46.セグメント情報①内訳管理

2010年4月17日

財務分析解説コラム(30)
セグメント情報 -内訳明細管理-

月次試算表を見て「この勘定科目には何が入っているのだろうか」とわからなかったことがありませんか?
決算書ではそこまで表示することは求められていません。求められていないとは、法的に求められていないということです。つまり『外部報告書』として、そこまで報告する必要がないということです。中小企業の場合の『外部』とは、税務署であり金融機関です。そのような法的要求に準じて作成する会計のことを、『制度会計』とか『財務会計』といいます。
一方、内部管理的には先ほども言ったように、細部まで分かるようにしたいものです。そのような考え方で作成する会計のことを『管理会計』といいます。わかりやすく言えば『経営会計』と言っても良いかと思います。
今回からはそのような細目情報、『セグメント情報』といいますが、これについて紹介します。セグメント情報には今回ご紹介する『内訳明細』や『部門別』などがあります。

1.パソコンで会計処理をする以上は、内訳明細管理は当たり前
もう会計処理はパソコンで行うことが当たり前となりました。読者の多くの皆さんも会計をパソコンで処理されていることが多いと思います。事務処理をパソコンで行うように、会計処理もパソコンでするのは当たり前です。
しかし、折角パソコンでする以上は、手書時代よりも細かい情報が得られるようにしたいものです。パソコンは情報処理機器なのですから、単に手書をパソコンに置き換えるだけではなく、少しぐらいは付加価値をつけたいものですよね。その基本が勘定科目の内訳明細管理をするということです。

2.内訳明細管理は具体的にどうする
具体的に勘定科目内訳明細管理はどうするのか、分かりやすい事例で紹介しましょう。
例えば、普通預金・・。どんな企業でも普通預金の口座は2・3持っているかと思います。それを普通預金という科目一つで会計処理をしていると、銀行口座ごとの残高はわかりません。だからその場合は、別途に銀行口座管理をして、A銀行a口座100万円、B銀行b口座10万円、C銀行c口座5万円と把握しているのだと思います。すると、月次試算表で合計115万円を確認し、別の銀行口座管理表で口座別の残高を知るというようになり、あちこち見るという形になります。これを会計処理で口座管理していれば、月次試算表だけで、普通預金合計115万円、a口座100万円、b口座10万円、c口座5万円とひと目でわかるようになります。便利でしょ?
このような勘定科目は実に多くあります。資産科目だけでも、定期預金・積立預金・有価証券・受取手形・売掛金・短期貸付金・立替金・仮払金など。負債科目であれば、支払手形・買掛金・短期借入金・未払金・未払費用・長期借入金など。損益科目であれば、それこそ売上高から費用科目まで実に多くあります。これらをすべて会計ソフトで内訳明細管理をします。そうすればすべて一目瞭然になります。
売上債権や買入債務、売上高などは取引先別に内訳管理することになり、取引先が多くある場合は試算表の中ではなく、別途、販売・購買管理や売上管理をした方が良いかもしれません。でもそれぞれ100件程度あれば、この方法で管理されてもさほど手間はかかりません。
別管理した方が良い勘定科目は、棚卸資産と固定資産など、ごく限られます。棚卸資産は別途在庫管理を、固定資産は固定資産管理を導入します。
最後に、決算書には内訳明細を表示させません。勘定科目単位の表示でいいのです。外部報告を求められている以上に報告する必要はありません。決められている最小限度の報告が良いと思います。また元帳も補助元帳も要りません。このことを『財務会計と経営会計の一元化』といいます。意外とこのような機能を持っている会計ソフトは少なく、TKC会計事務所で利用しているFX2という会計ソフトであれば柔軟に対応できます。ご興味あれば、インプルーブ研究所へお問い合わせください。ご相談に乗ります。

