570.リスクヘッジ仕訳 他の引当金

2022年6月19日

再更新日:2022.07.20

会計には経営をリスクから守る仕組みがあります。そのことを「リスクヘッジ」といいます。

リスクヘッジとは、起こりうるリスクをある程度予測し、そのリスクに対応できる体制をあらかじめ取っておくことです。

会計には次のような仕組みがあります。

 1.資金の調達と資金の運用の面から企業の財政状況を貸借対照表として明らかにする

 2.資金の源泉と資金の使途の面から事業の損益状況を損益計算書として明らかにする

 3.損益計算書の当期利益を貸借対照表の繰越利益剰余金に組み込みB/SとP/Lを結び付ける

 4.引当や償却・棚卸などの特殊な仕訳をすることで、健全な経営を執行するためのリスクヘッジをする

このような仕組みで会計は企業を健全な経営に導くようにしています。

 

今回から数回に渡ってそんな会計の仕組みを『リスクヘッジ仕訳』と題してわかりやすく説明します。

その第2回めの今回は前回の貸倒引当金に続いて、『他の引当金』です。

 

1 引当金とは

(1)引当金とは

引当金とは、将来ある程度費用や損失を支出する可能性が高いと予測できる場合、

その金額をあらかじめ見積もって計上しておく科目です。

その科目は、貸倒引当金であれば貸借対照表の「資産の部」のマイナス項目として、

その他の引当金であれば「負債の部」に表示されます。

 

(2)さまざまなリスクに備える

会社経営を行う上ではさまざまなリスクが生じる可能性があります。

引当金はそんなリスクに備えて、将来突然的に発生するかもしれない費用や損失をあらかじめ見積もり、準備しておくものです。

ただし、経営実務上で重要なことは、会計で引当金計上するだけではなく、その引当したおカネも準備しておくことです。

なぜなら、引当金はたんなる絵に描いた餅に過ぎないからです。

引当金を計上するだけでなく、それに見合うおカネを手元資金として保有しておくが大切!

 

(3)税法上の規定

しかし税法では、すべての引当金を認めてはいません。

理由は、引当金計上を自由に許すと恣意的になってしまい、「課税の公平性」というものを保つことができなくなるからです。

そこで、一定の引当金については、繰入額である見積費用の損金算入を認めるということになっています。

なお、引当金については課税の公平を保つ観点から、以下の要件をすべて満たす必要があります。

 1.対象が将来の費用または損失であること

 2.その発生可能性が高いこと

 3.発生原因が当期以前の事象に起因していること

 4.その費用または損失の金額を合理的に見積もることができること

税法ではすべての引当金を認めているわけではない!

 

 

2 税務上で認められている引当金

企業会計は「正しい期間損益計算を行う」ことが一つの目的です。

この正しい期間損益を行うための「当期の収益に対応する費用の計上」という観点から、

賞与引当金や退職給付引当金などの引当金が認められています。

しかし、税務上は「課税の公平性」という観点から、原則、引当金の計上は認められていませんが、

計上できる金額の上限を設けて、一部の引当金については会社側の任意で計上することが認められています。

それが前回説明した「貸倒引当金」なのです。

税務上も認められている引当金は中小企業に対する「貸倒引当金」だけ!

 

つまり、貸倒引当金は中小企業の特権という言い方もできるものなのです。

 

 

3 引当金と準備金との違い

引当金と似ている会計用語として「準備金」というものがあります。

この両者はどう違うのでしょうか?

 

(1)準備金とは

準備金とは、将来見込まれる多額の支出や損失の発生に備えて積み立てる金額のことです。

「将来見込まれる多額の支出や損失の発生に備えて」という点では引当金に似ていますが、

引当金はその費用の見積が「当期の収益に対応するもの」であるのに対して、

準備金はあくまで「将来の収益に対応する」損失などに備えるものという点で異なります。

引当金は当期収益に対応するものであり準備金は将来収益に対応するものです!

