514.会計によるリスク管理法④ 営業資金

2021年5月7日

リスク管理観点から会計を捉えるシリーズ第4回 営業運転資金

 

 ますます悪化するコロナ感染状況ですが、どのような悪影響が自社の事業に現れるのか予測することは難しく、

「守りの経営」へ舵取りすることが重要となっています。

「リスク管理観点から会計を捉えるシリーズ」第4回は、経営で最も重要な管理項目である『営業運転資金のリスク管理』です。

 

1 運転資金とは

 「運転資金」という用語は、曖昧で、なかなか理解することが難しい用語です。

その意味するところは「日々の事業に必要なおカネ、資金」ということですが、事業といってもどこまでの範囲のことを指すのか

によって、その運転資金の範疇も変わってくるからです。

 ここでは、ひとつは毎日の売買に関する運転資金を「営業運転資金」と定義し、もうひとつは毎日の経営に関する運転資金を

「経営運転資金」と定義して、運転資金を2回に渡って考えてみましょう。

 

 

2 毎日の売買に関する運転資金、「営業運転資金」

(1)運用している「営業運転資金」とは

 毎日の売買で運用している「営業運転資金」は会計のどこに示されているのでしょうか?

資産は「資金の運用を示す」、負債・純資産は「資金の調達を示す」という理解の仕方がそのヒントになります。

 「資金の運用」とは、こういう資産に事業のおカネを回しているという意味です。

 「資金の調達」とは、こういう負債・純資産によって、事業のおカネを得ているという意味です。

このことをあらためてよく理解することが大事です。

 

 資産は「財産」ではありません。「事業のおカネを回している項目」のことです。

負債は他人資本ともいうことから「借金である」という理解もできますが、前向きに捉えれば事業に必要なおカネを調達している

項目」のことです。

もちろん、純資産は自己資本ですから、これも事業に必要なおカネを調達している項目です。

これが「運転資金」を理解するカギとなります。

 

 では、あらためて毎日の売買で資金運用している項目は何でしょうか?

それを試算表や決算書の貸借対照表を見て考えてみましょう。

そうすると、それは売上債権である「受取手形・売掛金」と、在庫である「たな卸資産」であることに気づきます。

ほかの資産は特段、売買のために運用している資産ではありません。

従って、この売上債権と在庫が、毎日の売買のために事業のおカネを回している項目、つまり「必要な営業運転資金」となります。

 

(2)調達している「営業運転資金」とは

 では、逆に、毎日の売買で資金を調達している項目は何でしょうか?

貸借対照表を見てみると、買入債務である「支払手形・買掛金」であることに気づきます。

そのほかにもいろいろな負債や純資産の項目がありますが、それらは毎日の売買で資金を調達している項目ではありません。

従って、この買入債務が、毎日の売買で資金調達している項目「調達営業運転資金」になります。

 

 

3 「営業運転資金」の考え方

 そうすると、毎日の売買で調達している資金(調達営業運転資金)で、毎日の売買で運用している資金(必要営業運転資金)を

まかなえれば、ほかで資金を調達する必要性はなくなりますので、事業・商売としてこんなに楽なことはありません。

ある意味では、元手がなくても、事業・商売が続けられることになります。

つまり、(受取手形+売掛金+たな卸資産)<(支払手形+買掛金)であれば、ほかに運転資金は要らなくなります。

ちなみに、現金商売であれば、運用する資産は「たな卸資産」だけになることから、「現金商売は運転資金はラクだ」とか、

「現金商売は強い」とか、いわれるわけです。

 

 そうすると、次のような算式で「毎日の売買で不足する運転資金」が計算できそうです。

毎日の売買活動で不足しそうな営業運転資金の額 =(受取手形+売掛金+たな卸資産)-(支払手形+買掛金)

 

 この営業運転資金の不足額はどうしているのでしょうか?

そうです、手元資金(現預金)で補っていることになります。

もし、手元資金が足りなければ、運転資金を金融機関に融資申込をして、借りることになります。

 

 さらにもうチョッと掘り下げてみましょう。

この「毎日の売買活動で不足しそうな営業運転資金の額」を年間売上高で割ります。

そうすることによって、売上高に対する営業運転資金の不足割合が計算できます。

つまり、売上が増加したなら「どれだけ営業運転資金を増やさねばならないのか?」ということが事前に読めるようになります。

 売上に対する営業運転資金不足割合(要調達率)=毎日の売買活動で不足しそうな営業運転資金の額 ÷ 年間売上高 ×100

 

たとえば、この計算の結果、要調達率が20%となれば、売上高を500万円増やすには100万円(500万×20%)の

営業運転資金を増やさなければならないことがわかります。

これが行き過ぎるようになると、いわゆる「黒字倒産」といわれる状況に追い込まれます。

 

 

4 「営業運転資金」のリスク管理

 では、営業運転資金のリスク管理をどのように考えればよいのでしょうか?

 

(1)営業運転資金の不足額と手元資金のバランスを常に把握しておく

 売上債権および在庫と買入債務を比べて、売上債権・在庫の方が多いということは、ある意味、仕方ありません。

なぜなら、仕入金額に粗利(付加価値)を上乗せして販売しているわけですから、運用資金の方がどうしても大きくなります。

問題は、不足する営業運転資金に見合うだけの手元資金が十分にあるかどうか? ということです。

 

 どの程度、手元資金があればよいのかということは、業種・業態で変わりますので、一概には言えません。

従って、まさしく経営者としての判断が問われるということです。

業種・業態などを無視して一般的に考えれば、不足見込み額の3~4倍程度の現預金があれば、とりあえず安心なのではないので

しょうか。

 

(2)営業運転資金の不足額をなるべく少なくする

 売上債権と在庫が「買入債務より多くなるのは仕方がない」といいましたが、そうはいってもなるべくは少なくしたいものです。

そこで算式を振り返りましょう。

 算式は (受取手形+売掛金+たな卸資産)-(支払手形+買掛金) でした。

この解を小さくするためには、左辺を小さくするか、右辺を大きくするかのいずれかです。

右辺を大きくするために「仕入をやたら増やす」なんてことは、ナンセンスであるとわかります。

 そうすると、課題は左辺をいかに小さくするかです。

となると、ひとつは「受取手形および売掛金を少なくする」ということになります。

つまりそれは、期日通りにきちんと回収するということにほかなりません。

さらに回収期間を早めることも、状況によっては考えなくはならないかもわかりません。

 ふたつめは「たな卸資産を少なくする」ということです。

具体的には、たな卸管理をしっかり行い、デッドストックを無くするとか、仕入管理をしっかり行って在庫自体を減らすなどが

大事ということです。

 

(3)早めの運転資金対策をする

 最後にリスク管理として大切なことは、「早めの運転資金繰り対策」を取るということです。

政府のコロナ対策のように、常に後手後手に回るなんてことにならないようにしなければなりません。

常に営業運転資金の先行きを見通し、問題が訪れると判断したなら、すぐに金融機関に相談してみる姿勢も大事かと思います。

 

つづく・・

 

 

戦略を考えるにあたって重要なことは、『思い込み』なるものを打ち破ることです。

私たちは思いの外、『思い込み』に囚われて生活や仕事をしています。

そしてその結果が「いまである」ということを忘れてはいけないと思います。

違う結果を得たいのであれば、『思い込み』を打ち破るしかありません。

-------------------------------------------------

インプルーブ研究所はITウェブサイト・マーケティング・経営会計で貴社の発展に尽力しています。

ぜひ、一度お話いたしませんか? お問い合わせはお気軽に コチラ から

-------------------------------------------------