336.380万中小企業のT/B⑮

2017年11月5日

第15回 P/L損益計算書「損益」の読み方・見方

 

 「損益計算書の読み方・見方」の最後として「損益分岐点」を紹介します。

損益分岐点は、自社の「収益構造」を明らかにし、何よりも自社の「付加価値経営」の状況を教えてくれます。

事業とは、いかに元々の商品や材料あるいサービスに、お客様が納得される付加価値を加え、粗利益を稼ぎ、経費や人件費に適正な

分配をしたのち、多くの利益を残せるかということです。

 損益分岐点は、そんな自社の状況を的確に教えてくれます。少しむずかしいかもわかりませんが、損益分岐点を理解しましょう。

 

1 損益分岐点の基本知識

最初に、村営分岐点の基本知識を勉強しましょう

(1)損益分岐点売上高

 損益分岐点とは、儲けがゼロとなる売上高、収支トントンの売上高のことを指します。

 売上高がそれを上回れば利益が生まれ、下回れば損失が出ることとなります。

(2)損益分岐点比率

 損益分岐点売上高を実際の売上高で割れば、損益分岐点比率が計算できます。

 損益分岐点比率とは、文字とおり損と益が分岐する点ですので、低ければ低いほど良く、収益力のある収益構造であることを

 示しています。

(3)経営安全率

 損益分岐点比率を100%から引くと、経営安全率と呼ばれる、損益分岐点までの余裕率が求められます。

 たとえば、損益分岐点比率が90%だと、経営安全率は10%となり、売上高があと10%下がっても赤字にはならないと

 いうことを示します。

 

