44.かんたん経営計画②C/S

2010年4月2日

財務分析解説コラム(28)
かんたん経営計画-資金計画書の立て方-

先行き不透明な時代、経営計画は大切です。よく言われる言い方ですが「経営計画は会社にとって来期の航海図」です。かといって書籍やインターネットで説明されている経営計画書の作り方ではちょっと大変と思われた方も多いのではないのでしょうか。ましてソフトを利用してまで作ることもない。
今回は、簡単な経営計画書の作り方の第2回目、「資金計画書の作り方」をご紹介します。

1.資金計画書と利益計画書の違い
利益計画書は“発生ベース”の利益計画書です。発生ベースとは、取引の発生ベースということです。例えば、10万円の注文書を取ってきたとします。売上計上基準が受注ベースであれば、これで売上高10万円です。
しかし資金計画書は違います。資金は注文書を取ってきただけでは、現金も預金も増えません。請求書を送付して、入金があって、初めて資金は10万円増えます。このように損益計算と資金計算にはタイムラグがあります。仮に月初受注し、請求書を25日に送付して、翌月の25日に入金があるのであれば、55日ほど利益計画と資金計画にはズレが生じます。

2.資金計画書はたいへん重要
以前であれば、前年、資金繰りが着いて経営してきたのであれば、今期も同じ売上高が確保でき、売掛金回収も昨年同様にできれば、事業は継続できました。従って資金計画、資金管理はしなくともよかったかもしれません。
しかし現代は違います。環境の変化が激しく、スピードアップしています。さらに低価格競争です。これまでも、もちろん少々の売上変動はあったでしょうが、いまは20%、30%はざらです。加えて厳しい経営環境の中、いつ得意先も倒産するかわかりません。よって資金計画と資金管理は重要です。

3.資金計画書はどう作る
(1)まず利益計画書を作る
資金計画書のベースは利益計画書です。基本的に翌月回収・翌月支払であれば、1月の利益計画が2月の資金計画になります。では1月の資金計画はどうなるのでしょうか?前年12月の損益が1月の資金計画になります。
(2)BS取引を加える
利益計画だけが資金計画のすべてではありません。それに、BS取引を加える必要があります。例えば、借入金の返済です。この取引は現預金が減って、長期借入金返済に回ることになります。また、定期預金も流動性資金から固定性資金に変わりますので、現預金が減って、定期積立に回ることになります。
(3)期末売上債権の回収計画と期末買入債務の支払計画を加える
期末の売上債権(受取手形と売掛金)は翌期に回収されることになります。受取手形は翌月入金であれば1月に全額回収されるはずです。売掛金は翌月受取手形回収後、翌々月入金であれば2月に全額回収されるはずです。しかし現実は、こう単純には行かないことが多いようです。ひとつは回収不能な売上債権がある場合が多いことによります。次に約定とおり回収されていないことなどによります。期末の売上債権がそうであれば、翌期の売上高回収も(1)で言ったような単純なものにはなりません。このことが実態と比べて遊離していれば遊離しているほど、単純な回収計画に基づいた資金計画書では役に立たないこととなります。
同様に、このことは買入債務(支払手形と買掛金)についても言えます。
(4)グルーピングをしなおす
資金計画は4分法で作成するということがルールとなっています。社内だけでしか活用しないのであれば、いわゆるローカル(社内)ルールの資金計画書でも良いのでしょうが銀行などにも提出するということであれば、4分法で作成した方が良いでしょう。
4分法と言ってもそんなに難しい話ではありません。利益計画で言えば、売上高、売上原価、販売費及び一般管理費というようなグルーピングがあるように、資金計画でもあります。それが経常収入、経常支出、財務等支出、財務等収入というグループ名です。
①経常収入
経常収入とは通常の営業活動で経常的に入ってくる資金収入という意味です。例えば、現金売上や売掛金回収、受取利息などが上げられます。
②経常支出
経常支出とはその反対で、通常の営業活動で経常的に出ていく資金支出です。例えば、給与支払、通信費支払、交通費支払、光熱費支払、支払利息などがあげられます。主要なものでまとめ、あとはその他支払でよいかと思います。
③財務等支出
財務等支出とは営業活動以外で支出していく資金支出です。例えば、短期借入金返済や長期借入金返済、定期積金、役員借入金返済などです。ただ短期借入金返済や長期借入金返済が複数あるのであれば、ひとつひとつ分けて表示した方が見やすくなります。
④財務等収入
財務等収入とは営業活動以外で入ってくる資金収入です。これは言ってみれば“資金手当”であり、計画上、非常に重要です。①②③の結果、資金が足りない場合どうするかということです。例えば、定期積金の取崩しや役員借入、あるいは短期借入れや長期借入などがあげられます。
(5)最後に締めです
ここまでできれば、あとは締めとして、月初資金有り高と月末資金有り高を最初と最後に表示させます。これで資金計画表の完成です。

