36.損益分岐点力③経営安全率

2010年2月5日

財務分析解説コラム(20) 当社の損益分岐点を検証する-経営安全率-
第3回目の今回は『経営安全率』です。

1.経営安全率とは
『経営安全率』とは、前回説明した『損益分岐点比率』の10の補数です。つまり、『損益分岐点比率』が94.5%であれば、『経営安全率』は5.5%となります。
意味は「収支トントンになるまでの余裕率」ということです。『経営安全率』が5.5%ということは、たとえ売上高が5.5%減少しても経常利益は0であるということです。
従って、計算式は次のとおりとなります。
計算式:経営安全率=100-損益分岐点比率
※損益分岐点比率=損益分岐点売上高÷売上高実績

『経営安全率』は「現在の売上高が損益分岐点をどれだけ上回っているかを表す」とも表現できますので、次のようにまとめられます。
①現在の売上高=損益分岐点ならば  『経営安全率』は0%、
②現在の売上高>損益分岐点ならば  『経営安全率』はプラス
③現在の売上高<損益分岐点ならば  『経営安全率』はマイナス
TKC経営指標によれば、業種別の『経営安全率』は次のとおりです。
①全業種8.2%  ②建設業7.0%  ③製造業9.7%  ④卸売業10.6%
⑤小売業6.4%  ⑥飲食・宿泊業4.5%  ⑦サービス7.3%
以前であれば、『経営安全率』は10%~15%ぐらいを目指せば良かったのでしょうが、いまの経営環境下では、高ければ高いに越したことはなく、目標を25%程度において経営して行きたいものです。

2.経営安全率の見方
『経営安全率』はいま説明したとおり、高ければ高いほど良いわけです。これは得意先が風邪をひいても、会社は肺炎にならない。つまり、『経営安全率』とは得意先の経営状態が悪くなり、売上高が減っても耐えられる数値と言えます。以前なら『経営安全率』が15%を超えれば、「儲かって経営が安全な会社」と言えたかもわかりません。しかし今後の経営環境を推測すれば、25%程度は欲しいところです。大変高い『経営安全率』ですが、ぜひチャレンジしましょう。
なおTKC経営指標によれば、赤字企業の平均『経営安全率』は-7%、黒字企業の平均『経営安全率』は8%です。さらに黒字企業の上位15%に当る優良企業の平均『経営安全率』は18%だそうです。

