60.耐久力を知る③サイト期間

2010年9月15日

「会計で自社の耐久力を知る」の3回目は『サイト』についてです。サイトとは「期間」のことを言います。例えば、商品を仕入れてから売れるまでの期間とか、売上げてから売上代金を回収するまでの期間などです。サイトは回収サイトと支払サイトに大別されます。主な回収サイトには売掛金回転期間や売掛金に受取手形を加えた売上債権回転期間、それにたな卸資産回転期間などがあります。支払サイトには買掛金回転期間や、それに支払手形を加えた買入債務回転期間があります。

1.売掛金回転期間とは
販売活動は品物を納品し、請求書を郵送し、売上代金を回収して完了します。売掛金回転期間とは品物を納品し、代金を回収するまでの期間を言います。会計的に言えば、品物を納品し、納品書を受領することで売上債権が確定します。通常、請求書は締日でまとめて発行しますので、「翌月回収を基本」とされていても、売掛金回転期間は40日前後になります。もし売上計上基準を請求書ベースにされているのであれば、「翌月回収」の場合は、売掛金回転期間は約30日となります。また「サイト1」とは翌月回収のことを、「サイト2」とは翌々月回収のことを言います。
例えば、毎日1万円売上があり、その都度、現金回収している場合(つまり現金販売)は、毎日の売掛金はゼロですから、売掛金回転期間は0日です。翌日回収しているのであれば、毎日の売掛金は1万円となりますので、売掛金回転期間は1日となります。これを翌月回収されるのであれば、売掛金は30万円ほどありますから、売掛金回転期間は30日程度になります。このように考えれば売掛金回転期間を求める計算式もおおよそわかりますよね。
売掛金回転期間(日) = 売掛金 ÷ 1日当たりの売上高
ですから、社長が「当社は代金は翌月回収が基本」と思われているのであれば、基本的に売掛金回転期間は30日前後となるはずです。しかし、現実は30日前後であるはずのものが、50日であったり60日であったりします。なぜでしょうか?
それは少々代金支払が遅れても、そのうち支払ってくれるだろうと回収管理がずさんだからです。売掛金回転期間が延びれば延びるほど、運転資金は厳しくなります。さらに不良債権化していきます。それは月々30万円だったら支払えるけれど、2か月分溜まれば60万円となり、「少し待って欲しい」という話に発展していきます。それが積もれば積もるほど支払が厳しくなり、不良債権へと育っていくことになります。
なお、売上債権回転期間も同じことです。売掛金に受取手形を加えれば、売上債権回転期間となります。したがって、次のような関係になります。
売上債権回転期間(日)=売掛金回転期間(日) +受取手形回転期間(日)

2.たな卸資産回転期間とは
販売するためには商品を仕入れます。売れ残ったものは在庫となり、在庫が少なくなればまた仕入をします。これを繰り返すわけですが、この仕入れてから販売するまでの期間をたな卸資産回転期間と言います。
例えば、毎日5千円仕入れるとします。これが毎日売り切れれば、在庫はゼロとなりますので、たな卸資産回転期間は0日となります。生鮮食料品店などは毎日新鮮なものが販売できればいいので、在庫ゼロが究極の理想です。あるいは翌日の販売分を本日仕入するとします。この場合は在庫は1日分となりますので、たな卸資産回転期間は1日となります。したがってたな卸資産回転期間を求める計算式は次のようになります。
たな卸資産回転期間(日) = たな卸資産 ÷ 1日当たりの売上高
ここでちょっと注意点を。販売は粗利益を乗せて販売します。しかし、たな卸資産は原価です。したがって原価率が50%の場合、たな卸資産回転期間は実際の半分になっているということです。ですからたな卸資産回転期間が思ったより短いとぬか喜びしてはいけません。本来のたな卸資産回転期間は原価率で割り戻すと本来の在庫期間が掴めます。
<ケーススタディ>1日当たりの売上高10万円、たな卸資産120万円、原価率60%の場合
たな卸資産回転期間 = 120万円 ÷ 10万円 =12日
実質のたな卸資産回転期間 = 12日 ÷ 60% =20日
このようにこの場合はたな卸資産回転期間12日ですが、実質は20日分の在庫があると言うことになります。

3.買掛金回転期間とは
買掛金回転期間とは、売掛金回転期間と対になる回転期間です。つまり、品物を仕入し、代金を支払うまでの期間を言います。買掛金回転期間の求め方は次のようになります。
買掛金回転期間(日) = 買掛金 ÷ 1日当たりの売上高
しかし、この買掛金回転期間もたな卸資産回転期間と同様の落とし穴があります。つまり、買掛金は原価の支払ですから、1日当たりの売上高で割ると買掛金回転期間は実質よりも短く計算されるということです。実態の買掛金回転期間を求めるには、たな卸資産回転期間と同様に原価率で割り戻すか、1日当たりの売上高で割り算をするのではなく、1日当たりの仕入高で割るようにします。
なお、買入債務回転期間も同じことです。買掛金に支払手形を加えれば、買入債務回転期間となります。したがって、次のような関係になります。
買入債務回転期間(日) =買掛金回転期間(日) +支払手形回転期間(日)

4.運転資金に応用する
この3つの指標を運転資金の計算に応用できます。ところで『運転資金』とは何でしょうか。運転資金とは販売活動に必要な資金ということです。ちなみに設備投資に必要な資金は設備資金、納税に必要な資金は納税資金、賞与支払に必要な資金は賞与資金といいます。
では、販売活動に必要な資金とは何でしょうか。それは商品仕入資金であり、債権回収までの資金です。つまり。次のとおりです。
運転資金 = たな卸資産 + 売上債権
一方、販売活動に必要な資金を調達しているものがあります。それは、本来、支払わなければならない代金を支払わないままにしている買入債務です。したがって、必要な運転資金は次の計算式により求められます。
必要運転資金 = (たな卸資産+売上債権) - 買入債務
これだけの資金が販売活動をしていくためだけに必要な資金となります。この必要運転資金を上回る現金・預金があれば良いことになります。
さらに、売上拡大につれて必要な資金も分かります。それを『運転資金の要調達率』と呼んでいます。
運転資金の要調達率 = 必要運転資金 ÷ 年間売上高 ×100
例えば、売上高増加が100万円見込まれる場合、100万円にこの運転資金の要調達率を掛ければ、調達しなければならない額が求められます。

どうですか、会計って理屈がわかってくると、けっこう経営に役立つと思いませんか。何回も言いますが、簿記・会計は税務署や金融機関に求められるからする事務ではありません。自社の経営状況を把握するためにやる『経営管理業務』です。また、だから毎日、会計処理をする必要があるわけです。そうすれば常に最新の経営状況が掴めることになります。
なお、インプルーブ研究所にお問合わせ(ココカラ)いただければ、簡単に自社の耐久力を診断できるシートをお送りいたします。

次回は自社の耐久力を知る最終回、「耐久力の改善のしかた」について説明いたします。