47.セグメント情報②部門管理

2010年4月24日

財務分析解説コラム(31)
セグメント情報 -部門別管理-

月次試算表を見て「この勘定科目には何を計上していたのか」と分からなかったことがありませんでしたか。決算書はそこまで表示することは求められていません。求められていないということは、法的に求められていないということです。つまり『外部報告書』として、そこまで報告する必要がないということです。中小企業にとって報告する外部とは税務署と金融機関です。そのような法的要求に応じて作成する会計を、『制度会計』あるいは『財務会計』といいます。
一方、内部管理としては細部まで分かるようにしたいものです。そのような考え方で作成する会計のことを、『管理会計』といいます。分かり易くいえば、経営のための会計であり、『経営会計』といっても良いかと思います。
前回から細目情報『セグメント情報』について紹介していますが、その第2回目は最もポピュラーなセグメント情報といえる『部門別損益管理』について説明しましょう。

1.事業には収益源は必ず複数ある
事業にはどんなに小さくとも、収益源は必ず複数あります。例えば自転車小売業、よく通りかかる自転車屋さんを思い浮かべてみてください。
自転車屋さんで売っているモノは自転車だけでしょうか?まず修理もされていますね。さらに自転車部品やアクセサリーなども売っていますね。さらに、売られている自転車をよく見れば、俗にいうママチャリというカテゴリや子供用自転車、ロードサイクリング用自転車、マウンテンバイクなどもあります。あるいは原動付自転車を売っているところもあるでしょう。
このように事業には必ず複数の「収益源」があります。複数の収益源には、商品や製品だけでなく、店舗や営業所、あるいは取引先、人などがあります。

2.安定した事業を行うためには複数の収益源が必要
では、なぜこのように事業には複数の収益源があるのでしょうか。それは一つだけの収益源では安定した経営ができないからです。一つだけに収益源に頼った事業では、それがダメになれば、たちまち事業そのものが立ち行かなくなります。リスク管理上、大きな問題があります。リスクを分散するためにも複数の収益源を持ち、育てていく必要があります。
ということは経営的な側面から考えれば、安定した経営を維持するためにも、その一つ一つの収益源について採算状況を把握し、状況によっては何らかの改善策を講じていかなくてはならないということです。損益計算書では全社の採算状況はわかりますが、一つ一つの収益源の状況についてはわかりません。そこで『部門別損益管理』が必要になってくるのです。

3.部門別損益管理の特長
部門別損益管理と混同される商品や製品、得意先別の売上高管理がありますが、両者はまったく違います。商品別売上高管理等はその名の通り、売上だけをカテゴリに分けて管理するだけで、それ以上の売上原価とか販管費とか営業利益などは、カテゴリ別にはわかりません。
しかし、部門別損益管理は営業利益までわかることになります。従って、不採算部門や店舗などがわかります。

