629.会計の基本『簿記』⑨

2023年9月29日

いよいよ来週から『インボイス制度』が開始されます。

インボイスが中小企業にどのような影響を与えるのか、実際のところは不明ですが、不明なだけにきちんと備えた経営を

行いたいものです。

その経営管理のベースが『簿記』ですので、簿記の要点をぜひ押さえましょう。

 

■前回の復習

 前回は『棚卸資産』に関する簿記の説明でした。

棚卸資産は損益に大きな影響を及ぼすだけに、きちんと計上ができるように棚卸資産の管理は行いたいものです。

そのポイントの次のとおりでした。

①月次棚卸資産の洗い替えをすることで、正確な月次利益が捉えられる。逆に言うと洗い替えをしないと月次利益は把握できない。

②期首棚卸高の計上は期首月だけです。それによって期首棚卸高をフィックスします。

③仕入れの計上はB/Sの棚卸資産ではなく、P/Lの商品仕入高と材料仕入高で計上する。

④毎月の直接原価を把握するために、月末には月末棚卸高を計上する。

⑤実地棚卸は不良在庫や赤字経営、ひいては粉飾決算を避けるためにも最低月1回は行う。

このような考え方の会計を『管理会計』と呼び、経理事務を経営管理業務に変身させる!

 

そうすると、会計事務所などに頼った形式ばった経理姿勢から自立した経理姿勢に変わり、経営に役立つ会計に変わります。

 今回は、『固定資産』に関する「簿記」について考えてみましょう。

 

 

第9講 簿記 固定資産編

 固定資産とは、売るものを生産するための設備ことです。

会計では、固定資産を「有形」「無形」「投資その他」に分けていますが、基本的に重要なのは『有形固定資産』です。

有形固定資産の利用度合いや入替時期を考えることが重要で、それに資する会計を行いたいものです。

 

 有形固定資産にはいろいろな種類がありますが、一般的には「建物」「機械・装置」「車両・運搬具」「工具・器具・備品」、

そして「土地」ぐらいだと思います。

 また、少し特殊な有形固定資産科目として『リース資産』があります。

リース資産とは購入せずに、毎月ある程度高額なリース料を支払い、利用している機械・装置・設備などのことです。

 また管理会計上は、『減価償却累計額』を活用することが大事です。

これは、所有している有形固定資産(土地を除く)の「減価償却費」を貯めていく科目です。

それによって、常に各有形固定資産を「取得価格」で管理でき、また償却額もわかりますので、買い替え時期の参考ともなります。

よって、管理会計的には非常に重要です。

 

 有形固定資産の仕訳についてはそれほど改めて説明することもありませんので、今回はこの『リース資産』に絞って説明します。

 

(1)リースとは

 リースとは、「賃貸借」という意味の英語ですが、

日本では「リース会社が企業に対して、機械や設備を長期間賃貸する」という意味で使われています。

たとえば、機械や設備などをリースするときには、

 ①対象物件を決め、そしてリース会社にリース申し込みします。

 ②その後、リース会社と契約を取り交わし、メーカーあるいは販売会社からその物件が納入されてきます。

 ③物件が納入されたあとはリース料の支払がスタートします。

 ④リース会社はリース物件の所有権をもっていますので、リース会社がリース物件に保険をかけたり、

  リース物件の設置場所である市区町村に固定資産税などを納めます。

これがリース取引の概要ですが、会計処理はどうすればよいのでしょうか。

 

(2)リース物件の会計処理

 一番多く中小企業で採用されているリースの会計処理は、単純に、P/Lに『リース料』という科目を設定して行われています。

 P/L費用科目:リース料 120,000円 /B/S資産科目:現金又は預金 120,000円

 

 一見、これで問題がないように思われますが、しかし、製造業や卸売業などで高額な機械や設備をリース契約している場合は、

これでは少々経営管理的に問題があります。

すなわち、上記の会計処理では事業の生産性分析や資金使途分析に大きな影響を与えているリース物件がその分析に反映されない

ということが生じます。

「リース料/現預金」という仕訳ではリース物件の生産性や資金使途分析ができません!

