543.経営計画(予算)の作り方 後編

2021年12月6日

前回は大枠の経営計画の作り方について説明しました。今回はその細部について、ポイントをご紹介します。

 

1 経営計画は「利益」から考え始める

 経営計画を売上高から考え始め、売上原価、経費、営業利益へと、徐々に下を考える経営者が多いようですが、

この考え方には問題があります。

何が問題かといえば、経営計画の最終目的は「売上高」にあるのではなく、「利益」を達成することにあるからです。

したがって経営計画は、次年度の必要利益をまず考え、そこから徐々に上に遡っていく考え方を身につけましょう。

経営計画は「必要利益」の意思決定からスタートする!

 

2 必要利益とは

 では、「必要利益」とは何でしょうか? それは『内部留保額』と『借入返済額』です。

 内部留保額とは、増加させたい資金額のことです。

現在の手元資金が500万で、目標内部留保額を200万に設定し、

仮にその経営計画通りになったとすれば、来期末の手元資金は500万+200万で700万となっています。

 借入返済額とは、来期1年間の借入金返済金額です。

仮に毎月30万返済しているのであれば、年間360万となります。

借入金の返済は売上高からではなく、手元資金からしているのです。

ですから、その分を目標内部留保金額に加えねばなりません。

 そして、それで終わりかといえばそうではなく、「実効税率」を考えなければなりません。

実効税率とは、法人住民税・地方法人税・法人事業税をあわせた、法人の所得に課税される税金の実質的な負担割合のことです。

実際の細かい計算は別にして、だいたい30%程度と考えておくと良いかと思います。

 たとえば、目標内部留保金額を200万に設定し、借入金返済が360万ある場合の必要利益は

必要利益=(200万+360万)÷(1-30%)=800万となります。

そうすると、800万に対して30%の税金である240万を法人税等として納付することになりますので、

差引560万が手元に残ることになります。

つまり、目標内部留保金額の200万と借入返済額360万の合計560万と一致することになります。

必要利益は「(目標内部留保金額+借入金返済額)÷70%」で求める!

 

3 次に来期の固定費を考える

 必要利益の上にあるものは何かといえば、それは「固定費」です。

固定費は「人件費」と「それ以外の固定費」に分けて考える必要があります。

来期の固定費は人件費とそれ以外の固定費に分けて考える!

 

 人件費はさらに役員報酬と従業員給与・賞与に分けて考えます。

役員報酬はともかく、従業員給与・賞与はできれば昇給させたいものです。特に中小企業の場合には必要です。

やはり、そこそこの給与処遇ができていないと、いい人材を獲りたくても獲れません。

また、職場のモラールも向上させる必要がありますから、従業員給与・賞与はやはり昇給させる必要があります。

世間が2%、3%アップというのであれば、5%程度は上げたいものです。

 さらに人件費には社会保険料等も含まれます。

だいたい役員報酬・給与・賞与合計の15%程度を見込めば良いかと思います。

仮に、今年の役員報酬が年間1000万、従業員給与・賞与合計が1500万とすれば、

来期は役員報酬は同額としても、従業員給与・賞与は1500万×1.05=1575万必要となりますから、

会社が法定福利費として負担する社会保険料は、15%程度の386万は必要となります。

したがって、来期の人件費合計は1000万+1575万+386万=2961万となります。

来期の人件費は役員報酬と昇給後の従業員給与・賞与そして社会保険料から考える!

 

 次に人件費以外の固定費を考えますが、

これまで削減努力をしてきているのであれば、多くとも同額、あるいは少しでもまだ削減を考えたいところです。

ここでは仮に今年が1500万だとし、来期も最大同額と考え、1500万とします。

 すると固定費計は、人件費2961万+それ以外の固定費1500万で4461万となります。

 

4 次に来期の限界利益率を考える

「限界利益率」とは、これまででも説明しましたように、いわゆる『売上総利益率』ではありません。

あくまでも直接原価だけを除外した売上高に占める割合です。

一般的には、製造業の場合は売上総利益率と限界利益率は大きく変わり、それ以外の業種ではほぼ同額となると説明されますが、

実際は、直接原価とは管理会計の世界ですので、各企業ごとの認識・定義によって微妙に違ってきます。

 ここでは、仮に今年の限界利益率を70%と仮定し、付加価値をさらに高めるという考え方で、来期は72%しようとします。

固定費は削減した分だけしか利益は増えませんが、

限界利益率は売上高に対する割合ですので、たとえ1%上げるだけでも、利益を大幅に増やすことができることを理解しましょう。

限界利益率の改善は大幅な利益改善をもたらす!

