667.経営を強くする BSを読みこなす⑤
2024年7月19日
繰り返しになるが、「資金繰り」は事業において一番重要なことである。
そこで、BS・PLに次いで重要な会計資料と言われる「CF(キャッシュフロー計算書)」について、わかりやすく説明する。
1 CF(キャッシュフロー計算書)とは
CFとは、キャッシュ(資金)の流れに関する計算書であり、言い換えれば、現預金の残高計算書だ。
現在の現預金残高がどこで増加・減少し、期首現預金残高とそれらを合計すれば、現在の現預金残高となる。
一般的にCFは難しいと思われているようだが、現預金残高計算書と言い換えると、親近感さえ感じて、難しいものではないと
思えるのではないのだろうか。
キャッシュフロー計算書とは、現金と預金の増減流れを示した現預金残高計算書である!
つまり、キャッシュである手元資金がどのようなプロセスを経て(フロー)、現在の残高に至っっているのかを示した計算書だ。
その計算書は次の3つのフローに分けて計算されている。
一つが「営業活動によるキャッシュフロー」である。
営業活動によるキャッシュフローは、営業活動における資金収支を計算している。
二つ目は「投資活動によるキャッシュフロー」である。
投資活動によるキャッシュフローは、投資(設備投資)における資金収支を計算している。
三つ目は「財務活動によるキャッシュフロー」である。
財務活動によるキャッシュフローは、銀行融資における資金収支を計算している。
難しい用語でプロセスが説明されているが、最終的にはBSの手元資金残高と一致し、結論は『現預金残高』を示している。
したがって、用語にまどわれされないでCFを最後まで見て、用語だけを見てチンプンカンプンだと投げださないようにしたい。
用語は難しいかもわからないが、中身はカンタンなのだ。 ※実はこれは会計や税務全般に言えることなのだ!
詳細なフォームは、利用されて会計システムによって若干の違いはあると思われるが、骨子は上述のとおりだ。
CFは用語は難しい、しかし結局は現預金有り高のプロセスを示している簡単な会計資料だ!
2 営業活動によるキャッシュフロー
営業活動によるキャッシュフローとは、営業活動に関した資金の流れ、すなわち、どこで減り、どこで増えたかを示している。
①「税引前の当期純利益」から始まる
税引前当期純利益ということは、原価や経費は減算しているので、売上高が全て回収され、原価や経費の支払いが全て済めば、
これだけのキャッシュが残るということだ。
②税引前当期純利益に減価償却費を加算する
減価償却費は税引前当期純利益を計算する際に減算されているが、実際には現預金の支出は伴わない。
よって、キャッシュとしては、税引前当期純利益に加えられることになる。
③営業活動に関するBSの動きによる加減算する
営業活動の中で売上債権が増えれば、債権が増えた分だけ、資金が回収されていないことになる。
したがって、キャッシュは減る。
棚卸資産も同様だ。
逆に買入債務が増えるということは、原価では減算しているが、その分だけ支払していないので、資金調達していることになる。
したがって、キャッシュは増える。
その他の流動負債も同様だ。
これらを「税引前当期純利益+減価償却費」に加算したり、減算したりする。
④法人税等の支払を減算する
スタートが税引前当期純利益から始まっているので、法人税等の支払を減算することになる。
⑤これらを合計すれば営業活動によるキャッシュフローが計算できる
②から④を税引前当期純利益に加算・減算すると、営業活動によるキャッシュフロー額が計算できることになる。
3 投資活動によるキャッシュフロー
投資活動によるキャッシュフローとは、一般的には固定資産の売買に関する資金の流れのことだ。
しかし細かく説明すれば、有価証券の売買もしているならば、それも加えることになる。
設備投資で固定資産を購入すれば、キャッシュは減ることになる。
つまり、設備投資はキャッシュを減らせるということだ。
逆に、固定資産を処分したならばキャッシュは増える。
それらを合計すれば、投資活動によるキャッシュフロー額が計算できる。
4 財務活動によるキャッシュフロー
財務活動によるキャッシュフローとは、銀行の借入に関する資金の流れのことをいう。
銀行から借入をしたときはキャッシュは増える。
そして、毎月の返済と支払利息の支払いでキャッシュは減る。
それらを合計すれば、財務活動によるキャッシュフロー額が計算できる。
5 現預金同等物の期末残高
以上、3つのフローと期首現預金残高を加えると、現預金同等物(同等物は中小では無視)の期末残高が計算できる。
この期末残高は当然のことながら、手元の現預金出納帳の残高に一致する。
6 フリーキャッシュフロー
最後に「キャッシュフロー計算書」と言えばよく聞く『フリーキャッシュフロー』について説明する。
フリーキャッシュフローとは、文字通り、自社の意思で自由に使えるキャッシュのことを意味している。
具体的には、営業活動によるキャッシュフローと投資活動によるキャッシュフローの合計のことをいう。
フリーキャッシュフロー=営業活動キャッシュフロー+投資活動キャッシュフロー
これを多くすることが、資金繰りを安定させる。
7 キャッシュフロー計算書の読み方
3つのフローのパターンから、企業がどうような資金繰り状況になっているのか、想像できるようになる。
(1)営業キャッシュ(+)・投資キャッシュ(-)・財務キャッシュ(-)パターン