4.問題は期中の資金の動き
資金計画表はできましたが、これらはすべて月単位の流れです。現実の経営は1日、1日過ぎて行く訳ですから、月末は計算とおりでも、期中においては資金切れを起こすかもわかりません。経営の現実は、期中の資金管理を行わないと事業は継続できません。資金繰りについては、比較的安定している会社は資金計画を立て、月単位の資金管理を行っていけばよいのでしょうが、売上高が極端に下がっている会社や資金繰りが厳しい会社は、日々の資金計画を作ることは現実的ではありませんから、資金管理は日々行っていかなくてはなりません。
その場合は4分法による資金管理ではなく、現預金の推移を日々追いかけることが重要です。中小企業の場合、一般的に資金余裕はあまりありませんから、資金繰りが厳しい場合は社長自らが資金管理はやるべきです。事務員さんに資金管理をさせておいて、突然、「社長、明日には資金が足りません」と言われても、打つべき手がありません。それはともかく、中小企業の場合は、社長がすべてのことに対して責任を持たねばならないということです。

5.中小企業の資金手当は先手必勝
企業経営について「借金をしないことが王道」であり、「安定した経営が続けられる」とよく言いますが、それは机上の話としてそのとおりですが、現実はそう甘くはありません。銀行になぜ、融資を頼むのかと言えば、それは資金繰りが難しいから頼むわけです。しかし現実は資金繰りが厳しくなってしまったなら、返済余裕があればそうではありませんが、ほとんどの場合は返済余裕はないけれど、資金繰りが厳しく融資申し込みをする場合がほとんどです。そんな場合、残念ながら、そんな状況ではあまり銀行は融資してくれません。実務は「ある程度、資金余裕があるときに融資を受ける」、「金利は必要経費」ぐらいの気持ちで早めに資金手当を行わないと相手にしてもらえません。会計事務所が一般的に言うことと違うかもわかりません。経営にはリスクはつきものです。その反面、リターンもあるわけです。安定ばかり志向していたなら活力ある中小企業にはならないとも思います。しっかりした経営をして、リスクを低減させることが重要なのだと思います。そのためには脇に置いてしまっている「会計資料」を引っ張り出し、しっかり読みこなし
ていきましょう。

時代の潮目、新しい時代を迎えようとしていると何度か申しあげてきましたが、換言すれば「企業は継続なり(going concern)」と言いますが、生命にも限りがあるように、そもそも企業を永続させること自体が大変なことなんだと思います。
その上に現代はグローバル化やフラット化、国内においては少子高齢化、成熟社会化などさまざまな因子がこれまでにないスピードで世の中を変革させていっています。
大変厳しい経営環境であることは間違いないことですが、しかし大チャンスのときでもあります。つまり、環境・ルールが変わっているのですから、どの会社も新たなスタートラインに立っているということです。
チャンスだからといってすぐに自社のおかれている状況は変わるものではありませんが『強い意志』を持って努力することがいま大切なのだと思います。決算書や月次試算表はその羅針盤になります。決して、決算・申告、税務署や銀行のためにあるのではありません。自社のためにあるのです。それを読みこなすことによって自社診断と未来判断ができさまざまな『KAIZEN』の方策を提示してくれます。中小企業も大企業と同様の経営心を持って経営に当たることが重要だと思います。
ぜひ、自社にちょっとした『チェンジ』というスパイスをふりかけましょう。

次回もお楽しみに・・