3.経営安全率を改善・良くするには
『経営安全率』を改善・良くするとは、限界利益に占める経常利益の割合を高めることです。つまり、経常利益を増やす必要があります。経常利益=限界利益-固定費ですから、限界利益を増やすか、固定費(人件費や経費)を削減することが『経営安全率』のアップにつながります。具体的には次のとおりとなります。
(1)固定費を削減する
すぐ着手でき、容易に改善できることは、「固定費を削減する」ということです。固定費を削減しただけで、大きく『経営安全率』を上げることができます。固定費削減目標を達成するためには、削減目標を掲げ、全
員に明示することが大切です。そして達成したことを全員に知らしめる・・。そうすることによって、さらに冗費節減はできる筈です。またトップ自らの率先垂範も大事です。社員には強いるだけで、社長は別世界で
は社員はついてきません。固定費削減の具体論は何回か説明していますが、再度、参考までに記載しておきます。
①人件費
基本的にはいままでの給与支給額を下げることはできません。しかしここで申しあげたいことは、これまでのような右肩上がりの定期昇給時代は終わりつつあるということです。デフレと言われ久しくなっています
が、今後を予測すれば、物価は円高や内外価格差是正に向かって、まだしばらくは下がり続けることが予測されます。さらに今の為替レートで換算すると実感はともかく、いつのまにか日本は世界一の高人件費国家のひとつとなっています。「実感が伴わない」ということは相対的に物価が高すぎるということになり、ということは、物価はまだ下がらなくてはならないと言えます。いずれにせよ、このような背景から人件費は検討する必要があります。
②旅費交通費
タクシーは利用していませんか。高速道路は安易に利用していませんか。少し時間はかかっても、一番安い経路で移動していますか。改善のポイントは2点です。それは社長の率先垂範と社員別管理の実施です。これで、旅費交通費は数10%の削減可能です。
③広告宣伝費
定期的な情報提供を郵送している場合、それをPDF化してメールで送信することはできませんか。また会社案内は、ホームページが当たり前の時代にまだ必要ですか。あるいはFAX同報もメールに置換えられ
ませんか。インターネットの活用によって広告宣伝費は劇的に削減可能です。
④車両
いまの台数だけ車両は必要ですか。もし車両が1台減らせれば、駐車場代やガソリン代、車検代、保険料など、車両関連費も併せて、かなりの金額が削減できます。
⑤事務消耗品費
いままで事務用品はすべて会社で支給していませんでしたか。封筒などはともかく、筆記用具などは個人負担にしてもおかしくありません。またコピーの利用状況はどうですか。カラーコピーを頻繁にしていませんか。あるいは裏紙の有効利用はしていますか。もっと言えば、複合機をコピー機能付きのパソコンプリンタに変更できませんか。細部を検討すれば、事務消耗品費も数10%の削減が可能です。
⑥通信費
通信費の内容は、電話代・FAX・郵便などに分けられると思いますが、まず電話回線を減らせませんか。さらにFAXと郵便はメールに変更できませんか。電話回線の見直し、FAX・郵便のメール化によって、通信費は数10%以上の削減が可能です。
⑦水道光熱費
特に電気代は削減可能です。不要な電気は消しましょう。コンセントのつけっぱなしも止めましょう。電気代の削減はECOにも繋がりますので、時代の要請です。
⑧管理諸費
ホームページの維持管理費は年間どのくらい支払っていますか。早くからホームページなどを開設された場合、以前からの維持管理費をそのまま支払い続けていませんか。もともとからホームページの維持管理費はそんなにかかりません。ただ当初は、それほど利用が一般的ではありませんでしたので高い時代もありました。しかし今は違います。ぜひ一度、確認しましょう。
その他にも、ご自分で自分の会社のことを具体的に振り返れば、もっと削減できるものがあると思います。わかっていただきたいことは、このような固定費の削減は、その削減額がそのまま利益の増額となるということです。もし小さな会社で月額7~8万円削減できれば年間100万円ほどとなり、100万円も利益が増えれば、一気に赤字解消になるかもしれません。ぜひ、検討しましょう。大企業は驚くほどの努力をしています。
(2)限界利益を改善する
『限界利益』の改善とは、『変動費比率』の改善と言い換えられます。具体的には仕入数量の見直しや仕入単価の見直し、ロス率の低減などが考えられます。多くの大企業では、中国や東南アジアで生産していることはご存知のとおりです。ここで大事なことは2点です。一つは、海外生産はもう大企業だけのものではなく、いまや中小企業でも対応可能であると考えることです。もう一つは、たとえ0.1%の変動費比率の改善であっても、非常に効果としては大きいということです。これまでの既成概念や固定観念に囚われずに考えることが重要です。

時代は変わり、中小企業だからという「甘え」はもう許されなくなってきました。
中小企業は弱者だという考え方ではなく、「少数精鋭企業だ」とでもいうような気概をもった考え方が必要となっています。その一環として「会計資料」という自社の診断書を読みこなし、自社の症状を自ら発見し自らその処方箋・戦術を考え、会社全体にそのことを明らかにして実行していくことが大事だと思います。中小企業も大企業と同等の「経営心」を持って会社経営にあたる時代です。
「会計資料が読めない、読まない」ということは、そこに経営危機が迫っているのに気づくことができず、表面化したときには「倒産」という憂き目に会うということでもあります。
ぜひ、自社にちょっとした「チェンジ」というスパイスをふりかけましょう。
次回もお楽しみに・・