583.わかりやすく 免税事業者とは

2022年9月18日

再々更新:2022.10.04

来年、2023年10月1日から『インボイス制度』が開始される。

それに際して、いま多くの免税事業者が、経営判断の岐路に立たされている。

 

免税事業者として続けるべき? それとも課税事業者を選択するべき?

 

そこで今回は「わかりやく免税事業者とは」と題し、あらためて免税事業者について考えてみよう。

 

 

1 免税事業者とは

免税事業者とは、消費税の課税期間に係る基準期間における、課税売上高が1,000万円以下の事業者のことだ。

なにやら難しいそうな言葉が羅列されているが、主に、個人事業者や小規模法人事業者が免税事業者に該当する。

しかし、「基準期間における課税売上高が1,000万円以下」について、正しく理解していない事業者が多いようだ。

それを紐解くキーワードは、課税期間・基準期間・課税売上高の3つの用語だ。

(1)課税期間とは

「課税期間」とは、消費税の納付額を計算する期間のことをいう。

 ▶個人事業者ならば、暦年の1月1日から12月31日までの1年間となる。

 ▶法人企業ならば、年度事業期間の期首日から期末日までの1年間となる。

 

(2)基準期間とは

次に、課税期間の「基準期間」とは、今期が消費税を納付しなければならないのか、それとも必要ないのか、判断する基準となる

期間のことだ。 具体的には、今期の「2年前」のことをいう。

たとえば・・

 ▶個人事業者の本年度2022年の課税期間の「基準期間」は、2年前なので、「2020年1月1日から2020年12月31日まで」

 ▶法人企業で3月決算の「基準期間」は、2年前なので、「2020年4月1日から2021年3月31日まで」

 

この基準期間の課税売上高が、1,000万円以下(1,000万円まで)ならば、2022年は「免税」となり、消費税の申告は必要ない。

基準期間とは現在事業期間の2年前の事業期間のことを指す!

 

(3)課税売上高とは

最後に「課税売上高」とは、消費税がかかる対象となる売上高のことだ。

消費税を請求しているけれど、免税事業者なので消費税を納付していない場合は、「税込」の売上高及び雑収入等となる。

特に雑収入として計上した営業外収益は、多くの場合が課税対象になるので、注意が必要だ。

課税売上高には非課税を除く営業外収益も含まれる!

 

なお、免税事業者「課税売上高」と、課税事業者の「課税売上高」とは少し違うので、これにも注意が必要だ。

 ▶免税事業者は、消費税を上乗せしていても、それも加えた売上高と営業外収益が課税売上高となる。

  わかりやすく言えば、「税込み売上高」が課税売上高となる。

 ▶課税事業者の場合は、消費税を除く「税抜売上高」が課税売上高となる。

たとえば・・

 ▶免税事業者は、営業外収益を含む「税込売上高」が1,100万円超であれば「課税事業者」となり、消費税の申告が必要だ。

 ▶課税事業者であれば、その年の売上高が税抜1,000万円以下ならば、その事業年度は消費税の申告が必要だが、

  この年度が「基準期間」となる、2年後の事業年度は「免税事業者」となるので、消費税の申告は不要となる。

したがって、売上高1,000万円前後の企業は、消費税の申告が必要な場合と、そうでない場合が頻繁に変わる可能性があるので、

注意が必要だ。

免税か、そうでないか、頻繁に変わる場合がある!

 

ただし、次でも説明するが、「適格請求書発行事業者」になると、売上高に関係なく、常に課税事業者になるので、

「適格請求書発行事業者」は消費税の申告が毎年必要となる。

 

(4)インボイス制度の「適格請求書発行事業者」になると

そのような状況で「適格請求書発行事業者」になると、適格請求書発行事業者は売上高がいくらであろうと「課税事業者」になる

ので、適格請求書発行事業者登録申請をした事業者は2023年10月以降はずっと「課税事業者」になる。

ただし、免税事業者が適格請求書発行事業者になると、その初年度だけは免税事業者期間(2023年9月30日まで)と、課税事業者

期間(2023年10月から)が混在するので、消費税の申告が少し複雑になり、注意が必要だ。

免税事業者が適格請求書発行事業者になると初年度は免税と課税が混在する!

 

 

2 免税事業者がインボイス制度で不利と言われる理由

インボイス制度が始まると、「免税事業者が不利になる」と言われることが多いが、その理由を考えてみよう。

(1)免税事業者は売上が減少する?

最初に考えられることは「売上が減るのでは?」「仕事が減るのでは?」ということだ。

その理由は、免税事業者と取引を行うと、相手取引先の課税事業者は仕入税額控除ができなくなるので、

仕入税額控除が受けられる課税事業者との取引に切り替えられるのではという懸念だ。

 

(2)免税事業者は値引き要求される?

