644.経営状況チェック おさらい

2024年1月26日

これまで8回にわたって紹介してきた『経営状況チェック』・・

今回はそのおさらいをして、その最後にしたい。

 

1 経営状況をチェックするには、決算書や月次試算表の構造を知る

事業とは、資金を集め、物品や設備に投資し、費用をかけて販売活動を行い、そして販売して、その売上と費用の差額が

「利益」となる活動だ。

①その結果を決算書や月次試算表は、『貸借対照表』と『損益計算書』という書式で表している。

②したがって、経営状況をチェックするには、「決算書や月次試算表の構造とその意味するところを理解する」ことが大事となる。

 

(1)資金を集める

資金を集めることを資金調達」といい、貸借対照表の「負債、純資産」に表示されている。

①負債は企業が他から調達した資金なので、「他人資本」ともいう。

②純資産は企業が自ら調達した資金なので、「自己資本」ともいう。

③また負債はその返済期間の長さで「流動負債」「固定負債」に分けるようになっており、経営管理ができるように配慮されて

 いる。

 

(2)物品や設備に投資をする

事業を開始するために必要な物品や設備に投資することを「資金運用」といい、貸借対照表の「資産」に表示されている。

①1年以内で運用する資産を「流動資産」といい、「現預金、売上債権、棚卸資産、その他流動資産」に分けて表示されている。

②1年を超える運用する資産を「固定資産」といい、「有形固定資産、無形固定資産、投資その他の資産」に分けて表示されて

 いる。

 

(3)費用をかけて販売活動をする

販売活動のために様々な費用をかけることを「資金使途」といい、損益計算書の「売上原価、販売費及び一般販管費」に表示されて

いる。

①売上原価という費用には「商品仕入」と、製造している場合には「材料費、労務費、その他製造原価」に分けて表示されている。

②販売費とは販売にかかる費用のことであり「販売員給与、販売員旅費、広告宣伝費、発送配達費」等に分けて表示されている。

③一般管理費とは管理にかかる費用のことであり「役員報酬、事務員給与、従業員賞与、法定福利費」等に分けて表示されている。

 

(4)販売する

販売で得る資金のことを「資金源泉」といい、損益計算書の「売上高」と販売以外で得た「営業外利益」に表示されている。

①ただし、「販売した時点ではまだ資金ではない」ということに、注意しなければならない。

②販売と資金に間には、「回収」という作業がある。

 

(5)利益を上げる

売上高と費用の差額を「利益」というが、その段階に応じて「売上総利益、営業利益、経常利益、税引前当期純利益、当期純利益」

という「5つの利益」が表示されている。

①売上総利益とは、売上高から全部原価を減算したものであり、「粗利益あるいは付加価値額」という概念に近い。

②営業利益とは、売上総利益から販売費及び一般管理費を減算したものであり、「本業ベースの利益」という概念だ。

③経常利益とは、営業利益から本業ベース以外の損益を加減したものであり、「通常の経営ベースの利益」という概念だ。

④税引前当期純利益とは、経常利益から特別の損益を加減したものであり、「最終の事業ベースの利益」という概念だ。

⑤当期純利益とは、税引前当期純利益から法人税等を減算したものであり、「次期へ繰り越せる利益」という概念だ。

 

このように決算書や月次試算表を理解することが、経営状況をチェックする基本だ!

 

 

2 項目それぞれを理屈を知る

その構造を理解したうえで、それら項目の本来の理屈を知っておくことが次に大事なことだ。

 

(1)現金・預金

現金・預金とは、何も運用していない資金とも言えるが、ある意味では「余剰資金」とも言える。

①資金管理が大事だとよく言われるが、その帰結するところは、現在の現預金高に至ったプロセス管理のことである。

 したがって、どのような資金管理を行っても、残高は必ず、現在の現預金残高になる。

②一番簡単な「資金管理」は前期の現預金出納帳をもとにして、今期の実績で更新していくことだ。

 経営とは毎期同じことを繰り返すことが多いので、毎期の現預金入出金はそんなに変わるものではない。

 前期の現預金出納帳をもとに更新していけば、ほとんど正確な資金管理ができる!

③現預金が最終的に減になれば、その事業年度は利益が出ていたとしても、「現預金の持ち出しの方が多かった」ことと知る。

④家計でも家計規模に応じて必要な現預金残高があるように、事業にも事業規模に応じて必要な現預金高がある。

 そのことを絶えず月商とか、流動負債と比較してチェックすることが大事!

 

(2)売上債権

売上債権は多ければ多いほど「よい」というものではない!

①各企業の売上回収には必ず「約定」があるはずだ。

②その約定を超えた売上債権があれば、それは「不良債権の兆し」とも言える。

③約日ごとに債権回収することが大事であり、債権回収する行為は「無礼」ではなく、「信用」となる。

④現預金と売上債権を合わせたものを「当座資産」と呼ぶが、この用語も覚えておきたい。

 この当座資産がキャッシュ相当額の最大額だが、中小企業においては意外と不良債権も含まれているので気をつけたい。

 

(3)棚卸資産

①棚卸資産のことを「在庫」という言い方もするが、在庫には二つの種類がある。

一つは「これから売るための在庫」、一つは「これまでで売れ残った在庫」だ!