 

準備金は、経済政策などの要請から租税特別措置法によって認められているもので、引当金とは異なり、

青色申告法人に限って認められています。

 

 

4 その他の引当金

では、その他の引当金として何があるのでしょうか。

税務上、計上が認められている引当金は「貸倒引当金」だけですが、企業会計上ではさまざまな引当金が認められています。

 

(1)賞与引当金

支給される賞与はあらかじめ支払時期や支給対象期間が労使間の協定などによって定まっています。

そのため、賞与は一定期間の経過とともに発生している費用と考えることが合理的です。

賞与は夏冬一時的に発生している費用ではなく、一定期間に渡って発生している費用なのです!

 

そこで、たとえ賞与支払が夏と冬であっても、それぞれの期間の費用として見積・引当計上しておくことが適切だと考えられます。

そのための勘定科目が「賞与引当金」なのです。

この説明は正しい期間損益計算を行うあるいは当期の収益に対応する費用の計上という観点からの説明ですが、

もうひとつ大事なことは最初に申しあげたように「引当金計上だけでなく、それに見合うおカネを保有しておく」ということです。

そうでないと資金がなく、結局、賞与資金を金融機関から借り入れることになります。

このように引当計上とそれに見合う手元資金を準備することで、自社が資金繰りに強い会社へと生まれ変われることになります。

 

それを心がければ賞与資金のための借入という、無駄な経費をかけることも無くなります。

賞与引当金の計上とともに手元資金の中で資金確保しておくことが大切デス!

 

なお、賞与引当金に関する仕訳は次のとおりです。

たとえば、1月から6月の期間に対する賞与300万円を7月に支給する場合

  【損益】 賞与 50万円 / 【流動負債】 賞与引当金 50万円

    ※解説:毎月月額の賞与引当金(300万÷6)を、賞与を相手科目として引き当てます。

  【当座資産】 賞与支給積立用の預金 50万円 / 【当座資産】 預金 50万円

    ※解説:賞与引当金を引当計上するだけでなく、その分の資金を移動させる振替仕訳です。

        こうすることで賞与資金が確保できることになります。

7月に賞与を支給したとき

  【流動負債】 賞与引当金 300万円 / 【当座資産】 賞与支給積立用の預金 300万円

    ※解説:7月に入って賞与を支給した時に賞与引当金と賞与支給積立の預金を相殺します。

 

(2)退職給付引当金

「退職給付引当金」とは、従業員退職時に支給する給付に備えて計上する引当金です。

退職一時金(退職金)や企業年金度などを利用した退職年金等までを含んで計上します。

これも賞与引当金と同様に、ある程度は資金手当てしておくことが大事です。

なお、仕訳の要領も同じです。

 

(3)工事損失引当金

工事契約に関して、損の発生可能性が高くかつその損失見込み額が合理的に見積もれる場合に、

当該損失見込み額を計上するのが「工事損失引当金」です。

損失見込み額は工事の受注時に作成する実行予算から算出します。

しかし、実行予算は受注後も設計変更や追加工事などによってその都度修正されますので、

その都度損失見込み額も見直しすることが大事です。

この考え方は、賞与引当金などと違い、貸倒引当金に近い考え方です。

 

この他にもいろいろな引当金があるかと思いますが、それらは各自でお調べください。

 

引当勘定を利用することでリスクヘッジの仕組みが導入され

同時に資金手当もすれば、あなたの企業は耐性に強くなります!

 

 

 

   このように、会計に対する理解が深まれば深まるほど、それだけ経営技術を向上させることが出来ます。

   つまり、会計のルールには、健全な経営をしていくための意味が隠されているのです。

   だから、科目の読み方や意味がわかれば、健全な経営をする道すじが見えてくるようになります。

   もう、どんぶり勘定や勘ははるか過去のもの、現代・近未来は管理会計と会計で読む力がいま問われているのです。

   会計はたのしい!