64.安全性の改善方法

2010年10月27日

前回は少しの財務体質改善が大きな財務体質の改善につながることを説明しました。
今回、「貸借対照表を財務体質改善に活かす」の第2回目は安全性の改善について説明します。

1.安全性の改善とは
企業経営における「安全性の改善」とは何でしょうか。難しい説明はいろいろありますが簡単に言えば「会社を倒産の危険から遠ざける」ということです。では会社を倒産の危険から遠ざけるということはどういうことでしょうか?
もちろん売上が上がらなくなると会社は行き詰まり倒産してしまいます。だから売上を増やすことといえます。しかし売上高は突然ゼロになることはありません。また不思議に思われるかもわかりませんが、売上が上がらなくなったからすぐに会社が倒産するかといえばそうでもありません。たとえ売上が上がらなくなっても資金さえあれば会社は継続できます。したがって会社が倒産するということは資金の行き詰まりということができます。つまり「会社を倒産の危機から遠ざける」とは「資金をしっかり確保する」いうことです。
ですから「安全性を改善する」ということは「資金繰りを改善する」と言い換えられます。

2.自社の安全性状況を確認する
では、どうやって自社の安全性を確認すればよいのでしょうか。まず手持ち資金が適正な額だけあるのか、ないのかを確認します。
手持ち資金のことを「手元流動性」といいます。手持流動性とはすぐに資金化できる資産のことをいいます。具体的には現金と預金です。プラス、すぐに現金に換金できる資産があるのであればそれを加えても結構です。すぐに資金化できる資産とは、売却可能な株券や処分可能な在庫や固定資産、車両や設備などをいいます。ここではあまり拡げると話が複雑になりますので、現金と預金だけに限ります。あなたの会社はいくら手元流動性〈現金・預金)がありますか?100万円程度ですか、200万円程度ですか、それともそれ以上ですか。それを確認してください。

3.それが適正な額なのか、それともそうでないのか判断する
判断する尺度はいろいろあります。
(1)平均月商額
平均月商が200万円程度で、手元流動性が100万円程度しかなければ、少し心許ないといえます。なぜなら月商200万円を販売するためには、その仕入代金や経費がかかります。営業利益率が10%であれば、総経費率が90%ですので、200万円販売するためには180万円程度の運転資金が必要であるということです。それに対して手元流動性が100万円なのですから、80万円不足しているということになります。総経費率とは売上原価率と人件費率・経費率を加えたものです。
(2)必要運転資金調達高
必要運転資金調達高とは月商200万円上げるためにあと必要な調達すべき資金額のことをいいます。今ほどの月商という尺度からさらに精度をあげた尺度といえます。必要運転資金調達高は売上債権と棚卸資産〈在庫〉を加えたものから買入債務を差引きしたものです。売上債権とは受取手形と売掛金ですから、受取手形がなく売掛金が200万円だったら200万円となります。棚卸資産はそのままの金額です。例えば在庫が50万円あったとしましょう。すると売上債権と棚卸資産を加えた金額は250万円となります。一方、買入債務とは支払手形と買掛金を加えたものです。仮に120万円あれば、差引きした金額は250万円-120万円=130万円となります。これが自社の必要運転資金調達高です。これに対し、手元流動性が100万円ですから、30万円ほど不足していることになります。精度をあげて判断すると少し運転資金が不足しているという判定になります。
そのほかにもいろいろな尺度が考えられると思います。それぞれの尺度を考え判断されればよいと思います。

