31.事業収益力④売上高利益率

2009年12月27日

財務分析解説コラム(15) 当社事業の収益性を検証する -売上高営業利益率・同経常利益率-

今回は会社事業の収益性を検証する財務分析の第4回目、『売上高営業利益率』と『売上高経常利益率』について説明します。

売上高営業利益率・売上高経常利益率とは
『売上高営業利益率』とは、その名のとおり、売上高に占める営業利益の割合です。まさに本業の収益性を示します。『売上高経常利益率』とは、同じく売上高に占める営業利益±営業外損益の利益の割合です。
計算式は次のとおりです。
計算式: 売上高営業利益率=営業利益÷売上高
売上高経常利益率=経常利益÷売上高
計算式は非常にシンプルですが、掘り下げて考えてみるとなかなか奥深い経営指標です。同じ売上高なら、『売上高営業利益率』の高い会社が良いに決まっています。なぜなら、『売上高営業利益率』が高いということは、営業利益が多いからです。しかし、営業利益が多いから良い、少ないから悪いだけで分析を終えては、会社の知恵は出てきません。営業利益が多いとは、売上総利益が多いか、経費(固定費)が少ないかのいずれかか、あるいはその両方です。さらに経常利益が多くなったということは、営業利益に加えて営業外収入が多かったということです。

売上高営業利益率・売上高経常利益率の見方
(1)商品/市場戦略の結果
『売上高営業利益率』あるいは『売上高経常利益率』が改善するひとつの要因は、売上総利益が改善することとすでに説明しました。では、売上総利益が改善するとはどういうことでしょうか。掘り下げると、売上高が増えたか、売上原価(変動費)が低くなったか、あるいはその両方であると分類できます。いずれにせよ、外部(顧客並びに仕入先)に対する働きかけによって実現されます。そのことを、「商品/市場戦略の結果」という表現でまとめることができます。では、「商品/市場戦略」とはどういうことなのか。次のように図示できます。
現市場        新市場
現商品    ①市場浸透戦略    ③市場開拓戦略
新商品    ②商品開発戦略    ④事業の多角化
①市場浸透戦略とは
この考え方は、現在の顧客に自社商品をもっと購入していただこうということです。「そんなことができれば、とっくにやっているよ」と言われそうですが、中小企業の場合は、実際はされていないか、あるいはリピート購入いただくための努力をほとんどされていません。例えば、店・オフィスを綺麗にされていますか。例えば、接客対応は気持ちのいいものにされようと努力されていますか。例えば、電話応対はどうですか。またその対応は迅速ですか。このようにさらに市場浸透させるための条件整備ができていないことが散見されます。その上で、販売促進活動をしているかということです。また商品のリレーション販売などの工夫をされていますか。さらにメールを含めたインターネット活用をしていますか。またお客様を集団で捉えていませんか。顧客は「個客」です。このように日常を振り返れば、数多くの工夫する点があると思います。
②商品開発戦略とは
この考え方は、これまでなかった商品を販売したり、製品を作るということです。「商品開発」というと、大げさな感じを受けますが、そんなことはありません。例えば、セット販売で、別々に購入するより低価格で提供する方法も新商品開発です。あるいは機能をシンプルにする、販売単位を小ロットにするなどして低価格で販売することも新商品開発です。いまや成熟社会ですから、「高機能=高価格」という公式は基本的に成り立ちません。会社(サプライヤー)の視点ではなく、いま一度顧客の視点で自社の商品・製品を見れば、色々な工夫が見つかります。その糸口を得るためには新入社員や家族にインタービューすることなども重要です。
③市場開拓戦略とは
この考え方は、新しい顧客を開拓するということです。新しい顧客とは個人を前提に考えることが多いかと思いますが、市場(面)で考えることもできます。そのためには、いまの顧客を分析する必要があります。どんな顧客が多く、そのノウハウをアレンジすれば攻めれる新しい顧客はだれなのか、攻めれる新しい市場はどこなのか、ヒントになることが思い浮かぶはずです。
④事業の多角化とは
この考え方は、新しい商品で新しい市場を攻めるということから「事業の多角化」と表現されますが、実際は、現在の事業領域(ドメインと言います)の応用、拡大だと考えた方が良いと思います。まったく新しい業界に入り込むには事業買収などでノウハウがない以上、やはり多くの危険性が潜んでいます。そこで自社のこの技術を少し変更することでこれまで考えられなかった取引先に提案できないか、あるいはこれまでの流通経路でもっと顧客が必要としているものが流せないかなど考えることです。
⑤仕入先への働きかけ
その他に考えられることは仕入先への働きかけです。しかし考え方はあくまでも「Win・Win」の考え方をベースにすべきです。この考え方がないと、いずれ信頼を失い、協力を得られなくなります。例えば、現金取引にして仕入単価を交渉する、取引仲間と共同で仕入ロットを増やし仕入単価交渉をする、あるいは仕入ロットを抑えデットストックを少なくするなどが考えられます。

