32.事業収益力⑤回転期間 

2010年1月6日

財務分析解説コラム(16) 当社事業の収益性を検証する -回転期間(日)-
12月20日のインプルリポートで、『総資本回転率』について説明しました。
今回は、「当社事業の収益性を検証する⑤」として、その原因究明にもなる『回転期間』について説明します。

回転期間(日)とは
『回転期間』とは各資産あるいは各総資産(各負債や各純資産)の額が、何日分の売上高に相当するのかを表します。例えば、年商3650万円(日商10万円)の小売店が在庫商品を50万円分持っていたなら、『棚卸回転期間』は5日となります(計算式:50万円÷3650万円×365日=50万円÷10万円)。一番効率の良い経営を考えるならば、在庫ゼロで年商3650万円を稼ぐことです。なぜなら在庫を持つとは、その資金に金利が付いていることも考えられ、在庫商品の保管場所賃料もかかります。また、在庫商品のいくつかはデッドストックになる危険性もあります。したがって『回転期間』は支障がなければ、短ければ短いほど「良い」ということになりますす。
これは経営の「要」のひとつなので、よく覚えておいてください。『回転期間』が短い経営は、「高筋肉質の経営」と喩えることができます。また『回転期間』は経営の効率性を見る指標と言われますが、効率性が高いということは収益性が高いことに他ならないので、収益性の指標とも言い換えられます。主な回転期間の計算式は次のとおりです。
計算式:現金預金回転期間(日)=現金預金÷売上高×365
売上債権回転期間(日)=売上債権÷売上高×365
商品回転期間  (日)=商品÷商品売上高×365
棚卸資産回転期間(日)=棚卸資産÷売上高×365
買入債務回転期間(日)=買入債務÷売上原価(*)×365
買掛金回転期間 (日)=買掛金÷売上原価(*)×365
*便宜上、売上高で計算している例もありますが、正確には売上原価で
計算すべきです。

回転期間(日)の見方
(1)比べる
端的に言えば『回転期間』は短いほど良いと説明しました。したがってその見方は、自社の前年と比べて短縮されているかがその基本的な見方となります。ともかく支障がない限り、短縮化を図ることが大事です。また、計画上の『回転期間』(特に『売上債権回転期間』『棚卸資産回転期間』『買入債務回転期間』は計画(目標)値を持って管理することが重要)や同業他社の『回転期間』と比べることも重要です。業種別の主な『回転期間』は次のとおりです(中小企業庁「中小企業の財務指標」より)。
■売上債権回転期間
①建設業 42.8日 ②製造業  51.3日 ③情報通信業50.8日
④運輸業 39.7日 ⑤卸売業  47.9日 ⑥小売業  20.4日
⑦不動産業 4.4日 ⑧飲食宿泊業 3.1日 ⑨サービス業31.5日
■棚卸資産回転期間
①建設業 14.8日 ②製造業  13.8日 ③情報通信業 3.6日
④運輸業  0.3日 ⑤卸売業  19.7日 ⑥小売業  26.4日
⑦不動産業43.6日 ⑧飲食宿泊業 2.9日 ⑨サービス業 2.6日
■買入債務回転期間 *但し、分母は売上原価ではなく売上高
①建設業 15.4日 ②製造業  14.6日 ③情報通信業10.8日
④運輸業  8.9日 ⑤卸売業  24.0日 ⑥小売業  18.4日
⑦不動産業 1.5日 ⑧飲食宿泊業 8.2日 ⑨サービス業 6.8日

(2)総資本回転率、すなわち総資本回転期間の原因分析として見る
もうひとつの見方は『総資本回転率』、すなわち『総資本回転期間』の原因分析として見る方法です。これらの計算式は次のとおりでしたね。
総資本回転率=売上高÷総資本 ⇒ 総資本回転期間(日)=総資本÷売上高×365
「総資本回転率が悪くなる」ということは『総資本回転率』が低くなることでした。総資本回転率が低くなるということは『総資本回転期間』が長くなることです。『総資本回転期間』は各負債回転期間と各純資産回転期間との総和でもあります。あるいは各資産回転期間の総和でもあります。つまり、次のような展開式で表せます。
総資本回転期間=負債回転期間+純資産回転期間
=流動負債回転期間+固定負債回転期間+自己資本回転期間
=各負債回転期間+各純資産回転期間
総資産回転期間=流動資産回転期間+固定資産回転期間+繰延資産回転期間
=当座資産回転期間+棚卸資産回転期間+その他流動資産回転期間
+有形固定資産回転期間+無形固定資産回転期間
+投資等資産回転期間+繰延資産回転期間
=各流動資産回転期間+各固定資産回転期間+各繰延資産回転期間
ということは「総資本回転率が悪くなった」、つまり「総資本回転期間が長くなった」という場合、具体的にどの資産、どの負債の回転期間が長くなり、総資本回転率が悪くなったかが特定できるということです。原因が特定できれば改善策は考えることができます。

