43.かんたん経営計画①P/L

2010年3月26日

財務分析解説コラム(27)
かんたん経営計画-利益計画書の立て方-

先行き不透明な時代、経営計画は大切です。よく言われる言い方ですが、経営計画は会社にとって来期の航海図です。かといって、書籍やインターネットで説明されている経営計画書の作り方ではちょっと大変と思われた方も多いのではないのでしょうか。ましてソフトを利用してまで作ることもない。
そこで今回からは、簡単な経営計画書の作り方をご紹介します。その第1回目は利益計画書です。

1.利益計画書ってなに?
利益計画書とは損益計画書のことです。あくまでも目標利益を計画的に達成するために策定するので損益計画書とは呼ばずに、利益計画書と呼びます。では、どのように作ればよいのでしょうか。

2.利益計画書は下から作る
抽象的な表現ですが、下から作るとは、来期の目標利益から作るということです。つまり、「売上高-(原価+経費)=利益」という差引した結果が利益、残ったものが利益という考え方ではなく、「売上高-利益=(原価+経費)」という考え方です。あくまでも利益計画なのです。では、目標利益はどう考えればよいのでしょうか?

3.目標利益の考え方
目標利益は今期や前期などを考慮して、「来期はこの目標利益額にしよう!」と考えることも、まったくおかしくないと思います。もちろん、それでもOKです。あるいは、自社の利益トレンドを鑑みて「来期は倍増!」などと考えることもいいかと思います。
もう一つの考え方は、会社の外に出る資金(社外流出資金といいます)を賄おうという考え方です。社外流出資金とは借入金返済額や役員賞与、配当金、利益準備金、積立金などから減価償却費を差引きしたものです。一般的には、借入金の年間返済額に役員賞与を加え、そこから減価償却費を引いたものとなります。それに実効税率で税引き前に戻します。次のような計算式となります。
社外流出資金  =借入金返済額+役員賞与+配当金+利益準備金+積立金-
減価償却費

簡略社外流出資金=借入金返済額+役員賞与-減価償却費
目標経常利益  =社外流出資金÷税負担率
例えば、借入金返済額が月額20万円であれば、年間240万円です。役員賞与を300万円取る予定で、年間減価償却費が100万円であれば、社外流出資金=240+300-100=440万円となります。実効税率はおおよそ40%程度ですから、目標経常利益=440÷0.4=1100万円となります。

4.売上高はどう考える
売上高に関しては、例えば、SWOT分析から入り、商品・市場戦略(市場浸透・新市場開拓・新商品戦略・事業領域の拡大等々)を考えたり、マーケティング・ミックス(製品・価格・販促・流通経路など)を練ったり、プロダクツミックス(取扱商品の組合せ)で利益の最大化を図るなどありますが、ザックリと昨今の状況を踏まえて、現状維持なり3%アップなどでもよいかと思います。ここでは仮に22000万円とします。

5.原価はどうする
原価は原則、金額で考えるのではなく、売上原価率で考えます。例えば今期は72%であったので、なんとか抑えて70%にするとかです。できれば2%を下げる方策を併せて考えるとベターですね。70%であれば、売上原価は15400万円となり、差引き、自動的に売上総利益も6600万円に決定されます。

6.経費は
すると経費も決まります。目標利益が1100万円なので、総経費は5500万円となります。これで終わりかと思えば、もう少し検討しましょう。そう、総人件費(給与・賞与・福利厚生費)とそれ以外の経費の確認です。総人件費は労働分配率を利用します。労働分配率とは売上総利益に占める総人件費の割合です。例えば、今期が58%であれば、なかなか昇給が難しい時代ですが、しかし社員の皆さんの士気向上も考慮して60%に決めたとします。すると総人件費=6600×60%=3960万円となります。残り1540万円がその他経費額となります。仮に今期、1700万円であったなら160万円経費を削減するということになります。この2640万円を総人件費を除く、各経費に割り振ることになり、具体的な削減策も考えます。
これで目標利益1100万円を確保するための利益計画が出来上がりました。

7.最終フレームワーク
※数字は丸めています。
これまでのことをまとめると、次のような利益計画になります。
[項 目] [金   額]  [意 思 決 定]     [参考:今期]
売上高   22000万円 ⇒3%アップさせる     今期21360万円
売上原価  15400万円 ⇒2%ダウンさせる       15380万円
売上総利益  6600万円                  5980万円
総人件費   3960万円 ⇒分配率2%アップさせる     3470万円
その他経費  1540万円 ⇒160万円削減する       1700万円
目標利益   1100万円                   810万円
どうですか、簡単にできましたね。このような作り方がベストだとは言いませんが、いままで利益計画を作っていないのであれば、まずはこの程度から始めればどうでしょうか。徐々にマネジメントが進化するれば、さらに理詰めな利益計画を作ればよいと思います。ともかく、これからはどんぶり経営はできません。ぜひ、できる水準から作りましょう。

8.月々はどう展開する
実績対比上、あまりかけ離れた月次目標も良くありませんから、今期の季節指数で月次展開をすればどうでしょうか。季節指数とは、月次実績÷年間実績のことです。おかしな季節指数とならないためには、発生主義による正しい月次決算を大切となります。
あるいは月次統制力という観点からは12分の1で割り振るというのも、一つの見識ある考え方だと思います。例えば売上高を例に説明すれば、昨年の実績に基づく割り振りよりも、「毎月1850万円の売上を目指す」と社内全体で捉えた方が目標がシンプルに明確になります。同様に経費も「毎月125万円以下に抑える」と浸透させたほうが抑制力もつきます。私はどちらかと言えば、後者をお勧めします。

時代の潮目、新しい時代を迎えようとしていると何度か申しあげてきましたが、換言すれば「企業は継続なり(going concern)」と言いますが、生命にも限りがあるように、そもそも企業を永続させること自体が大変なことなんだと思います。その上に現代はグローバル化やフラット化、国内においては少子高齢化、成熟社会化などさまざまな因子がこれまでにないスピードで世の中を変革させていっています。
大変厳しい経営環境であることは間違いないことですが、しかし大チャンスのときでもあります。つまり環境・ルールが変わっているのですから、どの会社も新たなスタートラインに立っているということです。チャンスだといってすぐに自社のおかれている状況は変わるものではありませんが、『強い意志』を持って努力することがいま大切なのだと思います。決算書や月次試算表はその羅針盤になります。決して決算・申告、税務署や銀行のためにあるのではありません。自社のためにあるのです。それを読みこなすことによって自社診断と未来判断ができ、さまざまな『KAIZEN』の方策を提示してくれます。中小企業も大企業と同様の経営心を持って経営に当たることが重要だと思います。
ぜひ、自社にちょっとした『チェンジ』というスパイスをふりかけましょう。
次回もお楽しみに・・