23.設備投資力①固定比率

2009年11月2日

財務分析解説コラム(7) 当社の設備投資には無理がないか -固定比率-
債務償還能力についての説明は前回で終わり、今回からは会社の設備投資について「無理がないかどうか」を見る財務分析について説明します。その第1回は『固定比率』です。

固定比率とは
『固定比率』とは安全性分析の財務分析のひとつで、固定資産のうち、どの程度が純資産(自己資本)で賄われているかを示します。思い出しましょう。事業をするためには資金が必要で、その調達した資金は他人資本である「負債の部」と自己資本である「純資産の部」に表示されているのでしたね。会社はその調達資金で資産を購入したり、給与や経費を支払ったりするわけです。購入資産は大きく流動資産と固定資産に分けられ、車両や設備や建物は固定資産に分類されます。固定資産は5年・10年と長期に渡って使用するため、その購入資金は短期返済資金ではなく、長期返済資金あるいは自己資金で賄うようにするが理想的です。そこで『固定比率』という財務分析で、固定資産と自己資本を比べるわけです。計算式は次のとおりとなります。
計算式: 固定比率 =  固定資産 ÷ 自己資本

固定比率の見方
『固定比率』が100%以下ということは、固定資産の額より自己資本の額の方が大きいということであり、固定資産購入のための資金は自己資本で賄われているということを表します。逆に100%超の場合は、固定資産の購入に他人資本にも依存していることを表します。『固定比率』はもちろん、100%以下であることが安全な水準なのですが、実際には100%以下になるケースはほとんどありません。ちなみに業種別の固定比率は、次のとおりです(中小企業庁「中小企業の財務指標」より)。
①建設業138% ②製造業200% ③情報通信業83% ④運輸業280% ⑤卸売業140% ⑥小売業220% ⑦不動産業323% ⑧飲食宿泊業464% ⑨サービス業176%

固定比率を改善するには
計算式から考えれば、固定資産を減らすか、自己資本を増やすか、どちらかということになります。
(1)固定資産を減らして固定比率を改善する
自己資本が一定とすれば、固定資産を減らせばそれだけ『固定比率』は改善されます。具体的にはどのような方法があるのでしょうか。
ひとつは遊休資産がありませんか。自動車はどうですか?意外と処分してもいい車両があるものです。機械や設備はどうですか?またいずれ使用する機会があるかもわからないとお考えかも分かりませんが、機械・設備は陳腐化します。使用していないなら思い切って売却しましょう。売却は早ければ早いほど、少しでも高く売却できます。
もうひとつは不良資産です。たとえ不良資産でも、固定資産には計上されており、いくらかの帳簿価額がつけられていると思います。処分すればその金額だけ固定資産は減ります。
(2)自己資本を増やして固定比率を改善する
自己資本が増えれば、『固定比率』は小さくなり改善されます。「自己資本を増やすなんて、なかなか・・」とお考えの場合が多いかと思いますが、ひとつは役員借入金です。もし役員借入金があるのであれば、資本金に繰り入れするのも一法です。但し、これによって『固定比率』は確かに改善されますが、改善されたのは会計帳簿上だけの話であり、実態は改善されていないことに留意してください。抜本的な方法は利益拡大による内部留保の積み増しです。利益拡大とは「売上-経費=利益」という残った金額が「利益だ」という考え方ではなく、計画した利益を確保するため「売上―利益=経費」という考え方で、目標利益を確保するために「経費を抑える」という考え方を徹底し、経費管理を行うということです。さらには原価率を抑え、売上総利益を増やすことです。そしてさらに、売上高を拡大するということです。売上高拡大に関して、現在は市場収縮化の時代です。従って「従来より販売地域を拡大する」というのが基本的な考え方になります。国内でいえば、地元からエリアへ、エリアから全国へという考え方であり、さらに海外進出ということになります。海外進出はこれからの成長地域である東南アジアがターゲットの中心になるのではないのでしょうか。「海外進出」というとたいへん大袈裟な響きがありますが、いまはインターネットによって簡単に進出ができます。その意味で、戦術として『IT化』を外すことはできません。

これから時代は大きく変わり、すでに『膨張の時代』から『収縮の時代』に入っています。ということは「これまでと同じことをやっていてはダメ」ということです。会計資料を読み解いて、自社の現況を把握し、改善方向を明確にすることがその基本となります。いままでは、会計資料が少々読めなくとも市場がどんどん大きくなる『膨張の時代』でしたから、確かにさほど困ることになりませんでした。しかしいまは『収縮の時代』ですから、会計が読めないと経営の危機がすぐそこに迫っているのにも気づかず、表面化したときはもう倒産から逃れられないという憂き目に会うことになります。時代は違っているのです。自社にちょっとしたチェンジというスパイスをふりかけましょう。

次回もお楽しみに・・