45.かんたん経営計画③B/S

2010年4月9日

財務分析解説コラム(29)
かんたん経営計画-貸借対照表計画書の立て方-

先行き不透明な時代、経営計画は大切です。よく言われる言い方ですが「経営計画は会社にとって来期の航海図」です。かといって書籍やインターネットで説明されている経営計画書の作り方ではちょっと大変と思われた方も多いのではないのでしょうか。ましてソフトを利用してまで作ることもない。
今回は、簡単な経営計画書の作り方の最終回、ちょっと珍しい、「貸借対照表計画書の作り方」をご紹介します。

1.貸借対照表(B/S)計画書って?
第1回目の利益計画書、第2回目の資金計画書というものについては、あるものだと思われ、別に違和感はなかったかと思います。しかしB/S計画書と言われると、そんなもの自体作成する必要があるのかとかあまり意識して策定できるものではないとか、どうやって作るのかとか、さまざまな疑問符が湧いてくると思います。
一般的にはパソコンソフトで利益・資金計画を作成すると、それらのデータからオマケのように貸借対照表計画が作られることがあります。しかし「オマケ」と言ったとおり、そこには貸借対照表に対する意思決定数値を入力したわけではなく、利益計画並びに資金計画上の意思決定数値を利用して作成されたものですから、そのB/S計画書を見ても「ふ~ん、このように貸借対照表は変わるんだ」程度で終わりです。
ここではそうではなく、利益計画書や資金計画書のような計数羅列的な計画書ではなく実務に役立つB/S計画書の作り方をご紹介します。

2.貸借対照表(B/S)計画書はたいへん大事
ご承知のとおり、現代は先行き不透明な時代です。新聞紙上では景気回復期に入ったと報道されていますが、皆さまの会社はどうでしょうか?私が見る限り(もちろん例外はありますが)、中小企業はそうでもないと思います。また今後、一昨年のような世界同時不況の津波が寄せればそれこそ大変という“不安感”を同時に持ち合わせておられます。
そこで大事なことは会社の財務体質を実質的に「強くする」ということです。わざわざ実質的にというコトバを頭につけたのは帳簿上の財務体質強化とは違うという意味です。決算対策と称して、決算書数値をよく見せるために会計事務所は調理しますが(それはそれで重要なことなのですよ)、ここでは書類上の財務体質強化ではなく、実態財務体質強化です。そうでないと高波や津波が押し寄せたときには会社はもちません。

3.どうやって作る、貸借対照表(B/S)計画
(1)まず財務体質の問題点・課題を掴む
B/Sからは5つの観点から財務体質を評価できます。
第1に安全性、第2に借金返済能力、第3に効率性、第4に収益性、第5に生産性の5つです。この中で現代のような先行き不透明な時代においてもっとも大事なことは、安全性と借金返済能力ですが、会社によってさまざまな課題があるかと思います。
そのためには、まず自社の財務体質の問題点・課題を掴まねばなりません。ここでは5つの指標においてザックリと説明します。
①安全性
安全性に問題があるか、ないかは、手元流動性比率と当座比率で判断します。一般的に手元流動性比率が2ヵ月分を切る場合、あるいは当座比率が100%を切る場合は課題として上げられるかと思います。
②借金返済能力
借金返済能力とは文字とおり借入金に対する返済能力があるかということと、まだ借入できる余地があるか、ないかということを言います。返済能力に関しては、債務償還年数で判断します。借入余地に関しては借入金対月商倍率や借入金対限界利益などで判断します。一般的には債務償還年数に関しては8年程度、借入余地に関しては借入金対月商倍率でいえば3ヶ月程度、借入金対限界利益でいえば年間限界利益額を超えてれば課題ありとして取り上げる必要があります。
③効率性
効率性とは回転率と言い換えられます。総資本回転率が1回を切るようでは、総資本額分の売上高をあげていないということになります。売上債権や棚卸資産、買入債務に関しては回転期間で見ます。売上債権回転期間が60日以上あれば、ちょっと回収にかかり過ぎなのではないのでしょうか。棚卸回転期間が30日を超えるようであれば、ちょっと在庫を持ちすぎなのではないのでしょうか。買入債務回転期間が売上債権回転期間より短ければ、支払が早すぎるか、仕入が多すぎるか、回収が遅すぎるか、いずれかを検討しなければなりません。
④収益性
B/Sの収益性とは総資本利益率です。これが3%を切れば、いくら低金利時代といえども、事業として問題があると思われます。
⑤生産性
生産性とは一人当たり売上高を思い浮かべますが、B/Sにおける生産性とは機械・設備などの生産性です。特に製造業においては、機械・設備の生産性が300%を切るようであれば稼働率が低いといえるかもわかりません。
(2)課題は山積、でも対処は選択と集中
上記のような考え方で課題を探ると多くの課題が抽出されるかもわかりません。現代ではある意味、それは当然のことでしょう。しかし、改善行動は集中させないと効果は上がりません。あれやこれや多くのことに取り組んでも、結局どうしてよいのかわからなくなり、収拾がつかなくなります。そこで重要なことは課題の選択と改善行動の集中です。会社経営とは不思議なもので、体と同じで一箇所が良くなれば、正の連鎖が働きます。一つ二つのことに集中して改善すれば、それらと関連することも同時に良くなっていきます。従って、選択と集中が大事です。
(3)B/Sの経営計画とは
もうおわかりでしょうが、B/Sの経営計画とは利益計画書などと違い、計数を羅列する必要はありません。むしろ、改善目標設定と言ってもよいかもわかりません。例えば、総資本利益率を1%から3%にする改善目標を設定したとします。中小企業において総資本はそう激変するものではありませんので、期末の総資本にせいぜい来期融資申込をする予定があるのであれば、それを加えて、来期の総資本とします。
仮に期末の総資本が9千万円で、来期融資を受けられるか、受けられないか、わかりませんが、1千万円の融資申込をされる予定であれば、総資本をザックリと1億円と考えます。そうすると今期は総資本9千万円に対して利益率が1%であったので、今期の経常利益は90万円であったことがわかります。来期の総資本1億円ですので、その目標利益率が3%であれば、来期の目標経常利益は300万円となります。これを前々回ご説明した利益計画の目標経常利益と組み込めば、総資本利益率3%の経営計画となります。
また売上債権回転期間を45日から35日に短縮する目標を選択したとします。そのためには約定の見直しとか、受注から請求書発行そして回収までも活動を見直すなどして、毎月定点観測を行い活動を見直します。つまり、PDCAマネジメントサイクルの見直しという形になります。