②後者のことを「過剰在庫または不良在庫」と呼び、いずれは売れなかった在庫も「費用になる」ことを知っておく。

③だから、過剰在庫や不良在庫はなるべく無くさなければならないことを理解する。

 

(4)有形固定資産

①固定資産の中でも、特に「有形固定資産」は生産するための設備なので、それなりの売上を上げなくてはならない。

 そのことを「有形固定資産回転率」と呼び、その管理をすることが大事だ。

 

(5)流動負債

①負債の中でも、流動負債は「早々に返済しなければならない他人資本」だ。

②だからこの流動負債を支払えるかどうか、常にチェックしなければならない。

流動負債以上の現預金があればOK!

③そのチェックの正確性を担保するためにも、流動負債と固定負債の区分けをしっかりしておくことが大事となる。

④その意味では特に「1年以内返済長期借入金」をきちんと計上しておくことが大事だ。

 

(6)固定負債

①固定負債は、長期にわたって返済できる他人資本だ。

②したがって、「固定資産は少なくとも固定負債で調達しておくことが最低限の原則」だ。

 

(7)純資産

①純資産とは「自己資本」のことであり、「資本金を出発点」として「繰越利益剰余金」が加わって、増していくものである。

②この繰越利益剰余金のことを、「内部留保金」とも呼ぶ。

③この純資産は「総資本(負債+純資産)に占める割合を高めていくことが大事」であり、かつ「現預金としてある程度の額は

 保有する」ことが大事だ。

純資産を現預金として保有することが、次の設備投資の財源や緊急避難的な資金となる!

 

(8)売上高

①売上高とは、自己資金の大元なので「資金の源泉」という。

②売上至上主義に陥らないことも大切だが、一方、売上高は「毎期増収させる」ことが基本でもある。

 なぜなら、人件費は毎年上げなくてはならないことと、原価も経費も毎年上がっていくからだ。

③売上高は合計を見ても何の発想も生まれず、したがって得意先や事業別に細分化して修正することが必要となる。

④さらに増収を管理するためにも、継続売上高と新規売上高に分けて管理する必要がある。

⑤高付加価値経営とは「原価や人件費、経費を抑えて利益を増やす経営」ではなく、「粗利を増やして利益を増やす経営」である。

 したがって、創意工夫が必要であり、職場に創意工夫の風土を育成するためには「高賃金経営」が背景に必要になる。

 事業の付加価値を上げていくためには後出しではなく、できる範囲の昇給から始める!

 

(9)原価

①原価とは、売れた物に対する”原価”であり、「売れなかった物に対する”原価”は含まれない」

②売れなかった物に対する原価は最終的に除却することになり、「営業外費用」の雑損失として処理することになる。

したがって、無駄な仕入をしないことが無駄なコストを抑える方法であり、実地棚卸が重要!

 

(10)人件費

①人件費とは、「役員報酬、給料・賞与、それに法定福利費」の合計である。

②人件費は、「役員報酬と従業員報酬、法定福利費に分けて管理する」ことが、いまの時代求められている。

 

(11)経費

①経費は「販売費、一般管理費」に分けられる。

「販売費は不要なものは抑え」「一般管理費は極力削減する」ことが基本である。

 

(12)利益

①利益には、「売上総利益、営業利益、経常利益、税引前当期純利益、当期純利益」という「5段階の利益」がある。

②利益を「増益(利益を増やす)」させるためには、「増収(売上を増やす)、原価抑制、経費節減の3つの方法」がある。

③増収とは売上高を増やすことだが、「売価を上げる、販売数量を増やすという2つの考え方」に分けられる。

 売価を上げるとは、必ずしも値上だけではない!  

 価値を上げて販売価格をあげるという考え方もある!

 この発想が大切だ。

 

 

3 直接原価損益計算書で本当の収益体質を知る

通常の損益計算書は「全部原価損益計算書」なので、本当の自社の付加価値が掴めにくい。

さらに「売れたものだけに対する原価だけを売上原価とする」ので、その期の収益体質が掴めにくい。

そこで経営管理のために必要な「管理会計」として、「期間損益かつ直接原価を原価とする直接原価損益計算書」が必要となる。

 

(1)直接原価計算書を理解するために

直接原価計算書を理解するために、次のことを理解しよう。

①売上高は「PQ(単価×数量)」と覚える。

②直接原価は「V(変動費)」「v=V÷PQは変動費率」と覚える。

③付加価値である「限界利益はM」「m=M÷PQは限界利益率」と覚える。

④直接原価以外の費用は「F(固定費)」と覚える。

 

(2)損益分岐点分析

4つのことを覚えれば、簡単に損益分岐点分析ができるようになる。

①「損益分岐点売上高」は、「mPQ(限界利益)=F」の売上高と発想でき、「損益分岐点売上高=F÷m」となる。

 つまり、固定費を限界利益率で除算すれば、損益分岐点売上高が計算できる。

②実績の売上高を損益分岐点売上高で除算「売上高÷損益分岐点売上高」すれば、自社の「損益分岐点比率」がわかる。

③100%から損益分岐点比率を減算「100ー損益分岐点比率」すると、自社の「経営安全率」がわかる。

④さらに、Fを目標固定費+目標利益に置き換えて、限界利益率で除算「(目標固定費+目標利益)÷目標限界利益率」すれば、

 「目標売上高」が算出できる。

 

 

このように本来、決算書と月次試算表は大変わかりやすいものであり、経営に応用できるものなのである。

ただし、そのためには日々を経理を正確にしなければならないことは言うまでもない。