 

 この場合だと、目標とする固定費総額は4461万であり、目標とする限界利益率は72%ですから

来期の目標固定費総額4461万÷目標限界利益率72%=目標売上高6195万 となります。

 もし目標限界利益率が今年と同じ70%としていたなら、

来期の目標固定費総額4461万÷目標限界利益率70%=目標売上高6372万 となり、

目標売上高が177万も上がることになります!

 

5 想定した売上高と比べてみる

 これで「必要利益」から考えた経営計画ができたことになりますが、ここであらかじめ想定していた売上高と比べてみます。

もし、想定していた売上高よりも著しく高い場合はその実現可能性を考え、無理と判断するなら、固定費や限界利益率あるいは

最終の内部留保金額などを見直し、より実現可能性の高い経営計画に修正します。

 

6 どうやってこの経営計画を実現させるのか、戦略戦術を考える

 経営計画は数値を作れば終わりではありません。 それを実現させる戦略や戦術を考えねばなりません。

売上高をどうやって伸ばすのか?

限界利益率をどうやって高めるのか?

固定費をどのようにして同額とするのか、あるいは減らすのか?

 この3点を経営者として考え、従業員に説明し、そして従業員の意見も取り入れ、

最終的に戦略戦術に全員の意思を注入しなければなりません。

戦略戦術を経営者として考え、従業員の意見も取り入れながら、全社一丸の方策とする!

 

7 予実管理は月1回でいいとは考えない

 いよいよ来期に入ると計画の進捗度を確認するために予実管理と活動修正を行うわけですが、

なぜか、予実管理は「月一度」という考え方に凝り固まっているようです。

もちろん、月一度でもいいわけですが、それだと年間12回の軌道修正の機会しかありません。

なかなか経営計画の達成ができない企業が多く、それだけ現実が厳しいわけですから、年12回だけの見直しの機会よりも

もっと多くの見直しの機会があった方が達成できる確率は高くなります。

したがって、年12回と固定的に考えるのではなく、実情に応じてもっと柔軟的に活動修正の機会を増やすことが重要です。

予実管理は「月次」と思い込まない!

目標達成が困難な場合ほど予実管理の機会を増やす!

 

8 実績管理の考え方

 予実管理の実績管理は、勘定科目ごとにすればよいのかといえば、これも思い込みで、実際にはそれでは大雑把すぎます。

実績管理はパソコンで行うことが当たり前になっていますので、細部まで原因解明ができるようにしたいものです。

 たとえば、売上高であれば、既存売上高と新規売上高に大別し、それぞれ得意先別とか商品別に把握したいものです。

直接原価も主要商品ごとや主要材料費ごとに集計管理したいものです。

人件費は役員報酬、従業員給与、従業員賞与、そして役員法定福利費、従業員法定福利費に分けて集計します。

そうすることで、全体の労働分配率、役員労働分配率、従業員労働分配率などが把握できます。

その他固定費も同様に、各科目ともそれぞれの費目ごとに集計管理し、何が固定費増加の要因になっているのか、

原因解明できるようにしたいものです。

 このようにすると、経理に費やす時間は当然増えますが、増えてもよいのではないのでしょうか。

なぜなら、経理とは「経営管理」の略です。

経営の状況を明らかにし、打ち手が打てるように、それなりの時間を投下すべきだと思われませんか?

経理とは経営管理であり、経営の状況を明らかにして打ち手が講じられることをいう!

 

9 経営計画の変更

 経営計画と実績の乖離が大きくなると、経営計画を修正する企業があります。

しかし、それは外部環境が変わらない限り、やってはならないことです。

なぜなら、その乖離の大きさが、自社の経営技術の稚拙さを表しているからです。

それらは数年かけて、大きな乖離が生じないように、経営スキルを高める必要があることを示しています。

経営計画乖離の大きさは、数年かけで経営技術を高める必要があることを示している!

 

 

このようにして行けば、経営は楽しいものであり、

さまざまな環境を乗り越えられる経営技術が身につけられると思われませんか?