598.実務的な経営分析 まとめ

2022年12月29日

更新:2024.01.08

 実務的な経営分析 まとめ

これまで、「手元資金」「売上債権」「当座・流動資産」「固定資産」「借入金」「自己資本」「他人資本」「損益計算書」と、

8回にわたって、会計資料の『実務的な経営分析』を見てきました。

今回はその『まとめ』をお送りしますが、

覚えておきたいことは「中小企業の実務的な経営分析においては一般書籍の経営分析はあまり当てにならない」ということです。

その理由は、書籍の経営分析は会計学や経営学など正規の理論に基づいて書かれているため、

自ずと上場企業を始めとする大手企業を前提にならざるを得ず、かつその株主視点で書かれているからです。

したがって、内容は専門的で、中小企業感覚からほど遠いものとなっています。

 

しかし、中小企業には大企業のような株主はいません。

また「所有と経営」の分離もされていません。

したがって、書籍をヒントにしながらも、自社にフィットした読み方をすることが大事なのです。

ですから、実務の世界で活用するわけですから、分析名も創作して名付ければよく、計算方法も意味が通ればそれで良いのです。

ぜひ、このことを頭において、経営の羅針盤である月次試算表や決算書を読みこなし、健全な事業活動を目指しましょう。

どんな中小企業も健全な事業活動はできるのです!

 

1 読みこなすためには『財務諸表』の仕組みを知ろう!

財務諸表の代表は、なんと言っても「貸借対照表(B/S)」と「損益計算書(P/L)」です。

この2つの表で、事業の財政状況と営業活動状況を表します。

そこでそのことをより理解するために、事業の始まりを振り返って見ましょう。

そうすれば表していることや見るべきポイントが理解できてきます。

(1) 事業は『資金の調達』から始まる

 事業を始めるにあたって、まずは資金を準備します。

 その集めた資金のことを「総資本」と呼ますが、「自己資本」と「他人資本」に分けられます。

(2) 総資本で資産を購入するという『資金の運用』が始まる

 事業を始めるために、次に何をしましたか?

 そうです、集めた総資本を元に「資産」を購入し、資産形成をして営業活動の準備をします。

(3) 調達した資金と資金の運用をもとに『営業活動』を開始する

 資産が準備ができれば、第3ステップとして、ようやく営業活動が始まります。

 その結果が『損益計算書』としてまとめられます。

(4) 営業活動で得た『利益』を次期の事業資金へ回す

 そして営業活動で得られた「利益」は資本に還流され、「自己資本」として蓄積されます。

 そして元からあった総資本と営業活動で産み出した利益をもとに次期に必要な資産を購入し、再び次期の営業活動を行います。

 この繰り返しが『事業の経営活動』です。

経営活動は『資金調達→資金運用→営業活動→利益算出→資本への組入れ』この繰り返し!

 

このようにあらためて理解すると、まず、いかに「赤字経営が問題か」ということが理解できます。

なにしろ、赤字であれば、次期の資本蓄積ができません。

と同時に、自ずと「B/S・P/Lの読むべきポイント」がわかってきます。

 

 

2 B/SとP/Lの読むべきポイント

上記の事業活動の流れをもとに考えれば、次のように、いくつかの読むべきポイントが想定できます。

 

(1) 『資金調達』に問題はないか?  ⇒負債・純資産を読む

 ex1.他人資本に頼り過ぎていないか?

    →できれば極力自己資金だけで事業は行いたいものです。

     しかし現実的にはなかなかそうもいかない。

     そこで、総資本に占める負債の割合や借入金と平均月商を比較することなどで、他人資本の依存状況が読み取れる。

 ex2.他人資本は返済できる状態で資金運用できているか?

    →事業を始めると商売を通じて買掛金や未払金など、どうしても「流動負債」という短期で返済しなければならない

     他人資本が発生する。

     問題は、常に流動負債を返済できる状況で資金運用ができているか?ということだ。

     そこで、キャッシュと流動負債を比較したり、当座資産と流動負債を比較したり、さらには流動資産と流動負債を

     比較したりなどして、支払能力が読み取れる。

 ex3.有利子負債の返済状況に問題はないのか?

    →事業の負債には、商売を通じて発生する流動負債と、設備購入などのために借りる有利子負債がある。

     特に有利子負債は返済できなくなくなると銀行取引が停止となるので、廃業に追い込まれる可能性がある。

     そこで、有利子負債と最大の返済原資である「減価償却前営業利益」を比較することで、最短の返済期間が予測できる。

     そうすることで、有利子負債の返済状況が読み取れる。

 ex3.自己資本は十分か?

    →事業は他人資本をもとに経営をするのではなく、できる限り自己資本をもとに経営したいものである。

     そこで、総資本に占める自己資本の割合を確認することで、その状況が読み取れる。

 

(2) 『資金運用』に問題はないか?  ⇒総資産を読み

 ex1.キャッシュは十分にあるのか?

