619.収益改善の方法⑤

2023年7月15日

 これまで、収益改善のためには、

①たとえ少数であっても改善の前に人心を刷新することがまず大切であること

②できれば改善着手の前に現状分析を行うこと

③そのうえで戦略・戦術を立案すること

これらのことが大切だと説明してきました。

今回は収益改善の最後として、どこを改善するかによって、その収益改善の効果の大きさを考えてみましょう。

 

5 収益改善効果の大きさ

 いろいろと、戦略と戦術を練って収益改善に取り組んだ結果、その成果は売上高・売上原価・経費に現れてきます。

それらがミックスされて、経常利益、最終的には当期純利益が増益するという結果をもたらせます。

しかし、その3点の効果はそれぞれ、最終利益にもたらす効果には違いがあります。

そこで簡単な事例に基づいてそれを確かめたいと思います。

 

 《事例》

 売上高30,000千円  粗利益15,000千円  経費(固定費)20,000千円  利益△5,000千円 とします。

業種は各自想像してください。また、原価は直接原価、つまり材料費・商品仕入のみとします。

したがって、経費には労務費や製造経費などが含まれます。

 

(1)実額で収益改善目標を設定した場合

 仮にいろいろな改善策を駆使して「3,000千円の効果があった」とします。

事例1:売上高が3,000千円増えた場合

 つまり、売上高が10%増えて、33,000千円になったということです。

 すると直接原価率は50%だったので、直接原価は33,000千円×50%=16,500千円となります。

 粗利益も16,500千円となりますから、経費20,000千円を差し引きすると、経常利益は△3,500千円となります。

 残念ながら、売上高が10%増えても黒字転換にはなりません。

 赤字は売上が3,000千円増えたからといって、3,000千円減らないのです。

 

事例2:直接原価が3,000千円減った場合

 この場合、直接原価は15,000千円ー3,000千円=12,000千円となり、

 直接原価率は12,000千円÷30,000千円×100=40%まで下がることになります。

 よって粗利益は30,000千円×(100%ー40%)=18,000千円となり、経費20,000千円を差し引きすると、

 経常利益は△2,000千円となります。

 先ほどの売上高3,000千円増収よりも赤字幅は少なくなりましたが、しかし残念ながら黒字転換にはなりません。

 この場合は、直接原価が3,000千円減れば、赤字も3,000千円減ります。

 

事例3:経費(固定費)が3,000千円減った場合

 この場合、経費は20,000千円ー3,000千円=17,000千円となります。

 よって利益は、限界利益15,000千円ー経費17,000千円=△2,000千円となります。

 やはり、経常利益は△2,000千円となり、残念ながら黒字転換にはなりません。

 この場合も、経費が3,000千円減れば、赤字も3,000千円減ります。

 

(2)比率で収益改善目標を設定した場合

 次にいろいろな改善策を駆使して「20%の効果があった」場合を考えましょう。

事例1:売上高が20%増えた場合

 売上高が20%増えるということは、36,000千円になったということです。

 すると直接原価率は50%だったので、直接原価は36,000千円×50%=18,000千円となります。

 粗利益も18,000千円となりますから、経費20,000千円を差し引きすると、経常利益は△2,000千円となります。

 残念ながら、売上高が20%増えても黒字転換にはなりません。

 

事例2:直接原価が20%減った場合

 この場合、元の直接原価率は50%でしたから、20%減って、30%になったということです。

 よって粗利益は30,000千円×(100%ー30%)=21,000千円となり、経費20,000千円を差し引きしても、

 粗利益は1,000千円残りますので、経常利益は1,000千円の黒字転換になります。

 

事例3:経費(固定費)が20%減った場合

 この場合、経費は20%削減できましたので、16,000千円となります。

 よって利益は、限界利益15,000千円ー経費16,000千円=△1,000千円となります。

 ずいぶん赤字は減りましたが、しかし経常利益は△1,000千円となり、残念ながら黒字転換にはなりません。

 

(3)まとめ

 こうして見てみると、収益改善の際一番目標にされやすい『増収(売上アップ)』は、収益改善の効果が低いことに気づきます。

とはいえ、売上高は収益源泉のパイになりますので、常にある程度の増収状況になっていることは理想です。

 

 次に『経費の削減』は減った分が利益に回りますので、ある程度収益改善効果は高いと言えますが、問題はなにぶんパイが小さい

ことです。したがって、限界があります。

また度を超えた経費削減は低賃金や士気の低下を招く恐れもありますので、気を付けなくてはなりません。

 

 最後に『直接原価の削減』は直接原価率の改善に結びつきますので、大きな収益改善効果をもたらします。

また経費とは違い、士気に抵触する恐れもありません。

事実、赤字企業の多くは、黒字企業と比較すると直接原価率が高い傾向が顕著にあり、その根源は「在庫」にあり、またその原因は

仕入れにあります。

 

(4)損益分岐点分析の重要性

 比率による収益改善目標を設定する場合、重要な経営手法が『損益分岐点分析』です。

損益分岐点分析で損益を見ると、通常の損益計算書では見にくい自社の収益構造や改善点が見えてきます。

通常の損益計算書は「財務会計」とか「制度会計」と呼ばれており、税務上、なるべく早く利益が出る仕組みになっています。

そんなところが肌感覚の損益と違和感を感じるところだとも言われています。

 そんな違和感を是正してくれるのが、『損益分岐点分析』であり、あるいは『直接原価損益計算書』です。

これからはますますマネジメントスキルが求められすので、ぜひとも損益分岐点分析や直接原価損益計算書を体得しましょう。

詳しくは当コラムで「損益分岐点分析」や「直接原価計算」、あるいは「変動損益計算書」などと検索してみてください。

 

 

  中小企業にとって大企業へ脱皮することは難しいことですが、採算に見合った経営をすることは大企業よりも簡単です。

  そのためには、まず経営者である社長が姿勢を改め、少人数でも従業員とよくコミュニケーションをとることが大事です。

  従業員との認識が共有できれば、収益改善に大きく前進をしたと言えます

 

  ※各経営戦略についてより詳しく知りたい方は「インプルリポートの検索」で『戦略』等を検索されればご覧いただけます。