29.事業収益力②自己資本利益

2009年12月12日

財務分析解説コラム(13) 当社事業の収益性を検証する -自己資本利益率-
今回は会社事業の収益性を検証する財務分析の第2回目、『自己資本利益率』について説明します。

自己資本利益率とは
『自己資本利益率』とは、「自己資本に対してどれだけの利益、つまりリターンがあるか」を見る指標です。前回も言ったように事業目的はそれぞれ色々とありますが、その事業目的を果たすために「利益を稼ぎ出し事業を継続させていく」ことは共通の必要事項です。『自己資本利益率』では、『当期純利益』(会社の最終利益、5つめの利益でしたね)と比較して算出します。なお英語では、ROE(Return on Equity)と言います。計算式は次のとおりです。
計算式:自己資本利益率 = 当期純利益 ÷ 自己資本

自己資本利益率の見方
(1)自己資本利益率を分解してみる
『自己資本利益率』の計算式を詳しく噛み砕くと、『売上高純利益率』(当期純利益÷売上高)、『総資本回転率』(売上高÷総資産)、『財務レバレッジ』(総資産÷自己資本)といった3要素に分解することができます。つまり、次のとおりです。
自己資本利益率=当期純利益÷自己資本
=(当期純利益÷売上高)×(売上高 ÷ 総資産)×(総資産 ÷ 自己資本)
売上高純利益率   総資本回転率    財務レバレッジ
分解した式では、途中の『売上高』と『総資産』はそれぞれ分子分母で消すことができます。結局、当期純利益÷自己資本となり、つまりは『自己資本利益率』となります。ということは、仮に『自己資本比率』が低い場合は、『売上高純利益率』が悪いのか、『総資本回転率』が悪いのか、『財務レバレッジ』が悪いのか、悪化原因の要因分析ができることになります。
(2)定期預金の金利が最低目標
いま1年定期預金をすれば、元金の額と金融機関によって違うのでしょうが、だいたい0.5%~1.0%程度の利息がつくかと思います。であれば事業をしているのですから、『自己資本利益率』は最低でもそれ以上欲しいところです。もし、『自己資本利益率』が1年定期預金金利より低いならば、事業で供している自己資本を定期預金で運用した方が「利回りが良い」ということになります。
(3)評価は時系列比較・計画値比較・同業他社比較
定期預金の金利が最低目標だとすれば、評価の基準は一体何なのでしょうか。それは前回も説明したとおり、一つは前年などの時系列比較になります。次には同業者比較ということになります。ちなみに、『業種別の総資本営業利益率及び総資本経常利益率』は次のとおりです(中小企業庁「中小企業の財務指標」より)。さすがに1年定期預金金利以下という業種はありません。
◆自己資本利益率
①建設業4.2% ②製造業6.7% ③情報通信業8.2% ④運輸業6.0%  ⑤卸売業5.8% ⑥小売業4.9% ⑦不動産業8.9% ⑧飲食宿泊業5.7% ⑨サービス業7.0%
しかし何といっても、一番重要な基準は計画値です。計画は当期に入る前に、経営環境や内部的な事情などを考察して立案した目標値です。「今期はこの計数目標で行こう!」と会社として意思決定した数値です。もし、この目標値と実績が乖離しているということは、当期前に想定した以外の色々なところに想定外の問題が発生していることになります。よく、経営計画は航海図になぞらえられます。つまり目標値と乖離していると言うことは、日本を出港してアメリカを目指していたのに、メキシコやカナダに向かって航海しているようなものです。当然、それを確認したときは懸命に航路を変更しますよね。確認することが評価であり、航路を変更することが改善策に当たります。

