462.会計で経営力を高めるシリーズ 純資産

2020年5月3日

第12回会計で経営力を高めるシリーズ『純資産』

さて、ここまで、資産から負債へと説明をしてきましたが、「貸借対照表」最後の説明は「純資産」です。

少し以前までは「資本」と呼ばれていましたが、それだと自己資本も他人資本もありますので、現在では「純資産」という呼び方に

統一されています。 今回は、そんな「純資産」について説明します。

 

1 純資産とは

純資産とは「自己資本」のことですが、その算出の仕方は資産と負債の差額、つまり、「純資産=資産ー負債」で求められます

決して自己資本を加算して計算されたものではありませんから、必ず、資産と負債・純資産合計は一致し(資産=負債+純資産)、

よって、貸借対照表のことをバランスシート(Balace Sheet)と呼ばれます。

では、純資産にはどのような項目があるのでしょうか。

 

2 純資産の項目

純資産は、「株主資本」と「評価・換算差額金」及び「新株予約権」の3つに大別されます。

(1)株主資本とは

株主資本とは、株主からの出資金です。

上場企業や大企業であればいろいろな人や組織が株主になりますが、中小企業の場合は一般的に経営者のみです

つまり、中小企業には投資家などの利害関係者はいません。ですから、上場企業・大企業の会計資料の読み方と中小企業の会計資料

読み方は大きく異なります

一般の会計書籍は、上場企業や大企業の経営者や社員に向けて書かれていますので、中小企業者にとってはあまりピンとこないし、

なんだか難しいし、「煙に巻かれたようであまり実務には役に立たない」という理由がここにあります。

株主資本は、資本金、資本剰余金、利益剰余金、自己株式などから構成され、「繰越利益剰余金」は利益剰余金の中の一部です。

 

(2)評価・換算差額金とは

評価・換算差額金とは、株式などの有価証券について、購入した時の価値と現在の価値の差額です。

中小企業ではほとんど使いません。

 

(3)新株予約券とは

新株予約権とは、あらかじめ決められた価格で株式を取得できる権利のことをいいます。

これも中小企業ではほとんど使いません。

 

中小企業で必要な純資産項目は、基本的に株主資本の「資本金」と「繰越利益剰余金」だけ!

 

 

3 純資産の読み方

純資産は、会社の資産の中でも最も大事な資産なのですが、あまり顧みることはされない資産です。

しかし、会社は総資産が多いからよいのではありません。

確かに、総資産は会社の規模や大きさを示す一つの指標ではあるわけですが、企業経営体質的な良さを示すものではありません。

企業経営体質的な良さや安全性は、「純資産の多さ」と「手元資金の豊富さ」に依存することを忘れないようにしましょう。

 

企業経営体質の良さと安全性は「純資産の多さ」と「手元資金の豊富さ」!

 

 

そこで「純資産」をどう読むべきか?! それは次の3点にまとめられます。

(1)純資産が多いか、少ないか

純資産は先ほど説明したとおり、「資本金」と「繰越利益剰余金」です。

資本金は基本的に会社設立以来不動ですので、純資産の増減は繰越利益剰余金によってもたらされます。

繰越利益剰余金とは、毎期毎期の当期純利益の積み重ねです。

つまり、毎期毎期、黒字経営を続けることが、純資産を多くする秘訣なのです。

ごく平凡な結論かもわかりませんが、なかなかこれを続けられる会社は少ないのです。

 

会社の健全性は「黒字経営」という凡事徹底を続けること!

 

 

なお、繰越利益剰余金がマイナスとなり、資本金を超えた状況を「債務超過」といいます。

債務超過とは、総資産より負債が多いことを指しており、仮に総資産も負債も同じ価値基準だとすれば「借金分の財産さえない!」

という状況です。

 

(2)純資産をどのくらい手元資金で持っているのか

いくら純資産が豊富にあっても、それがすべて設備などに回り、手元資金がなければ、非常に安定性のない経営と言えます。

今回のコロナ感染拡大の影響による中小企業の状況を考えると、よく理解できるかと思います。

手元資金さえ豊富にあれば、2カ月、3カ月の休業でも、従業員に賃金は支払えて事業は継続できるのです。

したがって、純資産のある程度は手元資金として持ちたいものです。

理論的には自己資本比率を50%確保したうえで、純資産額の50%程度は常に手元資金として持ちたいものです。

 

(3)純資産の利益率(ROE)はどれくらいか

「ROE」はよく一般の会計書籍に出てくる用語です。それに似た用語として「ROA」という用語もあります。

ROEとは、Return(リターン:期待される収益) On Equity(エクイティ:株主資本))の略で、

自己資本の収益「自己資本利益率」という意味です。

この指標はもともと株式投資をしている利害関係者がいる場合、株式投資家にとっては重要な指標ですので、

その関係で経営者にとっても関心を持つべき重要な指標になっています。

しかし、中小企業には投資家などの利害関係者はいませんので、そのような関心は不要です。

またあまりにも自己資本額が少ないのですので、それによって利益率を図ったところであまり意味はありません。

それよりも関心を持つべきはROAです。

ROAは、Return On Assets(アセット:資産)の略で、資産の収益「総資産利益率」という意味です。

事業とは、雇用と納税が究極的な目的といえますが、そのためにも稼がなくてはなりません。

その意味でROAに関心を持つことは重要です。

ROAは理想としては20%程度は維持したいものです。

 

 

 

このようなことを考えながら会計をすると、会計で会社を徐々に強くできます。

いかがでしょうか、会計は意外と楽しいもので、経営に役立つものだと思われませんか。

少しでもそのように思われてきたのなら、それだけ貴社の経営力が高まって来ていることを示しています。

会計を楽しみながら、荒波に強い会社になるよう取り組みませんか!?