回転期間(日)を改善するには
『回転期間』を改善するとは、回転期間を短くすることです。
(1)売上高を拡大する
短くするためには、まず分母を大きくする方法が考えられます。一部の『回転期間』を除き、分母は『売上高』ですから、売上高を伸ばすことが『回転期間』全般的な改善策となります。売上高拡大の具体的な方策については述べられませんが、ただ、全業種にある程度共通なヒントとして次のことが挙げられます。
①詳細な売上分析をする
中小企業の場合は意外とされていないものです。一度、自社の売上高を詳細に掘り下げて分析されることをお勧めします。
②商圏を拡げる
現在は何といってもマーケットが縮小化しています。またこのトレンドは、少なくとも今後10数年は続きます。したがって業種・業態を問わず、商圏拡大政策を考える必要があります。そこで有効なツールはIT(インターネット)です。また商圏という言葉を地域とだけに捉えず、世代やライフスタイル、海外も含めて検討する必要があります。
③現顧客を大切にする
顧客内シェアを高めることは非常に大切であり、また疎かにされがちです。お客様に対するサービスは十分ですか。またサービスはアフターフォローだけでなく、ビフォアフォローもあります。提案、サジェッション、情報提供するべきことはありませんか。いやある筈です。ここでもIT(インターネット)は重要なツールとなります。
④ついで買い
お客様に「ついで買い(A商品を購入したならB商品も必要)」していただくものはありませんか。「ない」のなら、それらを品揃えすることができないのですか。世の中「低価格化」という言葉が流布していますが、商品をセット販売化することによって客単価を上げている会社はたくさんあります。
⑤新商品、新製品、新サービスの開発
こう表現すると、すごく大層に聞こえますが、なにも「いままでこの世になかったものを開発しましょう」と言っているのではありません。あくまでも自社にとっての新商品であり、ちょっとした工夫で新しい商品は作れます。例えば、いま結構寒いですよね。カップにコーヒーなどを入れても、すぐ冷めてしまいます。そこで冷めないコーヒーカップがあれば便利だと思いませんか。なにもカップに工夫する必要はなく、従来からあったホットプレートを小さくすれば良いだけです。さらにコンセントに入れるのは機能的にもちょっと問題があります。ならば、単4電池を電源に暖めればどうですか。これがちょっとした工夫の商品開発です。
その他にもいろいろあるかと思いますが、これこそが「経営革新」と言われるものなのです。これからはこのような考え方が会社経営にとって非常に重要となります。できない、ないと決めつければ、将来はありません。それでジエンドです。少し「経営心」を持って会社の経営をすることが大切だと思います。

(2)各資産・負債を圧縮する
もうひとつの方法が、分子を小さくすることです。特に売上債権、棚卸資産、固定資産、買入債務を小さくすることが重要です。これらも頭ごなしに「難しい」と言われますが、そんなことは全然ありません。何も100点満点を取る必要はないのです。20点でも50点でも取れれば、それが「経営改善」なのです。そう考えれば、必ず、改善できる筈です。逆に言えば、100点満点の経営をされているのですか?私はそんな会社を見たことがありません。

時代は“本当”に変わり、もう中小企業だからという「甘え」は許されません。「会計資料」という自社の診断書を読みこなし、自社の症状を自ら発見し、自らその処方箋・戦術を考え、全社にそのことを明らかにして実行していくことが大事です。中小企業も大企業と同様、「経営心」を持って会社経営にあたることが重要です。「会計資料が読めない、読まない」ということは、そこに経営の危機が迫っていることにすら気づくことができず、表面化したときには「倒産」という憂き目に会うということです。ぜひ、自社にちょっとした「チェンジ」というスパイスをふりかけましょう。
次回もお楽しみに・・