⇒健全に成長している企業パターン
このパターンは本業である事業で資金を稼ぎ出すことができており、かつ設備投資を行い、投資のための借入をすることもなく
過去の借入金を返済していることを示している。
いわゆる、本業が好調で、設備投資も自己資本でして、順調な状況であることを示している「キャッシュフロー計算書」である。
(2)営業キャッシュ(+)・投資キャッシュ(-)・財務キャッシュ(+)パターン
⇒積極的な経営をしている企業パターン
このパターンは本業である事業で資金を稼げており、設備投資も行っているが、しかしそのための資金調達は融資でしている。
いわゆる積極的な経営であるを伺わさせ、設立間もないベンチャー企業などで多く見られる「キャッシュフロー計算書」である。
(3)営業キャッシュ(+)・投資キャッシュ(+)・財務キャッシュ(+)パターン
⇒事業転換を図っている企業パターン
このパターンは、本業である事業で資金は稼げてはいるが、設備を処分し、かつ借入調達もしている。
本業で資金を稼ぎながらも、設備を処分して、かつ資金調達もしていることから、前向きに事業の方向転換を図ろうしている
のかもわからない「キャッシュフロー計算書」である。
(4)営業キャッシュ(-)・投資キャッシュ(-)・財務キャッシュ(-)パターン
⇒栄枯盛衰を打開しようとしている企業パターン
このパターンは、本業である事業では資金が稼げていないのに、設備投資を行い、しかしそのための資金調達はしていない。
過去の資本蓄積がある業歴が長い企業で、現在では本業が不振となり、新しい設備投資を自己資本で行っている。
経営上に大きな問題を抱えているのかもわからない「キャッシュフロー計算書」である。
(5)営業キャッシュ(-)・投資キャッシュ(-)・財務キャッシュ(+)パターン
⇒金融機関協力支援型再建企業パターン
このパターンは、本業である事業では資金が稼げず、借入調達をして、設備投資を行っている。
金融機関の協力も得ながら、事業再建を図ろうとしているのかもわからない「キャッシュフロー計算書」である。
(6)営業キャッシュ(+)・投資キャッシュ(+)・財務キャッシュ(-)パターン
⇒事業整理型経営改善企業パターン
このパターンは、本業である事業ではなんとか資金は稼げているが、設備を売却し、かつ借入金を返済している。
設備を売却していることから推察すると、不採算部門などの事業整理をして、経営の健全化を図ろうとしているのかもわからない
「キャッシュフロー計算書」である。
(7)営業キャッシュ(-)・投資キャッシュ(+)・財務キャッシュ(-)パターン
⇒リストラ企業パターン
このパターンは、本業である事業で資金は稼げておらず、かつ設備投資も売却しながら借入金も返済している。
本業が不振で、設備を売却しているが、金融機関からの支援も受けることもできない、危険な状況なのかもわからない
「キャッシュフロー計算書」である。
(8)営業キャッシュ(-)・投資キャッシュ(+)・財務キャッシュ(+)パターン
⇒出直し老舗企業パターン
このパターンは、本業である事業では資金は稼げておらず、設備投資を売却しているが、資金調達を行えている。
本業が不振で、設備を売却して危機的な状況だが、まだ金融機関からの支援は受けられている老舗企業なのかもわからない
「キャッシュフロー計算書」である。
「キャッシュフロー計算書」はこのように、キャッシュの流れを分析できるが、すべてが結果であり、あとの祭り的資料である。
したがって、資金繰りにあまり問題がない企業やダイナミクスな活動を続けている企業においては、資金状況を読む資料として
有益な資料となりそうだが、そうでもない資金繰りに苦労している一般的な中小企業にとっては、評論家的に事後にこんなことが
わかっても、あまり役には立たない。
そのような事情もあって、中小企業にはキャッシュフロー計算書の作成は、義務付けさられていない。
8 実務的な資金繰り実績・期末予測表
そこでCFよりも中小企業の資金繰り管理に有益なのは『資金繰り実績・期末予測表』だ。
資金繰り実績予測表は、現在の資金残高とこのままいけば期末にはどのくらいの資金残高になるのかが、常に見える資料のことだ。
資金繰りが常に厳しい中小企業にとって、本当に資金繰りが苦しいときなどには、いつ頃資金不足になるかわかるようになり、
事前に資金繰り手立てを打てるようになる。
一般的に、中小企業の資金収支はそれほどダイナミックには変化することはなく、毎年同様の資金収支となるものだ。
したがって、期末現預金残高が毎年減少している場合は、放置すれば今年も同様に資金不足を起こすようになる。
そこで、前年の現預金出納帳をベースに『資金繰り実績・期末予測表』を作成し、事前対策を立てるようにする。
中小・零細の資金管理には『資金繰り実績・期末予測表』が有効!
作り方は簡単だ。おおよそ下記のような手順になる。
1.前年の現預金出納帳をエクセルなどの計算ソフトに落とす。
2.日付順に並び替えをする。
3.現金と預金あるい預金と現金の仕訳を削除する。
4.残高を再計算させる。
5.今年の現預金収支を随時更新させていく。
たったこれだけで、常に期末現預金残高予測が把握できるようになる。
少し高度にしたい場合は、予めわかっている今年の変更点(例えば昇給など)を修正あるいは追加すると良い。
是非、トライされるとよいと思われる。
資金繰りは正しい経営理念である限り、必ず改善できる!