68.2011年度経営課題 資金

2011年2月15日

前回は2011年度の経営課題として、次の5点を挙げました。
(1)手持ち資金は十分か
(2)固定費を十分下げているか
(3)変動費比率を十分下げられているか
(4)回転率をあげているか
(5)借入金依存度は適正か

今回からはその一つ一つについて詳しく説明しましょう。
まず、『手持ち資金は十分か』ということです。

1.手持ち資金とは
「手持ち資金」とは何でしょうか? 専門的に「手元流動性」といいます。
手元流動性とは、手元⇒すぐ融通できる、流動性⇒流動資産をいい、つまり手元にある資金(現預金等)のことをいいます。経営分析的には現金・預金に加え、すぐ処分可能な有価証券のことを含め、手元流動性といいますが、手元にある現預金と理解しても差し支えありません。

2.手持ち資金の重要性
すでにご存知のとおりですが、会社は赤字経営でも潰れません。赤字経営で資金が足りなくなれば、どこからか資金を調達できれば良いわけです。
また、黒字経営だからといって潰れないと限りません。たとえ黒字経営でも、売上回収ができず資金が足りなくなり、資金が調達できなければ、会社はアウトになります。
つまり、会社は『資金』が回らなくなると潰れてしまいます。
いまはほんとうに先行き不透明な不確実な時代です。またいつ、08年のような経済危機が来るとも限りません。最近の中東情勢やロシア・中国との関係あるいは米国経済の行方、さらにはTPPなど不安定要素をあげれば切りがありません。このような経営環境においては「手持ち資金を高める経営」が重要です。

3.手持ち資金の適正度はどうやってチェックする
では、会社の手持ち資金(手元流動性)が適正かどうか、どうやってチェックするのでしょうか。
他社と比べて多くあるといっても、会社の規模や実状がそれぞれ違いますから、「よその会社よりたくさん手持ち資金があるか」といって安心はできません。
自社の規模や実状と比べて、手持ち資金をチェックする必要があるということです。

4.具体的なチェックの仕方
(1)必要運転資金と比べる
販売活動に必要な資金を『運転資金』といいます。販売活動とは仕入れたり販売したりすることです。では、当社はどのくらい必要なのでしょうか。
そこで思い出してもらいたいのかB/Sの構造です。総資本(負債・純資産)はカネの出どころを示していましたね。資産はそのお金で購入したモノを示していました。
販売活動でのお金の出どころはどこかといえば、負債の部をよく見てください。販売で関係のある負債科目といえば、支払手形と買掛金です。この科目は仕入で支払わないといけない対価を待ってもらっているものです。したがって、調達資金とみなせます。この2つを合わせて『買入債務』といいます。
他方、販売活動で購入している、使っているモノは資産の部を見ると、受取手形・売掛金、それに在庫があります。これらの科目は本来、お金をもらわなくてならない科目ですが、それを待っているものです。したがって使っている(運用・使途)資金とみなせます。受取手形と売掛金を合わせて『売上債権』といいます。
すると次のような計算が成り立ちます。
必要運転資金(要調達運転資金)=売上債権+たな卸資産-買入債務
売上債権=受取手形+売掛金
買入債務=支払手形+買掛金
これと手元流動性を比較して『手元流動性運転資金比率』といいます。
手元流動性運転資金比率=手元流動性÷必要運転資金×100
この比率はできれば100%を超えるように手元流動性を増やすようにマネジメントしたいものです。社長、あなたの経営手腕でこの比率は100%以上にもなり、あるいは数%にもなるのですよ。これらはコントロールできるものなのです。
ちなみに支払手形を使っておられる社長さん、基本的には支払手形を使うのはやめましょう。なぜなら、支払手形は待ったナシで取引停止になってしまいます。いまはキャッシュ経営の時代です。
(2)平均月商と比べる
二つめのチェック方法は『平均月商』と比べる方法です。必要資金と比べると、少しハードルが高い比べ方です。
平均月商とは考えようによっては、これをもとに会社は毎月回っているといえます。売上げて回収したお金で、仕入代金を支払ったり、給料や経費を支払ったり、あるいは借入金を返済したりしているわけでです。そう考えると、できれば手持ち資金は1ヵ月分ほどの売上げに相当する金額はあってほしいものです。
平均月商=年商÷12ヶ月
これと手元流動性を比較して『手元流動性月商比率』といいます。
手元流動性月商比率=手元流動性÷平均月商×100
この比率はできれば100%を超えるようにしたいものですが、まずは50%超にはマネジメントしたいものです。社長、あなたの経営手腕でこの比率は50%以上あるいは100%以上にもなるものです。これらもコントロールできるものなのです。
(3)借入金と比べる
第3の考え方は『借入金(有利子負債)』と比べる方法です。これはこの3つの中で一番ハードルが高い考え方で、上場企業・大企業はこの考え方を取り入れ、『実質無借金経営』を実践しています。
借入金=有利子負債ですから、借入利息を支払っている借入金ということです。ですから、役員借入金は含まれません。
借入金(有利子負債)=短期借入金+長期借入金
これと手元流動性を比較して『実質無借金経営比率』といいます。
実質無借金経営比率=借入金(有利子負債)÷必要運転資金×100
この比率が100%を超えてれば、大企業並みの財務体質といえます。究極的には社長の経営手腕でこの比率は100%以上にしたいものです。
なお、『実質無借金経営』とは無借金経営ではありません。無借金経営とは文字とおり、借金(有利子負債)がない経営です。これと比べて実質無借金とは、借金はありけれど、それと同等かそれ以上の現預金がある経営をいいます。

■経営分析指標に基づく経営改善
経営分析指標にもとづく経営改善というと、単に数値が改善されるだけと思われている方が多いかもしれませんが、実はそうではありません。経営分析指標を改善していくプロセスには内部の協力と、そして外部に対する交渉・改善がないと達成できません。例えば、「売掛金の回収サイトを短縮したい」と思っても、社員全員がそのように動いてくれないとできません。さらにいくら会社側でそう思っても、得意先が協力してくれないと早く支払はしてくれません。早く支払いに応じてくれたということは、得意先側にそれだけこれまでの信用が持っていただけていたということであり、今後もさらにそれ以上の信用を維持し続けるということに他なりません。このように経営分析指標の改善は、まさしく企業体質が変革した実証なのであり、小手先の変化では経営分析指標の改善はされません。
ぜひ、経営分析指標に基づく経営改善をお勧めする次第です。

■決算対策では経営改善はできない
またこれまで経営改善というと決算対策が重要であるように言われていましたが、実は決算対策では経営改善はできません。決算対策は、決算報告が対外報告書であるため、極力美しく見えるようにする化粧みないなもので、下地は変わりません。決算を美しく見せることは重要であることに変わりはありませんが、経営を改善するという側面から見ると、重要なのは通院治療であり、月次対策が重要です。月次対策を講じることによって会社は良くなります。そのことを『PDCAマネジメントサイクル』と呼ぶわけですが、次回は今回ご紹介した「手持ち資金をどうやって増やすか」についてご説明します。