4.正常にする方策を考える
上記で少し運転資金が不足していることが判明しました。これで終わったなら、問題は何も解決していません。
これまで会計事務所等からここまで説明を聞かれたこともあるかもわかりませんが、大事なことはここからです。この状況を踏まえて、どうやって改善するのかです。ともかく手元流動性である現預金を30万円増やさなければなりません。手元流動性を増やす方法は4つプラスワンです。
(1)経費を節約する
第1は経費を節約するということです。経費を節約すれば、それだけ現金が増やせることになります。1ヶ月60万円使っていたものを50万円にすれば、10万円現金が増えることになります。経費節約する方法はそれぞれの会社によっていろいろとあると思いますが、ここでは共通する節約方法をいくつか紹介します。
①交通費
交通費はどの会社にも共通する節約項目です。つまり最安の交通経路で移動することを徹底することです。少々時間がかかっても10分・20分程度だと思います。時間よりも交通費を優先するということです。またクルマの高速代を利用しているのであれば、高速代も対象です。高速は使いません。タクシー代も当然です。
②郵送代
郵送は1通につき80円かかります。これをメールに変更します。メールは無料です。知っていますか?確実に届き、届けた時間が確認でき、ダントツに早いのはメールです。郵便は届いたことは確認できませんし、届いた時間も確認できません。また届くまでに1日はかかります。ただメールの問題点はメールポストまで見に行く習慣をつけているヒトが少ないことだけです。これは当初だけ電話で確認すれば解決できる問題です。また時ととともに解決していく問題でもあります。
③電気代
なかなか節約の実感が伴いませんが、電気代も大切です。無駄な電気は消す、退社時にはコンセントを抜くなど、少しでも無駄な消費をなくします。このことは同時にeco活動にもなります。
④事務用品
筆記用具など、封筒を除くものは個人負担に転化します。
⑤販売促進費
カタログなどを印刷していませんか。結構、陳腐化したカタログをよく見かけます。カタログなどはホームページで兼用することとします。
⑥コピー代
どこでもあるのがコピー機です。その割りに稼働率が低い会社が実に多くあります。それだけのために保守料という名目で、代理店に月4・5万円程度を支払っていませんか。4・5万もあればパソコンプリンタが購入できます。パソコンプリンタであれば印刷のほか、コピー、スキャナーなどもできます。コピー機からパソコンプリンタに切り替えましょう。
(2)現金売上を増やす
現金売上を増やすといえば、そんな簡単にできないと思われる方が多いかもわかりませんが、意外とできるものです。例えば、一部を前受金化したり、販売条件と組み合わせて現金売上化することも可能です。少しはできるはずですから、ぜひ、トライしてください。
(3)売掛金回収を早める
まずしなければならないことは、売掛金を約束とおり回収させていただくということです。多くの会社がこの基本的なことをされていません。売って、請求して、そのまま放置、気づいた時に督促する程度です。まずこのことを是正しましょう。これだけでも回収は早まります。次に回収サイト〈期間〉を改めていくということです。たとえ、数日でも短縮していきましょう。
(4)売上原価率を下げる
第4の方法は原価率を下げるということです。支払いが減ればそれだけ手元資金は増えます。ではどうやるか?まず在庫を整理します。不要なもの、過剰なものを確認します。次に発注の仕方。原則、1回当たりの発注数量を減らし、発注回数を増やすことで無駄な仕入はしません。また売れ残り状況などから品目の種類を絞り込むことも大事なことです。さらには一括発注することによって単価削減を試みることも大切です。一括発注とは店ごとの発注を本社集中にすることもあれば、同業者との共同仕入なども考えられます。よく同業者との組合活動をされている場合もありますので、共同仕入を提案することも一計です。
(5)プラスワン
プラスワンとは売上拡大にもよって手元流動性を増やすということです。ただ売上が増えるということは必要資金が増えることでもありますので、気をつけてください。運転資金増加率は必要運転資金を年商で割ることで計算できます。例えば必要運転資金調達高が130万円で年商が2400万円の場合は5.4%となりますので、年商が100万円増えるごとに運転資金は5.4万円増加するということになります。
ではどうやって売上高を増やすのか。一番トライすべきことはネット販売を実施し、マーケットを拡大する方法です。ネット販売はまだまだ拡大します。その意味でもネット販売を取り入れる必要があります。そのほかにはあらためてマーケティングをやり直し、製品、価格、販売促進、販売チャネルなどを見直しすることです。マーケティングというと難しく聞こえますが、要は自社の販売について本当の顧客は誰で、何が強みで、どこを改善し、どのように訴求すべきかなどについてじっくり考えましょうということです。

『会計力』が経営を改善する
どうですか、会計からのマネジメントで経営が大きく変えられることがお解りいただけたかと思います。このように『会計力』が経営を大きく改善します。日本経済は中期的に間違いなく好転します。したがって経済成長率も年率3~4%にはなると思います。但し、以前のような高度経済成長時代は迎えませんし、大事なことはすべての企業が好景気に沸くことはもうありません。努力する企業、過去の延長線を断ち切った企業だけが成長する時代となります。
会計は決算・申告のためにするものという感覚はもう過去の感覚なのです。これからは会計に基づいて経営管理をする時代であり、経営に活かせる会計をする時代なのです。