72.2011年度経営課題 回転率

2011年4月17日

福島原発事故の収束は依然と見えてきません。それどころか国際評価尺度(INES)のレベル5からレベル7へ見直される始末です。このことに対する是非はともかく、この原発事故の対応が予想以上に長期に渡り、かつ、さまざまな影響がまだまだ生じてくることを示しています。企業経営においては守りを固めるマネジメントが求められます。
中小企業は大企業と比べると、その耐久力は非常に脆弱です。ということは大企業以上に守りを固めるマネジメントをしなければならないということです。

当リポートでは2011年の経営課題として守りの経営が重要であると提言し、具体的に5点の経営課題を挙げましたが、図らずも当ってしまった次第です。しかしその根本は2012年から日本経済は再成長時期に入るのでそれに備えて経営を立て直しておこうということであり、必ずしも消極的な意図ではありません。このことは今も変わりません。むしろバネが強くなったという言い方もできます。
中小企業が元気になることが日本経済再成長の要諦であり、この東日本大震災から復興のカギでもあります。がんばって未来に向かってマネジメントしていきましょう!

繰り返しになりますが、2011年の経営課題として挙げさせていただいたのは次の5点でした。
(1)手持ち資金は十分か
これはキャッシュを高めた財務体質に変えるということです。
(2)固定費を十分下げているか
(3)変動費比率を十分下げられているか
この二つは損益分岐点を下げるということです。つまり、利益が出やすい経営体質に
変えるということです。そのアプローチとして固定費を抑える、変動費比率を下げる
という2つの方法があり、まず自社努力でできることは固定費を抑えることであり、
次に在庫量や仕入の仕方で下げられる変動費比率だということです。
(4)回転率をあげているか
これは生産性を上げるという言い方もできますが、重点を置いているのはむしろ不要
な資産は処分するということです。今より少ない総資産あるいは総資本でこれまでの
生産性を確保し、資本効率を高めるということです。
(5)借入金依存度は適正か
最後に借入金の問題です。資産を処分することよって借入金の返済に充てる、キャッ
シュを高めることによって実質無借金経営に持っていくということです。自己資本の
割合を高めると理解されても良いかと思います。
今回はその4番目「回転率をあげているか」について説明します。

1.優良企業と一般企業の違い
平成22年度版のTKC経営指標で回転率を見れば次のようになります。
優良企業    一般企業
総資本回転率           1.5回      1.3回
総資本回転期間          248日      291日
流動資産回転期間         155日      142日
現預金回転期間           83日      54日
売上債権回転期間          44日       45日
棚卸資産回転期間          16日       27日
有形固定資産回転期間        66日      116日
買入債務回転期間          22日       30日
固定負債回転期間          37日      119日
自己資本回転期間         156日      75日

こう見ると実は優良企業と一般企業の間で総資本回転率では大きな差がないことがわかります(1.5回⇔1.3回)。売上債権の回収日数も大きな違いはありません(44日⇔45日)。大きく違うのは棚卸回転期間と有形固定資産回転期間です。優良企業は在庫をあまり持たず設備なども最小限にしか持っていません。そのことが固定負債を少なくし、自己資本を充実させていることがわかります。

2.棚卸資産回転期間と有形固定資産回転率を改善する方法
これらの回転期間を改善する方法の一つとして売上を増やすことが考えられます。しかし売上が増えるかどうかは会社の努力もありますが基本的にはそれぞれ企業のお客さまが自社の商品を買ってくれるかどうかということになります。その意味では自助努力で改善できるかどうかはわからない面があります。他方、二つめの考え方である棚卸資産を減らす有形固定資産を減らすということは自社の意思決定で確実にできます。
(1)棚卸資産を減らす
棚卸を減らすにはまず入庫量を調整することです。具体的には1回の仕入数量を減ら
し仕入回数を増やすということです。あるいは売れ残りの在庫があるのであれば処分
することです。さらに今後在庫を増やさない、売れ残りを増やさないためには倉庫を
整理整頓し、タイムリーに処分し少しでも多くの現金化をすることです。
皆さん、在庫は現金と同じであるということを知っていますか?現金が1,000円無くな
れば大騒ぎしますが、仕入単価1,000円の在庫が無くなろうと売れ残っても大騒ぎを
しない。おかしなことです。ここの意識を変えることがまず大事です。
(2)有形固定資産を減らす
有形固定資産を減らすには使っていない機械設備や車両は処分するということです。
のちのち使用するかもわからない、あるいはまた以前のように忙しくなれば使うかも
わからないということで、いつまでもそのままにしがちですが、少しでも資産価値が
あるうちに処分すべきです。また必要になれば新しいものを購入すればよいのです。

3.棚卸資産回転期間、有形固定資産回転期間が改善されればどう変わる?
では、それぞれの回転期間が短くなれば、どう改善されるのでしょうか。
(1)在庫が減ればどう変わる
在庫が減るということは仕入が減るということになります。仕入が減れば売上原価が
減り、売上総利益率が増えることになります。また、仕入が減れば買入債務が減り、
その分、現預金が増えることになります。
つまり利益は増え運転資金も少なくなり、キャッシュも残るということになります。
(2)有形固定資産が減ればどう変わる
固定資産を処分するということはたとえ僅かでも現金になって手元に残ります。これ
を原資に返済に充てることもできます。さらに減価償却費も減りますから、利益は出
しやすくなります。またメンテナンス費など維持費が減ることも期待できます。維持
費が減れば、その分、現金が残ることになります。

■マネジメントはゲームである
マネジメントというと抽象的でどれほど効果があるのか疑わしく思われている方も多いと思います。したがって中小企業ほど、そんな暇があれば営業に回ったほうがマシだなどと考えられ、後回しにされがちです。しかし、マネジメントは営業と同様の土俵で考えられるものではありません。要するにマネジメントも営業も同じように重要だということです。
またマネジメントはゲームにも似ています。ボードゲームをした場合、ここでサイコロの目を5に出したいとか思います。またその場面場面でどうするか決めます。経営もそれと同様で、場面場面でマネジメントを行えば会社を持って行きたい方へ持っていくことが可能となります。
もう以前のような感と経験、どんぶり勘定で経営をする時代ではありません。新しい局面、局面を迎えていますので昔の感と経験では対応できません。またどんぶり勘定では会社を継続化させることはできません。しっかりと会計に基づく勘定管理をしないと的確な判断もできません。
時間はまだまだあります。これから新しい経営方針を持って臨みましょう。