66.運転資金の改善方法(後)

2010年11月30日

前回は運転資金の改善の前に、『資金』そのものについて説明しました。今回は『運転資金の改善』についてです。

1.必要運転資金(要調達運転資金)
運転資金とは、日常の営業活動で必要になる資金です。例えば、仕入代金や諸経費の支払などに使う資金だと前回説明しました。では、会社経営にとって必要な運転資金(要調達運転資金といいます)とはどのくらい要るのでしょうか?
経営分析上、次のように計算します。
要調達運転資金=(売上債権+棚卸資産)-買入債務
売上債権とは受取手形と売掛金の合計です。売上債権には原価と販管費がかかっています。したがって必要な運転資金です。
棚卸資産とは商品や製品が売れていない状況であり、在庫です。在庫には仕入・製造原価などがかかっています。したがってこれも必要な運転資金です。
一方、買入債務とは支払手形と買掛金の合計です。買入債務とは仕入と同時に支払わなくてはならない代金を未払いにしている状況です。したがって調達している運転資金と言えます。
そこで調達しなけばならない運転資金、調達運転資金はこれら二つを差引きすることによって求められます。
例えば、売上債権が150万円あり、棚卸資産が110万円あるA社で、買入債務が100万円あれば、要調達運転資金は160万円となります。つまりA社の場合は運転資金として160万円は必要となります。

2.資金有り高(手元流動性)
そこでA社の資金はいくらあるのでしょうか?
このことを手元流動性といいます。手元流動性は経営分析上、次のように計算します。
手元流動性=現金+預金+有価証券
現金はいま手元にある資金です。預金は銀行に預けていますが、引き出しすればすぐ用意できる資金です。
有価証券は株券として手元にあるわけですが、証券会社に連絡すれば2・3日で現金化できます。
このようにすぐ現金化できる資産を手元流動性資産といい、会社の手元資金と言えます。
例えば、現金10万円、預金50万円、有価証券30万円あるA社の場合は手元流動性90万円あることになります。
これに対して必要な運転資金、要調達運転資金が160万円なのですから、70万円不足していることになります。
したがってA社はその不足分を次々と回収される売上債権があってなんとか資金繰りが回っていることになります。万が一、回収できない売上債権が生じたり、不良債権が生じたりするとたちまち資金が不足することになります。

3.運転資金要調達率
要調達運転資金160万円は次のようなことも教えてくれます。つまり、このA社がおかげさまで売上が増えた場合に調達しなければならない資金額を教えてくれるのです。もう皆さんもご存知のとおり、売上高が増えると資金繰りが楽になるように思いますが、実は増えたときは逆に資金繰りが苦しくなるのです。なぜなら、いままで多く売るためにはいままでより多く仕入したり、製造原価が上がるからです。そのため、もし急激に売上が増えるようであれば、それなりに資金調達をしなければ、いわゆる『黒字倒産』のような倒産を招くこととなります。
そこでこの要調達運転金が、運転資金の要調達率を教えてくれるのです。運転資金の要調達率は次のような計算式で求めます。
運転資金の要調達率=要調達運転資金÷年商
例えば、要調達運転資金が160万円のA社、年商が1,400万円であれば11.4%となり、11.4%とは100万円売上が増えれば11.4万円運転資金が必要になることを表します。したがって、ビジネスモデルが当たり、急激に売上が増えるような場合には、あらかじめ資金繰りが必要です。

