42.ここだけ見ればよいC/S

2010年3月19日

財務分析解説コラム(26)
ホントに役立つ「会計資料のどこを見る」-資金繰り実績表-

今回は会計資料の読み方「会計資料のどこを見る」の第3回目、資金繰り実績表です。

1.資金管理はいま大変大事
会社の状況は各社において違います。しかし国税庁の発表によれば、いまや会社の赤字割合は70%を超えています。また企業の倒産件数も、昨年は秋から減少傾向になったので、21年度は20年度と比べ最終的には少し減りましたが、とは言えども高い件数であることには違いありません。これに廃業件数を加えればもっと高い件数となり、日本の企業件数は日本の人口と同様、減少の一途を辿っています。これらのすべてに多くの割合を占めているのが中小・零細企業です。少しセンセーショナル的に表現すれば、中小・零細企業においてはそのほとんどが赤字企業となり、それに耐え切れず廃業・倒産が増え、その絶対件数が減っていると言えます。
なぜ会社は倒産するのかと言えば、赤字だから倒産するのではありません。すべて資金的に行き詰まり倒産するのです。10数年まであればこう言われていました。特殊なことがない限り、それほど資金管理をする必要はないと。なぜならこれまで会社が続いてきたからです。だから売上推移の管理と売掛金の回収管理さえしっかりすれば、資金管理は必要ないと。特殊なこととは次期事業年度に大きな設備投資をするとか、出店するとか、工場を建てるとか、土地を購入するとか、人を大量に採用することなどを言います。だからひと昔前は、そういう特殊な一部の会社においては、資金管理が重要であったわけです。
しかし状況は一変しました。いまは普通の会社において資金管理はすべて重要で、いまの環境の中でもどんどん業績を伸ばし健全な発展をしている特殊な一部の会社だけが、資金管理はあまり重要ではないと180度逆転してしまいました。
これはそれほど経営環境が激しく変化し、売上高が2割・3割下がるのは当たり前、ひどければ5割も下がってしまう時代なのです。一昨年のリーマンショックという特殊性を感じておられるかもわかりませんが、そこまでドラスチックな現象として表出するかどうかは別ですが、そのようなマグマが経営環境の下にドクドクと流れていると理解すべきです。いわゆる新しい時代を迎えているということです。従ってそれに備えた防衛をしなくてはなりません。それが資金管理なのです。

2.資金繰り実績表のどこを見る
資金繰り実績表を作成されていない会社もたくさんあると思いますので、資金繰り実績表がある・ないに関わらず、チェックポイントを3点紹介します。
チェックポイント1:手元流動性を確認する
手元流動性とは、走っていけばすぐに資金化(現金化)できる資産という意味です。何がありますか?まず現金ですね。次に普通預金それに定期預金や積立預金などですかね。手持の株式もすぐ売却できるならば手元流動性に入れても結構です。書籍の解説ではここまでですが、実務的にはすぐ処分してもいい在庫や資産があるならば、その予想売却額を手元流動性に入れても構わないと思います。要は、万一のとき、用意できる資金はどのくらいあるのかというのが手元流動性です。
次にその金額の適性度も判断しなければなりません。手元流動性は十分なのか、不十分なのか。その尺度として平均月商を用います。月商によって運転資金の多寡が決まるからです。中小企業の平均は1.7ヶ月分ぐらいといわれていますが、最低1ヶ月分、できれば2か月分ぐらいは欲しいところです。年商6千万円の会社であれば500万円から1,000万円程度です。
チェックポイント2:売掛金を確認する
売上は資金の源(みなもと)であることには間違いないですが、しかし債権ではありません。請求書を発行して初めて債権となります。従って、資金から見れば受取手形や売掛金が直接的な源泉となります。だから売掛金を確認することは大切です。確認とは売掛金がいくらあるかではなく、その1件1件の中身です。つまり、約束とおり売掛金が回収されているかどうかです。売掛金は膨大にあるけれど、古い売掛金ばかりであったなら、それは不良債権といいます。
チェックポイント3:売上高の推移を確認する
資金の母なる大海は売上高です。売上高をあげることがやがて資金となって現れてきます。従って売上債権の前の状態、売上高の推移を確認することが大事です。しかし実務で大事なことは表面上の売上高推移を確認することではなく、セグメント情報です。例えば取引先別に異常はないか、商品別に異常はないかなど、売上高の中身を見ることです。ここでアドバイスをひとつ。同じことを続けているだけなら、必ず売上高は下がっていきます。こう指摘すれば、皆さんも「そりゃそうだ」と同意いただけるかと思います。しかし現実にはそうしている会社が多いのです。いつまでもこれまで売れていた商品や製品あるいはサービスだけしか続けない。だから換言すれば、変革さえすれば(このことを創造的破壊、イノベーションと言います)、売上高回復のチャンスは大いにあります。如何にイノベーションが大切か、うなずけますよね。

