14.安全性分析の種類

2009年8月27日

安全性とは
安全性分析とは、事業のために調達した資金である総資本、つまり自己資本・他人資本と、その資金運用である総資産、つまり流動資産・固定資産などとのバランスを検証したり、あるいは自社の返済能力(むずかしく言えば“債務償還能力”といいます)をチェックする財務分析です。
主に資産の部と負債・純資産の部を比べて判断します。

安全性に関する分析
(1)短期の「調達資金とその運用」を確認する
①流動比率
会計で“短期”とは1年間をいい、そのことを“One year rule”と言います。この指標は短期の調達資金とその運用を確認する財務分析の基本指標です。具体的には流動資産と流動負債とを比較し、200%以上なら「良し」とされています。流動資産とは1年以内に資金(現金)化できる資産です。例えば、現金、預金、受取手形、売掛金、株式、製品・商品などです。流動負債とは1年以内に返済しなければならない他人資本であり、支払手形、買掛金、短期借入金、未払金などです。
要は、すぐ返済しないといけない資金は、すぐに現金化できる資産で運用しておきなさいということです。
②当座比率
この指標は流動比率をさらに厳しく判定する指標であり、厳しいという意味から“酸性比率”とも言います。具体的には当座資産と流動負債を比較し、100%以上なら「良し」とされています。当座資産とは流動資産のうち、直ちに資金化できるもの、つまり棚卸資産などを除いた、現金、預金、受取手形、売掛金、株式などです。これであれば、流動負債をすぐにでも返済できる資産で運用していることになります。

(2)長期の「調達資金とその運用」を確認する
①預金対借入金比率
会計で長期とは“1年超”のことをいいます。これから紹介する指標は長期の調達資金とその運用を確認する財務分析の指標です。この指標は言葉通り、預金と銀行借入金との比較です。もし100%以上であれば安心ですよね(但し、そうであれば借入をする必要はありませんが)。一般的には、30%程度あれば健全な運用といわれています。
②借入金対月商倍率
この指標は月平均売上高何か月分の銀行借入をしているかを確認する指標です。一般的には3ヶ月以内が安全といわれていますが、なかなか私たちの事業ではそうも行かないのが現状です。しかし、せめて6ヶ月以内、最大でも12ヶ月以内には抑えたいものです。特に12ヶ月以上ある場合は返済計画を見直して月々の返済額を抑えるとか、金利の安い借入に借り換えるとか、あるいは根本的に売上拡大策を練り直すとか、長期的視野に立って見直す必要があります。
③固定比率
この指標は固定資産と自己資本(純資産)を比較した指標で、多くは200%程度になるかと思いますが、なんとか100%に近づけたい指標です。固定資産とは建物や設備、土地などのことをいいますが、これらは長く運用していくものです。これら資産購入の資金はできれば自己資金で賄えられれば理想的です。例えれば、「自宅の修繕をするのに、消費者ローンなどで資金調達してはいけませんよ」ということです。
④固定長期適合率
用語はむずしい言葉を使っていますが、要は、固定比率をもう少し甘く見て、自己資金だけで固定資産を購入できなければ、せめて固定負債(長期返済他人資本)とを併せた資金で賄いましょうという指標です。従って、固定資産を自己資本と固定負債で割って比率を求めます。これは100%未満でなくてはなりません。100%超ということは自己資本+固定負債よりも固定資産のほうが大きいとということですから、資金が足りないわけですね。ではどうしているか?といえば、不足分は流動負債で賄っているということです。つまり、自宅の修繕をするのに、消費者ローンなどで資金調達しているということです。
⑤自己資本比率
これは皆さんよくご存知の指標です。総資本(自己資本・他人資本)に占める自己資本の割合です。事業の安全性という観点から見れば、自己資本で事業を営んでいる方が安心です。しかし企業評価という観点から見れば、消極的経営と映らないとも限りません。但し、私たちの事業は株式公開をしているわけではありませんので、自己資本比率は高いほど良いと見てよいと思います。ちなみに100%自己資本企業のことを“無借金経営”といいます。
⑥経常収支比率
収支とは、収入と支出の意味です。つまり、現金ベースの収入と現金ベースの支出の比較で、冠に経常と付いていますから、本業経営活動における資金収支の比率です。原則100%以上が望ましい姿であり、100%以下ということは、不足分を預金取崩で資金を用意したり、銀行借入によって賄ったりしているということです。

(3)自社の返済能力を確認する
①債務償還年数
難しい言葉ですね。債務とは借金です。償還とは返済という意味です。従って、借金が何年で返済できるかという指標です。借金とは有利子負債ことをいい、有利子負債とは利子が付いている他人資本ですから短期借入金や長期借入金のことをいいます。また、その返済原資は営業利益と減価償却費で計算します。判断は10年以内であれば「良い」とされていますが、あまり当てにはなりません。各社の状況に応じて短ければ短いほどよいと判断すべきです。
②ギアリング比率
またまた難しいですね(中身はそんなに難しくないのに、何で会計用語はこんなに難しいんだろう・・)。ギアリング(gearing)とは、皆さんが自動車のギアといっている自動車の伝動装置のことです。つまり、歯車で回転速度を変えるわけですが、事業資金も元手(自己資本)を基に、他人資本(借入金)を借りるわけです。つまり、自己資本(歯車)をもとに調達資金(回転速度)を増やすわけです。そんなことから他人資本(負債)と自己資本を比較します。一般的には低い方が「安全性が高い」といわれますが、他方、自己資本に他人資本(借入)を加えて運用することで、自己資本のリターンを高める効果をレバレッジ効果と言います。その観点から見れば、一概に低ければ良いとも言えません。通常は100%前後でありたい比率です。なお、ギアリング比率はレバレッジ比率、負債比率とも呼ばれています。
③インタレスト・カバレッジ・レシオ
ますます分からない用語ですね。分解すると、インタレスト(interest)とは利子のことです。カバレッジ(coverage)とは、範囲などの意味もありますが、ここでは運用の意味です。レシオ(ratio)とは比率です。つまり、事業を通した利子運用比率と訳せます。事業を通した利子とは、受取るものは、まず営業利益。加えて受取利息、受取配当金があります。逆に、支払うものは支払利息、手形割引料などがあります。受け取る利子が支払う利子の何倍あるかという指標が、インタレスト・カバレッジ・レシオです。もちろん受け取る利子が多いほうが良く、通常は5倍から10倍ほど欲しいところです。これが1倍を切るあるいはマイナスということは非常に危ない会社という判定になります。

以上、安全性に関する財務分析はこれで終わりとしますが、要は資金には使い方、ルールがあるということが一つです。返済期間が短い資金がすぐ返済できる資産に運用する、長く運用する資産は返済期間が長い資金で購入するということです。それと、もう一つは返済能力です。特に債務償還能力は要チェックです。

次回は「財務分析シリーズ(5)」として成長性分析の種類について説明します。どうぞ、お楽しみに・・

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