2 一般の損益計算書との違い 

次に、一般の損益計算書と損益分岐点を示す損益計算書を比較してみましょう。

一般の損益計算書は、「制度会計」と呼ばれる申告する際に作成する決算書の作成ルールに基づいて作成され、

「全部原価損益計算書」とも呼ばれます。

それに対し、損益分岐点を示す損益計算書は、各企業が自社の経営管理のため自社独自のルールに基づいて作成されたものであり、

「管理会計」と呼ばれ、「変動損益計算書」とか「直接原価損益計算書」などがあります。

(1)全部原価損益計算書

 一般の決算用損益計算書は「全部原価損益計算書」であり、売上原価に直接原価と間接原価を加えて計算するように決められて

 います

 直接原価とは、商品仕入高と材料仕入のことです。但し、それぞれの仕入に期首たな卸高を加え、期末たな卸高を引きます。

 したがって、いくら多くの仕入をしても、期末たな卸高が増えれば、それだけ原価が少なくなります。

 間接原価とは、製造における労務費と製造経費(外注費を含む)のことです。

(2)変動損益計算書

 「変動損益計算書」は管理会計の損益計算書であり、費用の内、売上の増減に比例する変動費だけを売上原価として計算します

 したがって、売上原価のうちの商品仕入と材料仕入、外注加工費、電力費などを変動費とする場合が多いようです。

 しかし、商品仕入も材料仕入も「たな卸高の増減」を加味しますので、最終損益は全部原価損益計算書と一致します

 変動費にはその他にも、販売費および一般管理費のうちの販売費の一部である、広告宣伝費とか梱包代とか発送配達費などを

 加える場合もあります。

 ただし、その分け方が恣意的なので、少しわかりづらい部分があるかもわかりません。

 また、売上高から変動費を引いた利益のことを、全部原価の売上総利益に対して「限界利益」と呼びます。

(3)直接原価損益計算書

 「直接原価損益計算書」はダイレクト・コスティングとも呼ばれ、直接原価だけを売上原価として計算する、これも管理会計の

 損益計算書です。

 この方式では、仕入した商品と材料だけを原価としますので、自社で付けた「付加価値」がハッキリわかります。

 さらに期間損益で計算しますので、たな卸の増減は考慮しません。

 したがって、全部原価損益計算書の最終損益とは一致しませんが、経営者の感覚に即した損益計算ができます

(4)例題でその違いを確認する

 では、それぞれの違いを例題で確認してみましょう。

《例題》売上高    6000万円

    商品仕入高  1000万円  期首たな卸高100万円  期末たな卸高150万円

    ※商品仕入原価は、100+1000-150で、950万円となります。

    材料仕入高  1000万円  期首たな卸高100万円  期末たな卸高150万円

    ※材料仕入原価は、100+1000-150で、950万円となります。

    労務費    1000万円

    外注加工費   500万円

    その他製造経費 500万円  ※うち、変動費は電力費100万円とします。

    販管費    1500万円  ※うち、変動費は梱包費及び発送配達費の100万円とします。

 ①全部原価損益計算書の場合

  売上高   6000万円

  売上原価  3900万円 (950+950+1000+500+500) 売上原価率 65.0%

  売上総利益 2100万円                        売上総利益率35.0%

  販管費   1500万円                        販管費比率 25.0%

  営業利益   600万円                        営業利益率 10.0%

 ②変動損益計算書の場合

  売上高   6000万円

  変動費   2600万円 (950+950+500+100+100)  変動費比率 43.3%

  限界利益  3400万円                        限界利益率 56.7%

  固定費   2800万円 (1000+400+1400)        固定費比率 46.7%

  営業利益   600万円                        営業利益率 10.0%

 ③直接原価損益計算書の場合

  売上高   6000万円

  直接原価  2000万円 (1000+1000)            直接原価率 33.3%

  付加価値  4000万円                        付加価値率 66.7%

  固定費   3500万円 (1000+500+500+1500)    固定費率  58.3%

  営業利益   500万円                        営業利益率  8.3%

 それぞれによって、粗利益(売上総利益・限界利益・付加価値)がずいぶん違うことがわかります。

 また、直接原価損益計算書は、期間損益で計算しますので、意外と利益が少ないことがわかります。

 このことは、たな卸高が増えれば、実態はともかく、利益が出ることを表しており、通常の損益計算書は利益が出しやすい

 損益計算書とも言えます。

 

3 変動損益計算書・直接原価損益計算書の特徴

 大事なことはここからです。

 通常の損益計算書を変動損益計算書あるいは直接原価損益計算書でも管理すると次のように「経営に活かせる」ということです。

(1)損益分岐点売上高がわかる

 ①変動損益計算書による損益分岐点売上高 = 固定費÷{100-(変動費÷売上高)}

 つまり、限界利益率(=100-変動費比率)で固定費を割ると自社の損益分岐点売上高が算出できます。

 例題で言えば、 固定費2800÷限界利益率56.7%=4938万円 となります。

 しかし、これだと「変動費が何か?」という不明確な部分がありますので、

 もっとシンプルに考えられるのが、直接原価損益計算書による損益分岐点売上高です。

 ②直接原価損益計算書による損益分岐点売上高 =(費用ー直接原価)÷{100-(直接原価÷売上高)}

 例題で言えば、 固定費3500÷付加価値率66.7%=5247万円 となります。

 より明快に損益分岐点売上高が計算できます。

(2)損益分岐点比率がわかる

 ①変動損益計算書による損益分岐点比率 = 損益分岐点売上高÷売上高実績×100

 例題で言えば、 損益分岐点売上高4938÷売上高実績6000×100=82.3% となります。

 ②直接原価計算書による損益分岐点比率 = 損益分岐点売上高÷売上高実績×100

 例題で言えば、 損益分岐点売上高5247÷売上高実績6000×100=87.5% となります。

(3)経営安全率がわかる

 ①変動損益計算書による経営安全率 = 100%-損益分岐点比率

 例題で言えば、 100%-損益分岐点比率82.3%=17.3% となります。

 ②直接原価計算書による経営安全率 = 100%ー損益分岐点比率

 例題で言えば、 100%-損益分岐点比率87.5%=12.5% となります。

(4)労働分配率がわかる

 「労働分配率」とは、限界利益あるいは付加価値から人件費に何%分配したかということです。

  労働分配率 = 人件費総額 ÷ 限界利益又は付加価値 ×100

 いま、大企業では利益が増えているのに人件費は上がっていないことが問題になっていますが、まさにこの労働分配率が下がって

 いるということです。

 これからは大企業以上に中小企業においては、知恵を出して工夫する高付加価値経営が求められてきますので、

 労働分配率は大きな問題です。

 なお、労働分配率は、役員報酬を含む全体の労働分配率と従業員だけの労働分配率に分けて管理することが必要です。

(5)来期の必要売上高が予測できる

 最後の特徴は「来期の必要売上高」の予測計算できるということです。

  来期の必要売上高 =(必要固定費+目標利益)÷ 目標限界利益率又は目標付加価値率

 ①変動損益計算書の例題で言えば

  仮に、必要固定費3000万円、目標営業利益1000万円として目標限界利益率を58%とすれば

  来期の必要売上高=(3000+1000)÷58%=6896万円(896万円増)となります。

 ②直接原価計算書の例題で言えば

  仮に、必要固定費3800万円、目標営業利益1000万円として目標付加価値率を70%とすれば

  来期の必要売上高=(3800+1000)÷68%=7058万円(1058万円増)となります。

 

今回は少し難しかったですか?

しかし、こうやって損益計算書を見てみると、いろいろな課題や目標が見えてくるかと思います。

損益計算書を活かすうえでは今回の説明は大切なことですので、ぜひ、ご理解ください。

 

 

 このように損益計算書を月次試算表から読めるようになると、営業活動上の問題点が思い浮かんできます。

 それだ大切なことで、「あれっ?」と思ったことは確認し、対策を考え、そして実行してみることです。

 なかなかすぐには改善できないかとも思いますが、その改善試行を繰り返していくことが、あなたの会社を

 インプルーブ(良く)していきます。

 このように月次試算表を毎日の経営に活かすことが、黒字経営と強い会社つくりを可能にさせます。

 

 

現在はただ一生懸命、商売・仕事をしていれば、事業が継続できる時代ではありません。

それだけ世の中の変化は激しく、早くなっています。それが、高度成長後の現代、成熟社会だと思います。

ぜひ、いま一度経営というものを考え、創意工夫と実行でさらなる発展を目指しましょう。

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インプルーブ研究所は、ITウェブサイトとマーケティングおよび経営会計で貴社の発展に尽力します。

ぜひ、一度お話いたしませんか? お問い合わせはお気軽に コチラ から

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