28.事業収益力①総資本利益率

2009年12月6日

財務分析解説コラム(12) 当社事業の収益性を検証する -総資本営業及び経常利益率-
これまで会社の安全性や借入金返済能力などについて説明してきました。今回からは会社事業の収益性を検証する財務分析について説明します。第1回目はその基本的指標である『総資本営業利益率』と『総資本経常利益率』です。

事業の目的と利益
「事業の目的」に対する答えは人それぞれで色々とあると思いますが、一つは人と同じく、事業も社会に対し貢献することだと思います。貢献の大きさには色々あるかと思います。それはそれで仕方がないとしても、会社を経営する以上、少しでも社会には貢献したいものです。では、貢献する「社会」とは一体なんですか。それはまず、自分と自分の家族です。次に社員がいれば、社員とその家族です。さらに取引先の人々とその家族です。それら多くの人々を事業通じて幸せにすることが、社会への貢献です。その幸せの輪を徐々に大きくしていければ、社会に対する貢献度も大きくなってきます。その社会貢献を果たしていくためにも、自社の製品や商品、あるいはサービスでお客様の満足とお客様の期待に応え、その対価で社員の幸せと事業を継続させていかねばなりません。そのためには、利益を上げ続けていく必要があります。
利益を確保するということは、事業をやっていくうえでかくも重要なものです。

総資本営業利益率及び総資本経常利益率とは
事業は収益活動を行うために資金調達をします。調達資金は他人資本と自己資本に分けられ、その合わせたものを『総資本』と呼んでいます。一方、利益には5つの利益があります。売上総利益・営業利益・経常利益・税引き前当期純利益・当期純利益の5つです。これらの中で、『営業利益』は事業本業で上げた利益と表現できます。また『経常利益』は経営活動の最終利益と表現できます。優れた経営は、より少ない総資本で、より高い利益を上げることです。事業の収益性を図る基本指標として『総資本営業利益率』と『総資本経常利益率』が上げられます。計算式は次のとおりです。
計算式:総資本営業利益率 =  営業利益 ÷ 総資本
総資本経常利益率 =  経常利益 ÷ 総資本

総資本営業利益率及び総資本経常利益率の見方
(1)定期預金金利が最低目標
いま1年定期預金をすれば、いくら金利がつきますか。元金の額と金融機関によって違うのでしょうが、だいたい0.5%~1.0%程度でしょうか。で、あれば『総資本営業利益率』あるいは『総資本経常利益率』は、最低でも2%程度は欲しいところです。もし、1年定期預金金利より低いならば、事業で供している総資本を定期預金で運用した方が「利回りが良い」ということになります。もしそうであれば、利益という点では「あまり事業をする意味はない」という言い方ができます。
(2)見方は時系列比較・計画値比較・同業他社比較
まず第1に「時系列」で比べます。前年・前々年・3年前と比べて、現状はどうかという評価です。第2に「計画値」と比べます。さらに第3の方法として「同業他社」と比べます。ちなみに業種別の『総資本営業利益率及び総資本経常利益率』は次のとおりです。
◆総資本営業利益率
①建設業1.8% ②製造業 2.5% ③情報通信業3.8% ④運輸業1.5%  ⑤卸売業1.8% ⑥小売業0.0% ⑦不動産業2.5% ⑧飲食宿泊業0.1% ⑨サービス業2.0%
◆総資本経常利益率
①建設業1.6% ②製造業 2.1% ③情報通信業3.4% ④運輸業1.8%  ⑤卸売業1.6% ⑥小売業0.6% ⑦不動産業1.6% ⑧飲食宿泊業0.5% ⑨サービス業2.3%
(中小企業庁「中小企業の財務指標」調べ)

