27.運転資金力②経常収支比率

2009年11月27日

財務分析解説コラム(11) 自社の運転資金を検証する -経常収支比率-
最近の経済状況を見ていますと上場企業を中心に業績は回復しているようですが、他方、円高や株価安と、どうも先行き不透明感が増しているように思えます。消費者市場においても低価格化競争が激しさを増し、「デフレ宣言」がされるなど我慢比べの様相を見せ、どうやら景気にも“二番底”がやってくるようです。このような状況下で大切なことは、運転資金を確保するということです。前回は『必要運転資金』について説明しましたが、今回はその源泉でもある『経常収支』について説明します。

損益計算と資金計算の違い
①損益計算書はあくまで「理論的な販売活動の損益計算」であって実際の資金有り高は示していません。端的に言えば損益計算書上はたとえ黒字であっても、その売上高は資金回収されているものもあれば、されてないものもあるので、必ずしも現金有り高を示していないということです。
②そこで重要なのは「資金繰り管理」です。「資金繰り管理」とはキャッシュ(現金・普通預金)による『資金収支計算書』です。例えば今日、売上高が100万円上がったからといって、現金又は普通預金が100万円増えているわけではありません。売上計上してから請求書を発行し入金があって、初めて現金又は普通預金として100万円が入手できるわけです。現金商売で無い限り、通常は売上計上してから1~2ヶ月ほど経って入金されてきます。一方、人件費や経費などは、その都度支払っていかなくてはなりません。
③このように、売上と資金には「タイムラグ」があり、支払はその都度しなくてはなりませんので、現在のような不透明な経営環境では「資金繰り管理」が絶対必要となります。「資金繰り管理」は経常収入と経常支出に加えて、財務等収入と財務等支出の4つに分けて管理します。経常収入・経常支出とは、冠に「経常」がついているように、通常の販売活動で得る現金・普通預金の収入と、通常の販売活動で支払う現金・普通預金の支出です。通常の販売活動で得る現金・普通預金の収入とは、現金売上、売掛金入金、受取手形取立、営業外収益などが上げられます。通常の販売活動で支払う現金・普通預金の支出とは、現金仕入、買掛金支払、支払手形決済、外注費、人件費、地代家賃、水道光熱費、通信費、支払利息などが上げられます。

経常収支とは
①「経常収支」とはその経常収入と経常支出の合計をいいますが、当然のことながら、通常の販売活動における資金収支合計ですから、原則、経常収入が経常支出を上回らないといけません。経常収入と経常支出の比較を『経常収支比率』といい、計算式は次のとおりです。
計算式:経常収支比率=継承収入÷経常支出
再度繰り返しになりますが、当然この『経常収支比率』は、通常100%以上でなければなりません。
②次に、経常収支の残高で借入金の返済や定期預金の預入をします。これらは通常の販売活動による支出ではありませんので『財務等支出』といいます。通常月においてはここまでが経常収入でカバーでき、その残りは翌月の月初資金に回したいものです。

資金繰り管理の活かし方
(1)財務等収入とは
しかし、ヒット商品が得られ急激に売上が増えた、またあるいは今月は賞与支給月である場合などは、『経常収支比率』は100%未満(経常収入より経常支出が多い)になることも予想できます。そんな場合はどうされますか?これまでの経常収入の蓄積でそれをカバーできれば良いのですが、できない場合は定期預金や積立預金を取崩したり、あるいは短期借入金や役員借入金などで資金を調達したりしなければなりません。そのことを『財務等収入』と言い、つまり「資金手当」を示します。
(2)資金手当「財務等収入」を前もって計画する
資金手当である『財務等収入』を、その都度、手立てするということでは、いつも手立てできればいいのですが、いつもできるとは限りません。その意味では、そのような繰り返しでは、会社経営は不安定なものになります。そこで、会社経営の安定化を図るためにも、予め、予想に基づいて資金手当をしておきたいものです。そのためには「資金繰り計画表」が必要となります。資金繰り計画表に基づいて、資金ショートの時期を前もって想定し、資金手当『財務等収入』の準備をしておきます。資金繰り管理を活かすためには、「資金繰り計画表」とセットすることが必要になります。
(3)資金繰り管理の実務
この資金繰り管理は毎日あるいは毎週行うということが重要です。月次試算表のように月次単位で資金繰り管理を行っても意味はありません。月次単位では、過去の結果を集計しているだけで、現在進行形の管理にはなりません。「資金の切れ目が会社の切れ目」、つまり『倒産』ということに繋がります。経営者である以上、あるいは経営を担う幹部である以上、この資金繰り管理を疎かにはできません。