3.資金管理のPDCAマネジメント
販売活動として「PDCA」が重要だとよく言われます。資金管理も同様に、PDCAマネジメントがたいへん重要です。そこで、資金管理におけるPDCAマネジメントを紹介します。
(1)Pプラン  資金計画をつくる
自社の資金状況が問題なのか、そうでないのか、判断するには基準が必要です。判断基準にはいろいろありますが、一番自社にフィットした資金過不足の判断基準は、事業年度に入る前に策定する「資金計画」です。策定にあたっては現状の問題点などを検討し、それを少しでも改善する方向で計画を作るわけです。例えれば今年の我が社号の航路です。いろいろ経営環境はあるが、今年はこのようにやり繰りし、こういう経過を辿って最終ゴールを目指すと表したものが「資金計画」です。そして実際に船出するといろいろな環境に出くわし、思いとおりに進まないながらも、最終ゴールを目指して舵取りをするわけですね。ここに重要なフレーズがあります。それは「舵取り」です。最終ゴールを決めているいるから「舵取り」ができるわけです。計画がなければ、目指す方向はないので、ただ流されるだけです。
(2)Dドゥー  資金繰り実績表をつくる
実績表とは航路の足跡ともいえます。これによって計画と実績航路の比較が可能となり最終目標へ向かうに当たり、問題点などが発見できることになります。なお実績表は、通常は「月次」で作成しますが、非常時では「日次」で作成することが重要です。
(3)Cチェック 資金計画と比較する
計画と実績航路を比べて、どうやって計画航路へ戻すか考えることがチェックです。いわゆる管理であり、マネジメントです。これこそが社長の役目です。ずれている状況がハッキリ掴めていますので、しっかりしたリカバリーを講じることができます。
(4)Aアクション資金対策を講じる
対策は考えただけでは効力を発揮しません。計画通りに資金を回すためには、その対策を実行することが重要です。実際の資金対策は「財務等収入」に表現されます。

4.資金対策のポイント
最後に資金対策のポイントにまとめましょう。
(1)売掛金回収の4段構え
売掛金回収の第1歩は「期日に入金なければ直ちに連絡する」ということです。それは催促することではなく、お客様に対するひとつのサービスだと考えるべきです。それには次の4段構えでサービスを行います。
①期日に入金なければ、電話確認をさせていただく。
②延期後にも入金がなければ、督促状をお送りさせていただく。
③それでも入金がなければ、担当者が訪問させていただく。
④最後にはトップ自らが訪問します。
(2)資金チェックの4段構え
どこを見るでは、手元流動性だけを説明しましたが、ここでは資金チェックの4段構えとして4つの方法をご紹介します。
①手元流動性比率をチェックする。
②月商対借入金比率をチェックする。
③短期借入金を長期借入金に借換えできるように、金融機関と交渉する。
④過剰在庫、遊休資産などは一掃する。

時代の潮目、新しい時代を迎えようとしていると何度か申しあげてきましたが、別な言い方をすれば継続企業(going concern)とよく言いますが、生命にも限りがあるように経営環境のことを除いても、そもそも
企業を永続させること自体が大変なことなんだと思います。その上に現代はグローバル化やフラット化、国内においては少子高齢化、成熟社会化などさまざまな因子がこれまでにないスピードで世の中を変革させていっています。
大変厳しい経営環境であることは間違いないことですが、しかし大チャンスのときでもあります。つまり環境・ルールが変わるのですから、どの会社も再スタートラインに立っているということです。チャンスだからといってすぐに自社のおかれている状況は変わるものではありませんが『強い意志』を持って努力することがいま大切なのだと思います。会計資料はその羅針盤になります。決して決算・申告、税務署や銀行のためにあるのではありません。自社のためにあるのです。それを読みこなすことによって、自社診断と未来判断ができ、さまざまな『KAIZEN』の方策を提示してくれます。中小企業も大企業と同様の『経営心』を持って経営に当たることが重要だと思います。ぜひ、自社にちょっとした『チェンジ』というスパイスをふりかけましょう。
次回もお楽しみに・・