4.部門別損益管理の仕方
(1)部門別損益管理に固定観念を持たない
部門別損益管理というと営業所が何店舗かある企業や、課や部などの部署がある企業しか関係がないと考えがちです。しかし先ほど言ったように、すべての事業には必ず複数の収益源があります。従って、部門別損益管理はすべての企業にとって「必要」といっても過言ではない、重要な経営会計手法です。
(2)部門別損益管理の目的
部門別損益管理は単に売上高を分けるだけではありません。分けた売上高に準じて、売上原価(変動費)も経費(固定費)も分け、それぞれの売上(収益源)がどれだけの利益を稼ぎ出しているのか測定しようとするものです。端的にいえば、「採算管理」が部門別損益管理の目的です。
(3)伝統的な部門例
伝統的な部門例として、支店・店舗別、地域別、部署別、商品別、担当者別などが上げられますが、囚われることはありません。あくまでも自社の収益源別に設定すればよいのです。
(4)部門の考え方
①自社の利益源泉が何かを考える。自社の収益源・利益源泉のことを戦略的事業単位:SBUと言います。そのときに組織的にだけではなく、営業形態なども視野に入れます。
②そのうえで、売上、仕入、経費などがその区分に応じて計上できるのか確認する。
③例示として米穀店の場合であれば、第1部門を配達部門、第2部門を店売部門などが考えれます。飲食業の場合であれば、第1部門を昼営業部門、第2部門を夜営業部門などが考えれます。
(5)具体的な仕方
大切なことは最初から詳細に部門別損益管理はできませんから、スタート時はできるところから部門別管理をやるということです。まず売上高は部門別に分けることができますね。問題は売上原価、販管費などの費用をどのように分けるかです。
①費用は個別化を図る
部門別を始めるにあたって費用は個別計上化を図ります。例えばA・B・Cと3部門を設けたとします。そうしたならば費用も極力、A部門でいくら、B部門でいくら、C部門でいくらと分けるということです。どうしても分けられない費用は『共通経費』としてプールします。
具体的に人件費であればA部門の人の人件費はA部門に計上します。B及びC部門についても同様です。では、一人で米穀店をされている場合はどうするのか。一人で配達売りも店売りしているのであれば、分けません。なぜなら、いま申しあげたように極力、個別計上化を図るといいましたが、個別計上化ができないからです。だから『共通経費』としてプールします。
②共通経費は個別部門に配賦しない
「配賦」とは何らかの基準を設けて各部門に振り分けすることをいいます。部門別損益管理の本には、何らかの基準で必ず分けるように説明されています。しかし「分けない」ことをお勧めします。
なぜ分けないのか。その理由は単純明快です。部門別損益管理は何のためにするのでした?目的は部門別の採算管理でしたね。一つ一つの採算状況を把握したいのにそんな不明確なことをしてどうするのですか。ピュアな採算状況は掴めなくなります。
通常、配賦する基準としてあげられるのが、部門別の売上高割合や人数、売り場面積などです。その構成比で共通経費を配賦するわけです。しかし、売上高の多寡に比例して本当に共通経費は使われていますか。売り場面積の大小で本当に共通経費は使われていますか。どうもそうではなさそうですね。だから「配賦」はしません。
③評価は目標とする
上記のようにして部門別損益管理はできたとします。では、評価はどうすればよいのでしょうか。
それは部門別の利益計画と比べて評価します。部門別の利益計画を本格的に作成するにはそれなりの時間とデータが必要となります。だから当初は極端にいえば、部門別の目標経営利益だけでも構いません。そこからスタートしましょう。そして徐々に要領が分かってくれば、次に売上高の設定、原価を考えての粗利益の設定、経費を考慮しての営業利益の設定と徐々にブレイクダウンしていけばよいと思います。
部門別損益管理を行うためには、当初、実績データ入力するのも大変だと思います。従って自社の状況に応じて、それなりの部門別損益管理を行えばよいと思います。

時代の潮目、新しい時代を迎えようとしていると何度か申しあげてきましたが、換言すれば「企業は継続なり(going concern)」と言いますが、生命にも限りがあるように、そもそも企業を永続させること自体が大変なことなのです。それに加え、現代はグローバル化やフラット化、国内においては少子高齢化、成熟社会化などさまざまな因子がこれまでにないスピードで世の中を変革させていっています。
大変厳しい経営環境であることは間違いないことですが、大チャンスのときでもあります。つまり環境・ルールが変わっているのですから、どの会社も新たなスタートラインに立っているということです。
チャンスだからといってすぐに自社のおかれている状況は変わるものではありませんが、『強い意志』を持って努力することがいま大切なのだと思います。決算書や月次試算表はその羅針盤になります。決して、決算・申告、税務署や銀行のためにあるのではありません。自社のためにあるのです。それを読みこなすことによって自社診断と未来判断ができ、さまざまな『KAIZEN』の方策を提示してくれます。中小企業も大企業と同様の経営心を持って経営に当たることが重要だと思います。
ぜひ、自社にちょっとした『チェンジ』というスパイスをふりかけましょう。