の部>       <負債・純資産の部>     <主な経営分析>
現金     100,000  買掛金      854,000 ・手元流動性   2,917千円
預金    2,517,900  短期借入金   2,000,000 ・手元流動性比率  2.27ヶ月
売掛金   1,195,600  他の流動負債   500,000 ・当座比率      122.6%
有価証券   300,000  流動負債    3,354,000 ・流動比率      156.6%
当座資産計 4,113,500   ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ・固定比率      179.4%
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄  長期借入金   3,000,000 ・固定長期適合率   78.6%
棚卸資産   640,500  役員借入金   2,000,000 ・自己資本比率    31.8%
他の流動資産 500,000  固定負債    5,000,000 ・ギアリング比率   128.2%
流動資産計 5,254,000   ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ・売上債権回転期間  28.0日
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄  負債合計    8,354,000 ・棚卸資産回転期間  15.0日
固定資産  7,000,000  資本金     3,000,000 ・買入債務回転期間  20.0日
==========  繰越利益剰余金  900,000 ・運転資金要調達高 982千円
総資産   12,254,000  純資産     3,900,000 ・運転資金要調達率   6.3%
============= ・借入金対月商倍率 3.8ヶ月
総資本     12,254,000 ・預金対借入金比率  50.3%
*年間売上高15,400,000(110%UP) *平均月商1,283,300 *1日当たりの売上高42,700

5.驚くべき成果
さて、1年後、どうなったでしょうか?結果は驚くべき成果となって現れました(モデル化しますのでちょっと単純過ぎますが、その要素に間違いはない)。
(1) 手元流動性
約200万円ほど増え、手元流動性比率も2.27ヶ月と、もう自転車操業の影すらなくなりました。
(2) 資金の使い方
当座比率は100%を超え、まったく問題はなくなりました。固定比率は179%とまだ改善の余地はありますが、固定長期適合率は78%と固定資産の調達資金も落ち着きました。
(3) 資金の回収と効率性
売上債権回転期間、棚卸資産回転期間が短縮できた分、手元流動性が増えました。またその影響で買入債務も減り、流動負債を減らしました。
(4) 運転資金
資金の回収と効率性の関係から運転資要調達資金も小さくなりました。手元流動性は増えましたので、運転資金はかなり楽になりました。
(5) 借入の状況
借入金月商倍率も3.8ヶ月に若干好転し、何よりも預貸率(預金対借入金比率)が改善されました。さらに繰越利益剰余金もプラスに転じましたので、これであれば、いざという時の融資申し込みも堂々と行えます。

『会計力』が経営を改善する
どうですか、会計からのマネジメントで経営が大きく変えられることがお解りいただけたかと思います。このように『会計力』が経営を大きく改善します。日本経済は中期的に間違いなく好転します。したがって経済成長率も年率3~4%にはなると思います。但し、以前のような高度経済成長時代は迎えませんし、大事なことはすべての企業が好景気に沸くことはもうありません。努力する企業、過去の延長線を断ち切った企業だけが成長する時代となります。
会計は決算・申告のためにするものという感覚はもう過去の感覚なのです。これからは会計に基づいて経営管理をする時代であり、経営に活かせる会計をする時代なのです。