3.内訳明細管理のメリット
このように月次試算表の中で内訳明細管理をすると、どのようなメリットがあるのでしょうか。内訳明細管理をイメージされながら考えてみてください。
(1)月次試算表だけで経営情報のすべてがわかる
会計処理とは、取引データを通じてすべての経営情報が入ってきます。ですから、このように勘定科目の内訳管理を導入することによって、月次試算表だけで会社の経営状況がすべて把握できるようになります。これまであれば、あれこれいろいろな資料を見ていたことが、月次試算表だけで掴めます。
(2)月次試算表でミクロ情報もわかる
売掛金であれば、どの得意先が売掛金を滞留しているのかわかります。売上高であれば、どの得意先と取引が多いのかわかります。皆さんの頭の中ではどの得意先が自社にとって上得意先であるのかは把握されていると思います。しかし、意外とどの得意先との取引が増えてきているとか、あるいは減ってきているとかいう変化しつつあるトレンド情報が意外と抜けているのではないのでしょうか。そんな補完を内訳明細管理はしてくれます。
(3)削減するべき経費がわかる
損益計算書であれば経費の執行状況がわかります。これまでであれば「通信費」という科目で一本化されていましたが、内訳で固定電話利用料、携帯電話利用料、FAX回線利用料、ネット回線利用料、プロバイダ利用料、郵便使用料など明細別に分かるようになります。それによって削減すべきことが「行為」として掴めるようになります。例えば固定電話の通話時間を抑える、固定電話から携帯電話へかける場合は頭に0033を必ずつけるとか、携帯電話を使用を必要最小限度に抑えるなどです。特に郵便使用料などは電子メールに変更すれば劇的に削減できます。
経費削減の方法はできるかできないかを検討することではなく、「削減するという結論」に対する具体的な方法論を考えることです。特にIT化は通信費等のコスト削減などに大変有効なツールです。ITとは情報技術の略ですが、正しくはICTなのです。CはコミュニケーションのCですから、情報伝達技術のことを言います。情報伝達には通信費もあれば、交通費やコピー代や会議費などもあり、多くの経費をかけています。ICTで電子メールの活用、LAN構築の引き直し、スカイプ利用によるテレビ会議の検討などを考えれば、不便を感じることなくコスト削減が実現できます。
(4)経理処理能力が高くなる
月次試算表の内訳明細管理び付随的メリットとして、経理処理基準が明確になり正確性が向上することが上げられます。経理担当が仕訳で苦労し、例えば、銀行振込手数料があったときには管理諸費に入れていたり、雑費に入れていたりしていませんか。これらが内訳明細管理をすれば、勘定科目の内訳として「A銀行振込手数料」と設定しますので、経理処理基準が明確になり、同時に経理処理が正確になります。それによってより正確な経営情報が得られるようになります。
(5)会社の問題を表出させる
さらに月次試算表の内訳明細管理をしていると、請求書が来ていないとか、売掛金の入金がされていないとか、会計処理を通じて自動的に問題点を表出されるようになります。それによって大問題になる前に問題を防げるようになります。

4.内訳明細管理は同時に経営技術をアップさせる
少しいま触れましたが、内訳明細管理は経営技術をアップさせます。得意先との取引状況・推移が自動的にわかるようになります。また回収・支払管理にも関心を持つようになります。さらに経費の執行状況にも気づきを与えてくれます。これらすべてが、経営技術を向上させます

このように『月次試算表の内訳明細管理』は少々事務処理時間を増やすことにはなりますが、それ以上の大きな経営改善を促してくれます。これを可能にしてくれるのが、パソコンによる会計処理です。すでにパソコンで会計処理をされている会社も多くあると思いますが、その実態は手書をパソコンに置き換えただけで事務時間はちょっと少なくしてくれただけではないのでしょうか。パソコンは情報処理機器なのです。それって最低限の活用です。もっと本来的な活用をしましょう。
他方、パソコンによる会計処理自体をされていない会社も数多くあります。まず申し上げたいのは、事務はパソコンでする時代です。会計をパソコンですることに検討する必要はありません。会計はパソコンでやってください。あとはパソコンでする以上、付加価値の創造をすることです。ぜひ、パソコンで会計処理をやりましょう。

時代の潮目、新しい時代を迎えようとしていると何度か申しあげてきましたが、換言すれば「企業は継続なり(going concern)」と言いますが、生命にも限りがあるように、そもそも企業を永続させること自体が大変なことなのです。それに加え、現代はグローバル化やフラット化、国内においては少子高齢化、成熟社会化などさまざまな因子がこれまでにないスピードで世の中を変革させていっています。
大変厳しい経営環境であることは間違いないことですが、大チャンスのときでもあります。つまり環境・ルールが変わっているのですから、どの会社も新たなスタートラインに立っているということです。
チャンスだからといってすぐに自社のおかれている状況は変わるものではありませんが、『強い意志』を持って努力することがいま大切なのだと思います。決算書や月次試算表はその羅針盤になります。決して、決算・申告、税務署や銀行のためにあるのではありません。自社のためにあるのです。それを読みこなすことによって自社診断と未来判断ができ、さまざまな『KAIZEN』の方策を提示してくれます。中小企業も大企業と同様の経営心を持って経営に当たることが重要だと思います。
ぜひ、自社にちょっとした『チェンジ』というスパイスをふりかけましょう。