4.どうやって貸借対照表(B/S)計画を達成する
(1)貸借対照表計画の達成ためには活動を重視する
B/S計画の達成のためには行動面をマネジメントする場面が多くなります。ともかく念仏を上げただけでは改善はされません。行動を伴って、初めて成果が出てきます。
また中小企業における経営改善の阻害要因はなにかご存知でしょうか?
それは経営者の面子とプライドだと言われています。B/Sを改善するには、これまでのやり方を変えなくてはなりません。これまでのやり方を変えるためには、これまでの面子やプライドを傷つけることも多くあるはずです。そこをどのようにして成し遂げるかです。面子とプライドを捨てなさいとは言い過ぎの面もありますが、しかし、ときには拘りを捨てて、得意先、取引先等含め向かい合う必要があります。
(2)定点観測、PDCAマネジメントを実行する
こういう言い方は実も蓋もない言い方ですが、元来、計画はそのとおり達成できないものです。計画とおりできなくて当たり前です。しかしそれらを前提にしても計画達成をしなければなりません。そのためにはPDCAマネジメントを少なくとも年間12回実施することが大事です。できればその時、第三者、例えば会計事務所にも参加していただくことは重要です。
またPDCAマネジメントで重要なことはA:アクションです。計画して(P)、やってみて(D)、比べて見て(C)、打開策を講じる(A)という流れです。先ほども申しあげたとおり、計画は計画とおりできなくてある意味当たり前。だからどうするか(A)です。打ち手は次々と打つ必要があります(連続技)。
その機会は定点観測です。機会は多ければ多いほど良いと言えます。だから少なくとも年間12回と申し上げているわけです。また一般的に定点観測の機会は期末に近づけば近づくほど増やすのが常套です。期末を迎えるにあたって「どうすんだ、どうすんだ」とやるわけです。しかし落ち着いて考えてください。期末になればなるほど、残された時間は少なくなり、軌道修正をすることは困難になります。ひどい場合は法令に反して活動をする場合もあります。
ですから定点観測を増やすならば、増やす時期は最初から中盤にかけてです。これも大変重要なマネジメント手法の考え方です。

時代の潮目、新しい時代を迎えようとしていると何度か申しあげてきましたが、換言すれば「企業は継続なり(going concern)」と言いますが、生命にも限りがあるように、そもそも企業を永続させること自体が大変なことなのです。それに加え、現代はグローバル化やフラット化、国内においては少子高齢化、成熟社会化などさまざまな因子がこれまでにないスピードで世の中を変革させていっています。
大変厳しい経営環境であることは間違いないことですが、大チャンスのときでもあります。つまり環境・ルールが変わっているのですから、どの会社も新たなスタートラインに立っているということです。
チャンスだからといってすぐに自社のおかれている状況は変わるものではありませんが、『強い意志』を持って努力することがいま大切なのだと思います。決算書や月次試算表はその羅針盤になります。決して、
決算・申告、税務署や銀行のためにあるのではありません。自社のためにあるのです。それを読みこなすことによって自社診断と未来判断ができ、さまざまな『KAIZEN』の方策を提示してくれます。中小企業も大企業と同様の経営心を持って経営に当たることが重要だと思います。ぜひ、自社にちょっとした『チェンジ』というスパイスをふりかけましょう。

次回もお楽しみに・・