次に、免税事業者は消費税を納税する必要がないことがわかるようになるので、取引先の一つの選択肢として、

請求時に本体価格の中に含まれていると思われる消費税額を「値引きしてほしい」と要求されることが予想される。

しかし、そのような要求は『消費税転嫁対策特別措置法』に抵触する恐れがあるので、結果的にはそういう要求はなくとも、

やはり免税事業者は取引から除外される恐れがあるという懸念だ。

 

(3)免税事業者は信用を損なう?

これが一番大きな影響かもわからない。

だれでも、あまり小さな取引先とは、継続の安定性から考えても取引をしたくないと考えるものだ。

企業取引の上では「互いの信頼性」というものが極めて重要ということだ。

しかし、『適格請求書発行事業者』でないために、「信頼性に欠ける」といったイメージがついてしまう可能性があるかも

わからない。そうなると、取引の継続に大きな影響が出て来るという懸念だ。

 

(4)「経過措置」は意外と実効性がない?

そのようなことから『インボイス制度』には「6年間」の経過措置がある。

この主旨は、免税事業者の判断猶予期間として、6年間は適格請求書でなくとも、その何割かは「仕入税額控除」ができるという

期間だが、相手取引先の立場から考ると、そのために仕入税額控除ができる請求書とできない請求書を分ける必要があり、事務量が

増えるということになる。 したがって、一元的に管理をしたいという考え方が働く。

また、「信用」という意味では、経過措置は意味をなさない。 やはり「信用」を損なう恐れがある。

したがって、「経過措置」という制度は、意外と実効性がないかもわからないという懸念だ。

 

(5)課税事業者になると「消費税の納税義務が発生」する

そのようなことから、本来は免税事業者なのに、これを機会に課税事業者を選択する事業者も多く現れることが予測される。

そうすれば、適格請求書が発行できるので、入ってくる仕事や売上は減らないと期待できるからだ。

しかし、そうやって無理に課税事業者になれば、当然、消費税を納付しなければならなくなるので、これまでの「免税」という

メリットは無くなる。

これまで必要なかった消費税の計算や申告の「事務」が増え、そして「納税」という資金流出も発生するようになる。

免除されていた消費税を納めることは、規模の小さい個人事業者や法人事業者にとって、大きな負担を招き入れることになる。

 

 

3 免税事業者が取るべきインボイス制度対策

では、どのようなインボイス制度対策が考えられるのか、考えてみよう。

(1)しばらく(6年間)は様子を見る

実際、どのような影響が生じるのかは、インボイス制度が始まらないとわからない。

これまでも制度改革されると、その直前には、その制度によって利益が得られる事業者が「大変だ!」「大変なことになる!」と

大騒ぎをするが、いざ始まると、何事もなかったように過ぎ去ってしまうことがほとんどだ。

したがって、そのためにも、じっくりと対応を考えられる「6年間の経過措置」が、このインボイス制度にはある。

適格請求書でなくとも、最初の3年間はその8割が、残りの3年はその5割が仕入税額控除を認められるという経過措置だ。

それによって、仕入税額控除ができない免税事業者のままでいても、この6年間は影響を受けることが少ないと考えられる。

しかし、イメージが定着してしまうというリスクは伴う。

この6年間の間に様子を見て、その後の対策を考えても良いのかもわからないが、慎重な検討が必要だ。

6年間にイメージは植えつけられてしまうので、リスクは伴う!

 

(2)課税事業者に切り替える

もう一つの対策は、この際、思い切って「課税事業者」になるという選択だ。

確かに、消費税の計算や申告といった作業や納税といった資金負担が加わることになるが、インボイス制度導入による影響は

最小限に抑えることができる。

また、本来預かった消費税を支払った消費税と相殺して、預かり過ぎている消費税額を国庫に納付するということは、

当たり前と言えば、当たり前のことだ。

資金的にも消費税は消費者や取引企業が支払っているわけなので、決して消費税が資金的に経営を圧迫するわけではないはずだ。

したがって、これまでが「おかしかった」と考え、この機会を経営改革のチャンスにするという考え方が、本来の考え方ではないか

とも思われる。

インボイス制度を経営改革、チェンジのきっかけにする!

 

 

「インボイス制度」はスモールビジネスにとって、大きな影響を与える制度改革であることは事実です。

しかし大切なことは、何かを参考にして一律的に同じことをするのではなく、

それぞれの企業が身の丈に合った変革をすることなのではないのでしょうか。

そうすれば、これからの時代のそれぞれぞの「新しい道」が見えてくるはずだと思います。