 

したがって、その問題を解決するためにも、これから説明する管理会計的な会計処理を行う必要があります。

でもその前に、「リースの種類」について勉強しましょう。

 

(3)リースの種類

 一口に「リース」と言っても、その契約内容によって、3種類のリース契約があります。

1.所有権移転ファイナンス・リース

 一つ目は、リース終了後、対象物件の所有権がリース契約者に移転する「所有権移転ファイナンス・リース」です。

このリースは、リース会社からおカネを借りて機械を購入し、その機械を使いながら借りた元金と利子を返済し、それが満了すれば

その機械の所有権がリース契約者に移転するという契約です。

 「リース」という名称こそ、ついてますが、その内容はほとんど購入と変わりありません。

ただ、途中解約はできません。また、その間に機械が故障すれば、その修理代もリース契約者が負担します。

ただし、リース満了になれば、その物件はリース契約者の所有となります。

 つまり、金融機関から融資を受けて、機械・設備を購入する場合と全く同じです。違うのは、借り先が金融機関ではなく、

ノンバンク系企業だということだけです。

 

2.所有権移転外ファイナンス・リース

 二つ目は、リースが満了しても、対象物件の所有権が移転しない「所有権移転外ファイナンス・リース」です。

移転 ”外” 、移転しないというところが、ひとつめとの違いです。

 この契約は、前項の所有権移転ファイナンス・リースとほとんど同じですが、リース期間満了後の取扱いだけが違います。

つまり、リース期間が満了しても、物件はリース契約者のものにはなりません。

リース満了後も使い続けるためには、再リース料を支払うか、あるいは買い取るか、どちらかの選択になります。

日本のリース契約はほとんどが「所有権移転外ファイナンス・リース」です!

 

3.オペレーティング・リース

 三つ目は、リース会社から対象物件を借りているだけの「オペレーティング・リース」です。

この契約は、リース会社から借りているだけの契約です。

 借りているだけですから、故障した場合にはリース会社が修理代を負担し、契約者が機械を保有している実態もなければ、

おカネを借りている実態もありません。

リース期間が終了すれば、借りている物件は返却しますので、長期レンタルのような契約です。

リース契約には所有権移転・所有権移転外・オペレーティングの3形態があります!

 

この形態に即した会計処理をしないと、本当の自社の財務状態が把握できません。

 

(4)リース資産の仕訳

1.所有権移転または所有権移転外ファイナンス・リースの場合

 事例として、キャッシュで購入した場合の価格が500万円、リースしたときの支払総額は600万円(12万円×50回)と

します。

 【取得したとき】

 (B/S資産科目)リース資産 5,000,000 / (B/S負債科目)リース債務 5,000,000

  解説:リース資産は購入した時と同じ価格で計上し、リース債務はリース総額ではないことに注意します。

     この仕訳で、リースで設備投資をしたことが月次試算表や決算書に反映されます。

 【リース料を支払ったとき】

①(B/S負債科目)リース債務 100,000 / (B/S資産科目)現金又は預金 120,000

 (P/L費用科目)支払利息   20,000

②(P/L費用科目)減価償却費 100,000 / (B/S資産科目)減価償却累計額 100,000

  解説:①でリース料12万円は元金部分がリース債務の減少に、利息部分は支払利息に計上します。

     ②減価償却費も元金部分を毎月計上します。

 【決算のとき】

①(B/S資産科目)減価償却累計額1,200,000 / (P/L費用科目)減価償却費1,200,000

②(P/L費用科目)減価償却費  1,200,000 / (B/S資産科目)リース資産1,200,000

  解説:①で一旦、概算の減価償却費を洗い替え(ゼロクリア)します。

     ②機械購入した場合と同じ方法で正式な年間減価償却費を計算し、再度、減価償却費を計上するとともに、

      リース資産を減算させます。

 

2.オペレーティング・リースの場合

 事例として、キャッシュで購入した場合の価格が500万円、リースしたときの支払総額は750万円(15万円×50回)と

します。  

 【取得したとき】

 資産の取得も借入もありませんから、仕訳は必要ありません。

 【リース料を支払ったとき】

 (P/L費用科目)リース料 150,000 / (B/S資産科目)現金又は預金 150,000

  解説:ただ単に「借りている」だけですから、リース料に対して元金部分も利息部分もありません。

     また、自分の資産でもありませんから、減価償却費も発生しません。

 【決算のとき】

 仕訳は必要ありません。

 

このように実態に即した会計処理をすれば、月次試算表に本当の財政状況が現れてきます!