自己資本利益率を改善するには
(1)改善の考え方
『自己資本利益率』を改善するためには、先ほど分解してみたように、『売上総利益率』を改善するか、『総資本回転率』を改善するか、『財務レバレッジ』を改善するかになります。基本的にはその3要素のうち、どれが悪くなって『総資本回転率』が悪化したのか原因究明し、それを改善することが第一の策となります。それでも改善しきれない場合は、他の改善策を講じて何とか『目標自己資本利益率』に到達するように考えます。
このように「財務分析」は改善の具体策は示せませんが、改善の方向性を示してくれます。このことは、時代の変革期にある現在にあって強い会社をつくるためには、非常に重要な経営手法です。
(2)具体的な改善策
-1.当期純利益を改善する
売上高が早々改善できないならば、利益を増やすには、「売上原価を抑える」「経費を抑える」と言うことになります。売上原価を抑える方法でいまよくとられている方法は「内製化」です。あるいは「流通経路の短縮化・ショートカット」です。さらには在庫管理を見直し「不良在庫をなくす」ことです。改善の方向性がわかれば、具体策はたくさんある筈です。また、経費に関しては何度も書いていますが、「少額でも節約することは節約する」ということです。この節約・節減ということに関しては、大企業ほど驚くほどこまめに実施しています。中小企業は逆にそこまで着手していません。その理由は節約を金額で考えているからではないかと思います。節約はパーセントで考えるべきです。そうすればコスト体質改善に対する効果の大きさがわかる筈です。また中小企業は組織が小さいので、すぐに取り掛かれる強みを持っています。しっかりしたコスト意識を持ってあたれば、売上原価率の改善・経費率の改善はまだまだできる筈です。
-2.自己資本を減らす
『自己資本利益率』が悪化している状況で、自己資本を減らせる会社はあまりないと思いますが、ひとつの方向性としてはそういうことになります。もし、利益準備金や別途積立金があれば、取り崩しを考える必要があります。資本金が1000万円超の場合は、減資ということも検討される必要があります。1000万円以下にすることによって税金を減らすことができます。また営業所の数によってもその影響を受けています。営業所の見直しも重要な観点です。
-3.売上高を増加させる
売上改善はすぐに成果は出てこないかもわりませんが、逆に言えば、それだけに早くから売上改善に取り組む必要があります。第1に、安易な値引き、値引きの常態化はありませんか。売上値引きの統制はどうされていますか。第2に新しい販路はありませんか。第3に価格政策はどうですか。第4に小売業の場合であれば店の清掃や商品陳列、お客様の接客はどうですか。ここはよく売れている、がんばっておられるというお店とそうでないお店を比べればそれは一目瞭然です。それは皆さんも日常の中で、よく目にされていますよね。このことは何も小売業に限りません。製造業でも卸売業でも、がんばっている会社とそうでない会社では事務所の整理のされ方が全然違います。また、来客に対する対応も、電話応対も全く違います。意外と売上を増やすには、方法論よりもこの辺のところに根本的な原因があるように思います。
-4.総資産を洗い出し見直す
『総資産』は極力、スリム化されていることが良いとされています。スリム化と言えば、『固定資産』が頭に浮かび、もちろん遊休資産や不良資産があれば整理をされるべきです。また中小企業で多いのは、『棚卸資産』と『売掛金』です。『棚卸資産』の中にはデッドストックやその予備軍がありませんか。予備軍はデッドストックになる前に処分しましょう。デッドストックは廃棄しましょう。そして『売掛金』、本来、貸倒償却しなければならない『売掛金』はありませんか。長期未回収の『売掛金』はありませんか。すぐチェックしましょう。

このように「財務分析」によって問題が分かると同時に、改善の方向性はわかります。具体的解決策は社長ご自身が一番分かるのでしょうから、具体的な対処方法を決め、あとは実践するのみです。それらを客観的に見てもらいたいとか、確実に実践していくために進捗管理を外部に依頼したいと言うことであれば、会計事務所を活用するとか、コンサルタントを活用するとかという方法もあります。
ともかく時代は変わっっています。これまでのその場、その場凌ぎの対処療法ではなく、「会計資料」という自社の診断書を読みこなし、自社の症状を発見し、その処方箋を明確にして実行していくことが根本的に重要です。「会計資料が読めない・読まない」ということは、そこに経営の危機が迫っているのに気づくことすらできず、表面化したときには「倒産」という憂き目に会うことです。
時代は違っているのです。自社にちょっとした「チェンジ」というスパイスをふりかけましょう。
次回もお楽しみに・・