(2)業績管理の結果
『売上高営業利益率』あるいは『売上高経常利益率』が改善するもうひとつの要因は、固定費を抑えることです。このことを「業績管理の結果」と表現することができます。では、どのようにして固定費を抑えることができるのでしょうか。ポイントは2点あります。一つはたとえ少額の削減でも必ず実行すると言うことです。例えば、こまめに電気を消す。中小企業の場合、消費する電気代は僅かなのかもしれません。しかし、経費総額が大企業と比べれば少ないので、節約率で考えれば大企業と同じなのです。大企業はほんとうに些細なことにも節約しています。中小企業も見習うべきだと思います。二つ目は例外を認めない、あるいは社長自身の率先垂範とも言い換えることができます。例えば、タクシー利用を認めないのであれば、社長もそうすると言うことです。社員には節約を求め、社長がそうしないのであれば、人はついてきません。その他にも金額が大きな経費は、人別に管理するとか部署別に管理するなどにすれば、抑制力は大きくなります。

(3)業種別の売上高営業利益率と売上高経常利益率
ちなみに業種別の『売上高営業利益率』と『売上高経常利益率』は次のとおりです(中小企業庁「中小企業の財務指標」より)。
■売上高営業利益率
①建設業1.8% ②製造業2.5% ③情報通信業3.8% ④運輸業1.5% ⑤卸売業1.8%
⑥小売業0.0% ⑦不動産業2.5%  ⑧飲食宿泊業0.1% ⑨サービス業2,0%
■売上高経常利益率
①建設業1.6% ②製造業2.1% ③情報通信業3.4% ④運輸業1.8% ⑤卸売業1.6%
⑥小売業0.6% ⑦不動産業1.6%  ⑧飲食宿泊業0.5% ⑨サービス業2.3%
こうやって見るとあることに気づかされます。企業規模が比較的小規模と考えられる小売業・飲食宿泊業・サービス業の3業種は、営業利益率より経常利益率の方が高いと言うことです。これはどういうことでしたかね。そうです、営業外損益の部で営業外費用より営業外利益の方が大きいということです。ということは無借金で経営し、なんとか受取利息や本業以外の雑収入で利益を確保しているという姿が思い浮かびますが、実際はたいへん二極化が進んでいるということです。優勝劣敗がハッキリしている業種と言えます。

売上高営業利益率・売上高経常利益率を改善するには
すでに「売上高営業利益率・売上高経常利益率の見方」で説明したとおりです。基本的には、売上を増やす、変動費を下げる(粗利益率を改善する)、固定費を節減する(売上高営業利益率を改善する)、営業外損益を増やす(売上高経常利益率を改善する)の4点です。ただ、ここで敢えて申しあげたいことは、ある意味では「中小企業だから」という甘えは、命取りになる可能性があると言うことです。なぜなら、国内における市場は縮小化しているから、「中小企業だから無理」と考えていたら、これからは大企業がどんどんこれまでの中小企業領域まで攻め入ってきます。従って一番大切なことは社長自身の「意識を変える」ことかもわかりません。
これからの中小企業は、弱者の小企業ではなく、「少数精鋭の企業である」という気概を持って経営を実行していくことが大切であると思います。

時代は変わり、もう中小企業だからという「甘え」は許されません。「会計資料」という自社の診断書を読みこなし、自社の症状を自ら発見し、その処方箋・戦術を明確にして実行していくことが非常に重要です。「会計資料が読めない、読まない」ということは、そこに経営の危機が迫っていることにすら気づくことができず、表面化したときには「倒産」という憂き目に会うことです。
ぜひ、自社にちょっとした「チェンジ」というスパイスをふりかけましょう。