707.簿記の仕組み⑥ 損益計算書の読み方

2025年5月17日

会計は何のためにあるのだろうか?

「申告のため」というのは確かにそうだが、

しかし、その前に「事業の経営状況を把握する」ためにあるはずだ。

そのためには、会計の基礎知識である『簿記』を理解する必要がある!

 

 前回は、貸借対照表の重要な勘定科目の残高が適正かどうかを読み解く方法を見てきた。

健全な貸借対照表となる財政状態にするためには「事業に必要なモノ以外は持たないこと」が大前提である。

何故なら、事業に必要なモノ以外を持たないようにすると、その分『手元資金』が増えるからだ。

手元資金が少しでも増えれば、それだけ「事業の安全性」は高まる。

このことを、是非、覚えておきたい。

事業に必要なモノ以外は持たないようにすると手元資金は増える!

 

 では、今回は損益計算書に目を移し、損益計算書の読み方を考えてみよう。

 

 

(10)損益計算書の読み方

1.損益計算書の概要

 損益計算書は売上高から始まり、その下に売上原価を表示し、『売上総利益』をまず表示している。

売上総利益は事業で創造した「付加価値」を意味しており、この付加価値が可処分利益となり、企業は生活を送ることになる。

そしてこの可処分利益の中で人件費や経費を支払い、余った金額は『経常利益』といい、次の事業資金や借入返済資金となる。

したがって、経営者や幹部は、経常利益が必ず黒字になるよう、経営をやり繰りしなくてはならない。

経営は『経常利益』が黒字であることがマストである!

 

2.重要な利益概念

 「5つの利益」という言葉を聞かれた方も多いと思うが、基本的に大事な利益概念は3つだ。

(1)売上総利益

 その最初の利益が『売上総利益』だ。

冒頭にも言ったように、売上総利益とは事業で生み出した「付加価値」だ。

たとえば、同じ商品を売っていても、店によって売上総利益は違う。

よく売れる店と売れない店、安価を売り物にしている店と提案を売り物にしてる店など、同じ商品を取り扱ってながら、

店それぞれで売上総利益は違う。だから「付加価値」という。

 売上総利益の読み方は、売上総利益額と売上総利益率で見ることが大事だ。

それらを前年同期と比較したり、予算と比較したりして、状況を判断し、対策を講じる。

(2)営業利益

 第二の利益は『営業利益』だ。

営業利益は「人件費」と「販管費」を支払ったあとの利益だ。

まさに営業ベースの利益なので、これは何としてでも黒字にしなくてはならない利益だ。

もしどうしても営業利益が黒字にならないのであれば、それはビジネスモデル自体に問題があると言わざるを得ない。

 営業利益の読み方も売上総利益と同様、前年同期と比較したり、予算と比較したりして、状況を判断し、対策を講じる。

(3)経常利益

 第三の利益は『経常利益』だ。

経常利益は、営業利益に金融費用を差し引きしたものだ。

いわゆる、経営の最終利益とも言える。

 経常利益の読み方もこれまでの利益と同様、前年同期と比較したり、予算と比較したりして、状況を判断し、対策を講じる。

 

3.重要なのは利益だけではない

 この3つの利益は、その前の段階の収益に費用を差し引きしたものだ。

したがって、差引する費用が抑えられれば、それだけ利益が増えることになる。

(1)売上総利益を決める「売上原価」

 売上原価とは、売ったものに対する仕入代金と説明できる。

卸売業や小売業であれば理解しやすいが、製造の場合は原材料を仕入して、それに加工する費用が掛かることになる。

そのことを『製品製造原価』といい、具体的には「材料費」「労務費」「製造経費」から成る。

 売上原価をもっとも抑える方法が「在庫の圧縮」だ。

在庫商品はすべて売れるかといえば、売れ残りや売ることができない「デッドストック」というものが意外と多くある。

これらも全て原価に跳ね返るので、原価は売れたモノの仕入代金だけではなくデッドストック代も含まれる。

売上原価とは「仕入代金+デッドストック代」である!

 

 もし、デッドストックがなければ、それだけでかなり原価を抑えることができる。

優良企業といわれる多くの企業は在庫量が少ないことも事実である。

したがって、「在庫回転期間」を管理することが大事ある。

在庫は『回転期間』でマネジメントする!

 

(2)営業利益を決める「人件費」と「販管費」

 営業利益は売上総利益から人件費と販管費を差引いたものである。

したがって、人件費や販管費が少なければ、営業利益は多くなる。

しかし、人件費と販管費は性格が違うので、どちらも抑えればいいというわけにはいかない。

 かんたんな販管費から言えば、販管費は抑えられれば抑えるほど、営業利益に貢献する。

いわゆる「冗費節減」である。

販管費を抑えるには前年実績と比較し、基本的に前年実績以下にすることが大事!

 

 方法論としてはガソリンの給油所を決めるとか、抑えたい経費に関しては順位表を作成して相互抑止する仕組みを作るとか、

既得権化している経費にメスを入れるとか、いろいろな方法があると思われる。

 

 一方、人件費は現代の時勢から考えるとむしろ増やす努力をして、士気向上のテコとして、売上アップや経費抑制に結びつける

ことが大事だ。

人件費の管理には『労働分配率』がよく使われるが、いまの時代は一元的に労働分配率を把握してもあまり役には立たず、

少なくとも役員、社員、パート・アルバイトなどクラスに分けて労働分配率を把握すべきであり、併せて『一人当り人件費』も

把握することが大事である。

労働分配率はクラスに分けて把握、管理する!

 

さらには売上高と人件費とを比較して、『労働生産性』も掴むことも求められている。

 

(3)経常利益を決める「金融費用」

 経常利益は営業利益から「営業外収益」と「営業外費用」を加減したものであるが、実質的には借入利息などの「金融費用」を

引いたものである。

特に、借入金が多い企業においては注意しなければならない。

 

4.利益体質の改善を図る

 利益体質とは、利益が出やすい体質かどうかということである。

利益が出やすい体質とは、『限界利益率』が高く、『損益分岐点』が低い企業のことである。

 

 限界利益率とは、売上に占める粗利の割合であり、この限界利益率が高いと、人件費や経費などの『固定費』を回収する

パワーが大きく、利益が出やすい企業体質といえる。

 

 損益分岐点とは、黒字なる売上高の高低のことであり、損益分岐点が低ければ、黒字となる売上高が低いので、やはり利益が

出やすい企業体質といえる。

 

 

これらのことがわかって来ると健全な経営に対する舵取りができる!

 

 

簿記の仕組みをこの程度だけでも知るだけでも、

このように経営状況が計数的に理解できるようになり、ロジカルシンキングにつながる。

 

次回はそのための簿記のポイントを解説する。