    →事業で頼りになるのは、何と言っても「おカネ」だ。おカネが盤石にあれば、事業は倒産しない。

     そこで、そのおカネが当座困らないだけあるかどうかは、手元資金と平均月商を比較することで読み取れる。

 ex2.売上債権に問題はないのか?

    →売上債権はキャッシュになる直前のモノだ。かと言って、多ければいいものではなく、必ず「適量」というものがある。

     そこで、その適量性は売上債権と回収期間の売上高を比較することで読み取れる。

 ex3.棚卸資産に問題はないのか?

    →余分な棚卸資産は販売コスト高の元であり、資金繰りを悪化させる元でもある。

     そこで、棚卸資産の状況は、棚卸資産を月間の仕入高+材料費と比較し、販売サイトを考え合わせることで読み取れる。

 ex4.その他流動資産は多くないか?

    →その他流動資産のほとんどは、事業には必要がない資金運用だ。だから、少なければ少ないほど良い。

     そこで、総資産に占めるその他流動資産の割合を確認することで、その状況が読み取れる。

 ex5.固定資産の稼働状況に問題はないのか?

    →固定資産は「減価償却費」を通じて資金化されていくが、なかなか資金化できないモノだから固定資産という。

     また、その目的は生産のための設備なので、高い稼働状況と充実した設備状況がポイントだ。

     そこで、固定資産と総資産の比較や年商と固定資産の比較、あるいは固定資産と従業員数の比較などで、

     その運用状況や操業度、装備状況などが読み取れる。

 ex6.固定資産購入のための調達資金に問題はないのか?

    →固定資産は一般的に高額なモノが多く、その購入資金の出どころが問われる。

     そこで、固定資産と自己資本との比較、固定資産と固定負債+自己資本との比較などで、調達資金の状況が読み取れる。

 

(3) 損益に問題はないか?

 ex1.売上の状況はどうか?

    →決して売上至上主義になってはいけないが、しかし物価上昇や昇給などのことを考えれば、

     基本的には毎年伸ばしたいものだ。

     そこで、前年同月や前年累計との比較は基本として、さらに計画との比較や継続売上と新規売上の掌握、

     あるいは得意先別又は商品別売上などの掌握などで売上状況が読み取れる。

 ex2.付加価値は上がって来ているか?

    →営業成績で一番大事なことは「付加価値」を向上させることだ。

     そこで、直接原価による「限界利益」を見ることで、真の付加価値状況が読み取れる。

 ex3.人件費は従業員が満足できる方向になっているか?

    →従業員は事業にとってもっとも大事な定性要因であり、その士気の高さが「高付加価値経営」の源泉だ。

     そのためには「従業員満足度」を高めることが大切で、その大黒柱が人件費だ。

     そこで、従業員人件費と限界利益を比較することで、その状況が読み取れる。

 ex4.営業利益はどうか?

    →営業利益は、数多くある利益の中で「本業による利益」とも言える最重要な利益だ。

     この営業利益が「営業赤字」だとその事業は市場から支持されていないことを意味する。

     そこで、営業利益と売上高を比較することで、市場からの支持状況が読み取れる。

 ex5.経常利益はどうか?

    →経常利益は、企業とって「経常的な最終利益」だ。

     これが毎年稼ぎ出すことが可能な利益でもある。

     そこで、経常利益と目標内部留保額+必要な納税資金+年間借入返済元金などの合計を比較することで、

     その状況が読み取れる。

 

 

3 読み方も比較も自己流でよい

B/SやP/Lを読むにあたって、書籍を購入して勉強しようとする人が多いが、ほとんどが挫折する。

それはいくら読んでも、いまの商売にあまり結び付かないからだ。

既述したように、それらの書籍は会計学や経営学に基づいて書かれてから、あまり私たちには参考にはならない。

またそれなりの専門家が書いていることもあり学術的に意訳したことは余り書けないし、その内容も中小企業の現場と
離れていることも多く、それゆえ記述内容も難しく、会計を難しく感じさせることに貢献している場合が多いといえる。

私たちは金融機関や会計士やアナリストでもないし、第三者の決算書を客観的に読むこともない。

私たちは『実務家』だ。

 

会計とは、本来、取引を分類して、それらを集計しているだけのほんとうに単純なものです。

そこで分類した項目の内容を踏まえて、意味がありそうな項目同士を比較したり、時系列に見ることで

「会計資料を読む」わけです。

あくまでも、自社の事業がどうなっているのかを読もうとしているのであって、

意味さえあれば、その読み方はすべて自己流であって良いわけです。

もし、それで私たちがビジネスに成功すれば、松下幸之助の事業部制や稲盛和夫のアメーバ経営のように、

それらがあたかもスタンダードのように報じられるわけです。

 

別に試験を受けるわけでもないので、自分で意味あると思える読み方が「意味ある読み方」なのです。

また、計算式も試験を受けているのではないので、細かいことまでを気にする必要もない。

そもそも、大手企業であっても数値自体が「100%正確」とはいえないので、おおよその検討がつけば、それで十分だ。

それが実務というものです。