231.経営技術 「イノベーションのジレンマ」

2015年10月27日

■イノベーションのジレンマ -リーダー企業の凋落は避けられないのか
 『イノベーションのジレンマ』はハーバードビジネススクールのクリスチャンセン教授による『強み伝い経営』に警鐘を鳴らした
経営理論です。クリスチャンセンは、いずれの企業も正しく行動するがゆえに、やがて市場のリーダシップを奪われてしまうのだと
いいます。
かのコダックも「フィルム技術を改善する」という正しい行動をしたゆえに、デジタルカメラの波に乗り遅れ、2012年1月に米連保破産法の適用を受けました。

 

1.持続的イノベーションと破壊的イノベーション
(1)持続的イノベーション
「持続的イノベーション」とは、既存の製品・サービスの性能などを引き続き高める技術革新のことをいいます。
企業は自社の強みである主要製品・サービスの性能や機能を引き上げるために惜しみなく努力します。
また社員にとっても主要製品を改善することは大きな評価となりますので、能動的に頑張ります。

(2)破壊的イノベーション
一方「破壊的イノベーション」とは、重要な既存ヘビーユーザーではなく、一部の新しいユーザー(オーバースペックユーザー)に評価されることから始まる技術革新をいいます。したがって、亜流になりますので、企業も社員もあまり力が入りません。

しかし、いま当たり前に企業で使われているパソコンは、メインフレーマーユーザーの使用から始まったのではなく、ホビーユーザーが受け入れたことから始まったことは記憶すべきことかもわかりません。

 

2.破壊的イノベーションがリーダー企業の交代をもたらす
 リーダー企業は既存主要ユーザー層に対する持続的イノベーションを進行させなくてはならず、また社内でも多くの人は日の当たる「持続的イノベーション」に従事することを志向しますので、日が当っていない「破壊的イノベーション」に従事することを希望する人もいません。したがって、自ずと『強み伝いの経営』をしていくことになります。
するとどうなるのでしょうか? そうです、企業の硬直化とか保守化が始まります。

つまり、「破壊的イノベーション」がリーダー企業の交代をもたらす結果となるのです。
破壊的イノベーションは一部のユーザーだけに受け入れられるところから静かに進行し、始まっているのです。

 

3.リーダー企業にとっての破壊的イノベーションの脅威
このように、破壊的イノベーションはリーダー企業が知らないうちに始まっています。
コダックしかり、一時のIBMしかり、そして最近のシャープしかりです。
この破壊的イノベーションには二通りあるといわれています。

(1)ローエンド型破壊的イノベーション
ローエンド型破壊的イノベーションとは、オーバースペック顧客を対象に起こります。オーバースペック顧客とは使えきれない顧客という意味です。リモコンやスマートフォン、あるいは高級家電製品などが挙げられます。多くの顧客ニーズに応えるあまり、一人一人のユーザーからみれば、なんと使わない機能が多いことか・・、それで高いお金を支払っています。
そこでローエンド型破壊的イノベーションとは、従来品より性能などが低くて低価格な製品・サービスで参入することをいいます。

(2)新市場型破壊的イノベーション
新市場型破壊的イノベーションとは、従来の製品・サービスにはない性能などを提供し、新たな需要を作り出すイノベーションのことをいいます。

(3)破壊的イノベーションが成立する条件・特徴
では、これら破壊的イノベーションが成立する条件・特徴にはどのようなものがあるのでしょうか。
①ニーズはあるが、スキルやお金がない顧客市場がある
②(このような顧客は従来品と比較しないため)従来品ほど性能が良くなくとも購入する
③だれにでも使えること
④新しい流通経路や利用シュチュエーションを創造する
たとえば、最近注目されるものに、クラウドコンピューティングがあります。もうサーバーなんか持つ必要はなく、かなり驚くほどの低価格で利用できます。またパソコンのスペックさえそこそこあれば、快適です。さらにメーカーや量販店経由ではなくインターネット経由で利用ができます。ただ課題は、だれにでも使えるところに少しネックがありますが、新市場型破壊的イノベーションとしてに成長していく可能性があります。

 

3.破壊的イノベーションは別組織で追求する
最後にこの破壊的イノベーションの追求の仕方について言及しています。それは企業には「不均等な意欲」があるので、破壊的イノベーションは別組織で追求すべきだといっています。
多くの企業は「持続的イノベーション」と「破壊的イノベーション」を同じ組織の中で追求しようとするが、それが失敗の原因だといっています。なぜなら、持続的イノベーションは組織にとって花形ですが、破壊的イノベーションはその時点では組織の日陰であるからです。したがって、破壊的イノベーションを妨げることとなるとクリスチャンセンはいっています。

 

 

「イノベーションのジレンマ」はあまり馴染みのない経営理論ですが、強み伝いの経営というものに対して強く警鐘を鳴らしています。強み伝いをしている以上は、いずれ市場から退場するしかないということです。
冷静に考えればそれはそうですよね、時間が経てば明白です。いまだ戦後直後の経営でよいと思われている経営者は少ない筈です。
しかしながら現在に生きているとそれがなかなか出来ないし、気づかないものです。コアコンピタンスでも「過去を忘れる」というフレーズがありましたが、常に革新し、永続的に続く企業経営をしていきましょう。