資金繰りを改善するには
(1)経常収入を改善する
『経常収入』の内訳を見ればわかるように、根本的な改善方法は売上高を増やすことです。次に、受取手形や売掛金の売上債権の回収を約定通りに行うということです。会社経営規模が小さくなれば小さくなるほど、この回収管理がルーズになります。理由は単純です。会社経営規模が小さければ小さいほど公私の距離感が近くなり、取引においても「なあなあになる」からです。経費において「公私のケジメをつけること」とよく言われますが、販売においても「公私のケジメをつけること」が大切です。具体的には当然のことですが、注文書をきちんと取ること、揃えること。次に納品書を発行・受領し、請求書を発行すること。さらに、注文書、納品書、請求書それぞれに、支払い期日を書いておくことも大切です。また約定通り、得意先から支払がない場合は、電話を直ちにすること。それでもダメなら、請求書を再度送付すること。それでもダメなら、担当者が先方へ出向くこと。最終的にはトップ自ら、訪問に同行することも重要です。これらのことはしたくないことですが、しかし、こういうことをして行かないと、後でもっと嫌なことをしなければならない羽目になったり、あるいはそれをしなければ、当社が倒産したりするということになります。仕事・事業は、ビジネスです。当社・取引先お互いに、公私のケジメとルールを守って会社経営をして行きたいものです。

(2)経常支出を抑える
もう一つの改善方法としては『経常支出』を抑えるということです。具体的には、仕入額を削減する、支払条件を引き延ばしする、人件費・経費を抑えるということです。
①仕入額を削減するとは、仕入単価を見直す、仕入量を抑える、仕入品種を絞り込むなど、具体的に考えればかなりの方法があります。また間接的ではありますが、在庫管理をしっかり行って、ロス率を低減することなども関係してきます。
②経費についても同様です。タクシーを使わない、営業経路などを考えて交通費を抑える、顧客との取引状況・将来性などから訪問による営業と電話による営業を明確にする。広告費についてもメールを活用する、ホームページやインターネットショップを利用する。事務用消耗品費についてもカラーコピーは使用しない、試し印刷は「2-UP」にし1枚に2ページ印刷する、コピー用紙はA4判に統一する、筆記具は自己負担とするなどいろいろ具体策はあります。電気代は小まめに蛍光灯を消灯する、退社時にはFAX以外のコンセントをすべて抜くなどして抑える。一つ一つは非常に小さな金額ですが、それに取り組むことです(上場企業などは意外とこういうことを実践しています)。また人件費についても社員のライフステージのことを考えたうえで、見直すことが必要だと思います。ある意味これからは、毎年昇給させる時代ではないのかもわかりません。そもそも、日本の人件費は、物価と同様、高すぎたのかもわかりません。そんな客観的な見方も必要だと思います。

いま中小企業は大変な時代に突入しています。商店は最盛期と比べれば30%も減っています。これでは、シャッター商店街も増えるはずです。一方、賑わいを取り戻した商店街もあります。そのような商店街では顧客視点からマーケティングをやり直し、地域状況に即した「変革」を実行しています。いずれにせよ、時代は大きく変わったということであり「これまでと同じことを繰り返ししていてはダメ」ということです。その場、その場凌ぎの対処療法ではなく、地味ですが「会計資料」という自社の診断書を読みこなし、自社の症状を発見し、その処方箋を明確にして実行していくことが根本的な治療となります。確かに、いままでは「会計資料」が読めなくとも、市場が拡大して来ましたから、困ることにはなりませんでした。しかし、いまは「市場収縮の時代」であり、「グローバル時代」です。「会計資料が読めない」ということは、そこに経営の危機が迫っているのに、気づくことすらできず、表面化したときには「倒産」という憂き目に会うことになります。時代は違っているのです。自社にちょっとした「チェンジ」というスパイスをふりかけましょう。

次回もお楽しみに・・