4.運転資金のチェック方法
では、話を元に戻し、自社の運転資金の適正度をどうやってチェックすればよいのでしょうか?
第一の方法は、すでに説明したとおり、要調達運転資金と手元流動性を比較することです。できれば要調達運転資金以上に手元流動性は高めたいものです。
第二の方法は、平均月商と手元流動性を比べます。そのことを手元流動性比率といい、次のように計算します。
手元流動性比率=手元流動性÷平均月商
例えばA社の場合、平均月商は年商1,400万円でしたから平均月商は約117万円となります。手元流動性は90万円でしたから、手元流動性比率は0.77ヶ月となります。つまり、A社は手元流動性比率は1ヶ月の売上高分もなく、大変心許ない状況だといえます。なぜなら会社経営とは売上をもとに、原価を支払ったり、人件費・経費を支払い、残りを利益として次期の投資等へ回す仕組みとなっています。それが1ヶ月分の売上高分もないのですから、費用の一部が支払えないという状況です。
だから一般的には会社立上時期の開業資金を手当し、徐々に売上高を追いつかせ、開業資金を返済し、会社として一本立ちさせるわけです。そのように考えれば、正常な会社経営状況になった暁には手元流動性比率は2ヶ月分から3ヵ月分は欲しいところです。

5.運転資金の改善方法
最後に本題、運転資金の改善方法です。簡単に言えば、「入」を増やし、「出」を減らせば、運転資金は改善していきます。では、「入」を増やす方法にはどのような方法があるのでしょうか。
(1)根本は『売上』を増やすこと
この時代に売上を増やすなんて!といわれる方が多いと思いますが、だからこそ早くから売上拡大に着手しなければならないのです。業種にかかわらず、共通的な方法はe-コマース、つまりインターネットショップの取り入れです。ネット販売は対前年50%の増加率で増えています。しかし総販売額に対するシェア率はまだ5%に満たない状況です。上場企業・大企業は新興国を中心に販路を拡大しています。中小企業ならば、そこまでするのは難しいとすれば、できるのは国内商圏を拡げることです。これであればどんな会社でも取りかかれます。インターネット販売はそれを実現してくれます。ただポイントはあまり費用をかけずに行うことです。ちなみに当インプルーブ研究所であれば、低価格な制作費のみで、月次費用は売れなければ要りません。これなら安心して利用できます。
(2)「入」を増やす
①「入」を増やすとは、回収を確実に行うということです。多くの中小企業は意外とこれができていません。回収をきちんと行わないということは、確実に不良債権を増やすことにもなりかねません。まず、しっかり期日とおり回収しましょう。
②次に回収期日を早めるということです。例えば、25日支払を20日支払にしていただくとか、あるいはいくらかを前受金として受取るなどです。この活動は成し得れば同時に会社の信用力も高めてくれます。なぜなら会社の信用力がないとできないからです。
③その次には在庫を減らすということです。まず在庫の整理整頓をし、場合によっては処分をしキャッシュを得ます。また1回当たりの仕入数量を減らし、在庫を減らします。あるいは品目を絞り込みます。これらを実施するためにはいま一度、自社の顧客を見直すこともたいへん重要です。
(3)「出」を減らす
①仕入原価、製造原価を減らすことです。在庫と同様、数量を減らすとか、ロス率を減らすとか、内製化を進めるとかなどがあげれます。さらに組合などを利用し、共同仕入で単価を減らすこともできるかも分かりません。ともかく既成概念に囚われず、改善します。
②次に経費を抑えることです。ポイントは些細なことでも削減するということです。さらにITの活用もあげられます。コピー機をパソコンプリンターに代えるとか、郵便をメールに代える、長距離電話をスカイプに切り替えるなど、さまざまな打ち手があります。

『会計力』が経営を改善する
どうですか、会計からのマネジメントで経営が大きく変えられることがお解りいただいてきたかと思います。
このように『会計力』が経営を大きく改善します。日本経済は中期的に間違いなく好転します。したがって経済成長率も年率3~4%にはなると思います。但し、以前のような高度経済成長時代は迎えませんし、大事なことはすべての企業が好景気に沸くことはもうありません。努力する企業、過去の延長線を断ち切った企業だけが成長する時代となります。
会計は決算・申告のためにするものという感覚はもう過去の感覚なのです。これからは会計に基づいて経営管理をする時代であり、経営に活かせる会計をする時代なのです。