総資本営業利益率及び総資本経常利益率の原因分析
(1)総資本営業利益率及び総資本経常利益率の計算式を分解する
『総資本営業利益率』を例に説明します。
算数問題となりますが、『総資本営業利益率』を売上高で通分すると、「営業利益÷売上高×売上高÷総資本」となります。前半の「営業利益÷売上高」という式は、『売上高営業利益率』という指標です。つまり、売上高に占める営業利益の割合です。一方、後半の「売上高÷総資本」という式は、『総資本回転率』という指標です。つまり、総資本の何倍の売上を上げたかという数値になります。これらをまとめますと『総資本営業利益率』とは、『売上高営業利益率』と『総資本回転率』とを掛け合わせたものとなります。これが、『総資本営業利益率』の原因分析をするときの大きなポイントとなります。なお、『総資本経常利益率』も同様です。営業利益を経常利益に置換えればOKです。
(2)総資本営業利益率及び総資本経常利益率の原因分析をする
これも『総資本営業利益率』を例に説明します。
上記の計算式から、『総資本営業利益率』の改善・悪化の原因は『売上高営業利益率』の改善・悪化と、『総資本回転率』の改善・悪化に分けられることがわかります。従って、次の手順で原因分析を行います。
①原因が『売上高営業利益率』にあるのか、『総資本回転率』にあるのか、それとも両方なのか、見分けます。
②『売上高営業利益率』に原因がある場合は、各費用の対売上高比率を見ます。悪化している場合には、必ず何かの費用対売上高比率が高くなっているはずです。
③『総資本回転率』に原因がある場合は、各資産と各負債・資本の回転期間を見ます。悪化している場合は、必ずどこかの資産あるいは負債・資本の回転期間が長くなっているはずです。
なお、『総資本経常利益率』も同様の考え方で原因分析ができます。

総資本営業利益率及び総資本経常利益率を改善するには
基本は、『売上高営業利益率』あるいは『売上高経常利益率』を改善することと、『総資本回転率』を改善することになります。
(1)売上高営業利益率あるいは売上高経常利益率を改善する
具体的には営業利益・経常利益を増やすことです。仮に売上高は増やせないとすると次のようになります。
①売上総利益を改善する
売上総利益は「売上高-売上原価」で求められます。従って、売上高が増やせないとすれば、売上原価を減らすことが求められます。具体的には、ロス率を減らす、仕入を減らす、外注費を減らすなどです。ロス率を減らすには、工程などプロセスを見直す必要があります。仕入を減らすには、支払条件などを検討して仕入単価を下げるという方策と、適正在庫による仕入数量の見直しが基本的考え方となります。また、在庫管理をしっかりするということは、デッドストックの撲滅と適正在庫化という2つの効果が期待できます。また売上数量を増やさないで売上高を上げるには、意外と安易な値引を認めないという姿勢を堅持することが大切です。
②営業利益を改善する
営業利益は「売上総利益-経費」で求められます。そこでまず考え方を変えることが大切です。つまり、「売上総利益-経費=営業利益」という、「営業利益は結果」という考え方ではなく、「売上総利益-営業利益=経費」という考え方で「所定の営業利益を確保するために経費をコントロールする」という考え方に変更します。まず売上総利益伸び率を超えている経費は必ず削減します。それ以上に削減できることがないのか、たとえ金額は小さくとも必ず実行します。経費削減は小さな積み重ねが大きな改善に繋がります。
(2)総資本回転率を改善する
これも仮に売上高が増やせないとすれば、分母の総資本を減らすしかありません。資産から考えれば、売上債権回転期間を短縮するために、再度、約定の履行を徹底することとか、得意先ごとに残高を確認し、回収期限を大きく超えている得意先があれば直ちに回収を計ります。また遊休固定資産や廃棄すべき固定資産があれば処分します。その売却資金を借入金などの返済に充て、総資産を圧縮します。
(3)問題は必ず解決できる
これらは会計帳簿をもとに悪化していると判断しているのですから、必ず原因はあります。原因があれば、解決方法は必ずあります。となれば、あとは行動力・実践力・意思貫徹力だけです。なかなか厳しい解決方法なのかもわかりませんが、問題だと言えているうちに解決しないと、問題が事実となり、さらに倒産という厳しい現実が近づいてくるだけです。
本来、このような事態を招かないためにも、常日頃から会計資料によるチェックは大切だと言えます。

いま中小企業は大変な時代に突入しています。これは時代が大きく変わったということであり、景気が回復しても時代が戻るのではなく、新しい時代を迎えるということです。つまり「これまでと同じことを繰り返ししていてはダメだ」ということです。その場、その場凌ぎの対処療法ではなく、地道に「会計資料」という自社の診断書を読みこなし、自社の症状を発見し、その処方箋を明確にして実行していくことが根本的な治療となります。確かに、今までは「会計資料」が読めなくとも、また読まなくとも、困ることにはなりませんでした。しかし今は「市場収縮の時代」であり「グローバル時代」です。「会計資料が読めない・読まない」ということは、そこに経営の危機が迫って来ているのに、気づくことすらできずに、表面化したときには「倒産」という憂き目に会うことになります。時代は違っているのです。自社にちょっとした「チェンジ」というスパイスをふりかけましょう。次回もお楽しみに・・