38.損益分岐点力⑤労働分配率

2010年2月19日

財務分析解説コラム(22) 当社の損益分岐点を検証する-労働分配率-
当社の損益分岐点を検証するの第5回は『労働分配率』です。

1.労働分配率とは
『労働分配率』とは限界利益に占める人件費の割合です。人件費が会社の限界利益に対して適正な水準であるかどうかを確認する指標です。ここでいう「適正」とは、あくまでも会社の限界利益に対してであり、社会一般における適正度ではありません。前期に比べて労働分配率が上がったとは、限界利益が増える割合よりも、人件費が増える割合が大きかったことを意味します。
計算式は次のとおりです。
計算式: 労働分配率=人件費÷限界利益
限界利益とは売上高から変動費を引いたものでしたね。また人件費とは総人件費のことを表し、具体的には 賃金、給与、賞与、役員報酬、会社負担の社会保険料、福利厚生費、労働保険料、通勤費など を含みます。
業種別の黒字企業『労働分配率』はおおよそ次のとおりです。
①農業  40.3% ②林業  51.6% ③漁業    43.6%
④建設業 59.8% ⑤製造業 54.7% ⑥運輸・通信業52.3%
⑦卸売業 50.6% ⑧小売業 50.9% ⑨飲食業   55.2%
⑩不動産業30.0% ⑪サービス56.8% ⑫全業種   54.0%

なお、業種コード単位の具体的な『労働分配率』については、メールにてお問い合わせいただければお答えいたします。

2.労働分配率の見方
(1)労働分配率が上がるとは
先ほど説明したとおり前期に比べて『労働分配率』が上がるとは、限界利益が増える割合よりも人件費が増える割合が大きかったことを意味します。つまり限界利益の残りは減りますので、収益率はたちまち悪化してしまいます。かと言って無理矢理に『労働分配率』を抑えると、給料・役員報酬を下げることになり、また社会一般的な相場もあるのでそうもできません。ということで「人件費の増加を踏まえた上で、これを吸収できるように利益の増加を図る経営努力及び計画が必要です」という絵に描いた餅のようなコメントになるわけですが、これは過去の考え方です。これからは、物価はあまり上がらなくなります。つまり、よく言われているデフレ基調ということです。このことは日本社会が成熟社会に突入していることを示しており、右肩上がりの昇給時代は終わってきたとも言えます。したがって全社でよく話合いをして『労働分配率』について柔軟に考える必要があります。そんなことは難しいと思われる社長さんもおられると思いますが、中小企業だからこそ、それが可能なのです。社員の皆さんとじっくり話をされては如何でしょうか。
(2)理想の労働分配率
全業種の黒字企業平均『労働分配率』は54%程度です。一般的には45~55%が理想だと言われていますので、それを裏付けるような統計値です。限界利益は人件費と人件費を除く固定費、それに経常利益に分配されるわけです。業種業態によって経費率は違いますので一概に言えませんが、人件費50:その他固定費35~40:経常利益10~15程度のフレームが理想だと言われています。経営手法としては「人件費はより多く、労働分配率はより低く」というマネジメントが求められます。

3.労働分配率の改善の仕方
『労働分配率』を改善するには3つの方策があります。①売上を増やす ②変動費比率を下げる ③固定費を削減する、この3つの方法です。実行しやすい順は、この逆の固定費、変動費、売上高の順です。では、それらについてコンパクトに説明しましょう。
(1)固定費を削減する
固定費の削減に聖域はありません。節約できる経費はすべて節約します。特に車両、交通費、電気代、郵便のメール化、電話代、コピー代などはメスを入れれば必ず節約できます。ただ人件費については残業代を含めて慎重に行う必要があります。つまり、社員皆さんのライフステージが違いますので、その配慮がないと会社の第一の使命である社員の幸福に反するばかりか、重要な人財を失うことにもなります。
(2)変動費比率を下げる
変動費比率を下げる要点は、在庫の管理と仕入数量の見直しと仕入条件の変更です。在庫の管理とはデッドストックを無くすということです。仕入数量の見直しとは発注回数を増やして1回当たりの発注数量を抑えるということです。またこのことが在庫管理の改善にも結びつきます。仕入条件の変更とは掛仕入から現金支払に変更するあるいは支払期間を短くして下代を下げるとか、さらには合同で仕入を行い数量を増やして単価を下げるなどの方法です。
(3)売上を増やす
ここまで商品や製品あるいはサービスなどがコモディティ化してくると、割安感は基本的に大切なことだと思います。そのうえで「ついで買い」を誘導して、セット販売していくことが着想のヒントだと思います。またネットショップを始めることです。もう買い物は出かけてする時代から、家中買い物時代が来ています。たとえ、ネットでの販売量が少なくても、未来に対するノウハウの取得目的で、まず安価なネットショップからでもすぐに始めることが重要です。最後に海外販売です。日本はこれからまだまだ人口は減るというトレンドで、このトレンドは一朝一夕には変化しません。と同時に足元ではグローバル化が進んでいます。会社の規模に関係なく、海外取引は考えるべきです。これにもネットショップなどのウェブサイトは重要となります。

時代は変わり、中小企業だからという「甘え」は許されなくなってきました。中小企業は弱者だという考え方ではなく、「少数精鋭企業だ」とでもいうような気概をもった考え方が必要です。その一環として「会計資料」という自社の診断書を読みこなし、自社の症状を自ら発見し自らその処方箋・戦術を考え、会社全体にそのことを明らかにして実行していくことが大事だと思います。中小企業も大企業と同等の「経営心」を持って会社経営にあたることが重要だと思います。
「会計資料が読めない、読まない」ということは、そこに経営危機が迫っているのに気づくことができず、表面化したときには「倒産」という憂き目に会うということでもあります。ぜひ、自社にちょっとした「チェンジ」というスパイスをふりかけましょう。
次回もお楽しみに・・・