344.会計活用のエッセンス⑧

2017年12月30日

第8回 「有利子負債」の読み方・見方

 今回は「有利子負債」の読み方です。
有利子負債とは、字のとおり利子がある負債、つまり一般的には金融機関からの借入金です。

 事業の流れを振り返ると、最初は事業資金を集め(資金の調達)、その資金で必要な資産(在庫・設備)を購入し(資金の運用)、そして営業活動を行い利益を残し(運用結果)、それをまた資金に組み込み、運用し、営業する、という流れを繰り返していくものです。

この「資金の調達→資金の運用→運用結果」という流れを「総資本-総資産-損益」という形にまとめ、月次試算表または決算書という会計資料で経営の状況を把握・管理していくわけです。

 ここで大事なことは、事業活動で利益を残せないと企業は自己資本で次の資金運用をすることができなくなり、有利子負債をもとに資金運用するしかなくなり、利益を残せない上に返済と金利の負担に追われることになり、徐々に経営状況は悪化して行くという
悪循環に陥ることになります。 これが現代の多くの企業の状況です。

 そこで、今回はその有利子負債についての読み方・見方をご紹介します。

 

1 有利子負債「短期借入金」と「長期借入金」の概要

 有利子負債の代表は「短期借入金」と「長期借入金」です。そのほかに手形を使っていたなら「割引手形」などもそうです。

「短期借入金」と「長期借入金」は自ずとその目的は違います。それが読み方・見方につながります。

(1)短期借入金

 短期借入金は元来、賞与支払や日常資金などの運転金目的の短期間の借入です。すぐ返済できる見込みの上で借りますので、金利
は少々高くなりますが、借入期間が短いので実際に支払う利息はそう多くはならない筈の融資です。

したがって、カードローンなど短期目的の融資制度なのに審査も甘いということで安易に借りて、長期間借りることになってしまう
と、支払利息は想像以上に高額となってしまいますので、経営を圧迫します。

 つまり、「返済目処が立たないのに短期借入金は借りるな」ということが金言です。

(2)長期借入金

 一方、長期借入金は、設備投資目的の借入ですので金利は低くなりますが、返済期間が長いので実際に支払う利息合計は多くなります。したがって、投資効果を検討せずに借りてしまうと、経営に過大な負担を負うことになります。

 つまり、「長期借入金を借りる際には返済も織り込んだ採算計画を立てよ」ということが金言です。

(3)借入金の勘定科目

 勘定科目は、流動負債として「短期借入金」「1年以内返済長期借入金」があり、固定負債として「長期借入金」があります。

短期借入金とは、1年以内に返済する銀行融資です。長期借入金とは、1年を超えて返済する銀行融資です。
一年以内返済長期借入金とは、長期借入金のうち、1年間で返済する部分です。
したがって、長期借入金は1年以内長期借入金と長期借入金に分かれることになります。

この区分は試算表で会社の経営状況を判断する際に重要な情報となりますので、正しく区分する必要があります。

 税理士(職員)の中には「どちらでもいいですよ」なんて、ものわかりの良さを感じさせる税理士(職員)もいるかもわかりませんが、それは見せかけです。
真の姿は、決算書・申告書のことだけを考えてる古い体質の税理士(職員)である証左ですので、気をつけましょう。

 

 2 短期借入金を借りた時点で経営的にはアウトの状況だと心得る

 冒頭にもご紹介したように、商売とは創業当初を別にすれば、売れたお金で商売を回していくものです。また行かせるものです。

短期借入金とは企業経営の日常的な支払いに対する借入金ですから、本来は「売上高」を源泉とした資金で運用ができる経営をするべきで、短期借入金を起した時点で、経営的には黄色ランプが点滅していることを自覚せねばなりません。

短期借入を起こそうと考えた時点で、経営的にはもう問題があり、直ちに改善に向けた取り組みをしなければなりません。

 現在の多くの中小・小規模企業において、「賞与資金が足りないから」とか、「納税資金が足りないから」など、さまざまな理由で運転資金目的で金融機関から融資を受けているという話をよく聞きますが、それは「とんでもないことだ」という意識を持つことが大切です。

 

 3 借入金の読み方・見方

 以上のことを基本知識として、月次試算表から借入金に関する状況を読みましょう。

(1)借入金依存度を読む

 借入れしないで事業が回るならばそれが理想的です。しかし事業を営む以上、現実的には借入れをすることは普通とも言えます。

ただ、過剰な借入れは経営の健全性からも避けたいところです。では、それはどう読めばわかるのでしょうか?

それは借入残高と平均月商を比べればわかります。

  借入金残高 ÷ 平均月商    =Xヵ月分  ☚借入金対月商倍率

  *借入金残高=短期借入金+1年以内返済長期借入金+長期借入金

もし、借入金対月商倍率が6ヵ月分以上あれば、明らかに借り過ぎです。経営を圧迫している状態かと思いますので、リスケなどの打ち手を早急に考えなければなりません。できれば3ヵ月分以内にコントロールしたいものです。

 

(2)借入金返済期間を読む

 現在の経営状況から、借入金の返済期間を読みます。この計算結果が実際の返済期間より長ければ、資金繰りは厳しいということ
ことです。それは次のように読みます。

  借入金残高 ÷(平均経常利益+減価償却費)=Y月数又は年数  ☚債務償還月数又は債務償還年数

  *平均経常利益+減価償却費が月次平均金額であれば、算出される返済期間の単位は「ヵ月」となります。

   平均経常利益+減価償却費が年間金額であれば、算出される返済期間の単位は「年」となります。

この読み方には2つの前提があります。
ひとつは「売掛回収はすべてできる」という前提です。
もうひとつの前提は「事業で得た資金はすべて借入返済に回す」ということです。
ですから、計算結果は最短の返済期間です。

この最短の返済期間が、実際の返済期間より長ければ、「資金繰りは厳しい」と言わざるを得ません。

現在の中小・小規模企業の3分の2が赤字経営だと言われていますので、如何に借入返済が大変か、想像できるかと思います。

 

(3)直近の返済状況を読む

 3つめの読み方は、直近の返済状況を読む方法です。それは次のような読み方をします。

  手元資金 ÷ 1回当たりの返済額 =Z回分 ☚手元資金返済倍率

手元資金とは、現金+預金のことでした。この手元資金と1回の返済額を比べれば、返済のための資金状況が推測できます。
少なくとも、返済6カ月分ぐらいの手元資金は持っておきたいものです。

 

 

こうやって考えてみると、「経営」という形ない概念も、意外と科学的にコントロールできるものであることに気づかされます。

それがいわゆる「経営技術」です。

毎月の試算表を日々の経営に活かすことによって、営業活動を「黒字経営」にし、資金繰りが楽になる「強い会社」つくりが可能となります。もちろん、そのためには社長自身が創意工夫を図り、従業員を引張って行かれることが必要です。

景気が悪いとか、優秀な社員がいないとかなど、ときには愚痴をこぼすことがあっても、経営者自身が変わることが重要です。

 

 

現在はただ一生懸命、商売・仕事をしていれば事業が継続できる時代ではありません。

それだけ世の中の変化は激しく、早くなっています。それが、高度成長後の現代、成熟社会だと思います。

ぜひ、いま一度経営というものを考え、創意工夫と実行でさらなる発展を目指しましょう。

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