26.運転資金力①必要運転資金 

2009年11月23日

財務分析解説コラム(10) 自社の運転資金を検証する -必要運転資金-
11月20日未明、中小企業等金融円滑化法案(通称:モラトリアム法案)が衆議院本会議において強行採決され、参議院本会議に送付されました。法案の詳細はまだよく分かりませんが、我々中小企業にとっては大変興味ある法案です。そのことはともかく、いま資金繰りで苦しんでおられる経営者は大変多いかと思います。そこで今回は、自社の資金繰りをやり繰りするために「自社の運転資金を検証する」と題して、通常業務で必要な資金について説明します。

運転資金とは
『運転資金』とは、商品仕入や給料・経費などの支払い、買掛金や支払手形の決済など通常の業務で必要となる資金のことを言います。例えば、社員の給料、水道光熱費、通信費、交通費、事務用費などは毎月支払わないといけません。仕入代金は翌月支払などですが、毎月仕入する以上、結局、毎月支払わなくてはなりません。他方、その対価は現金・預金になりますが、その源泉は売上高です。しかし売上高は現金販売を除き、得意先には掛売りで販売しますので、その回収は翌月末あるいは翌々月末となります。
そのリードタイムを埋めるのが『運転資金』というわけです。

必要運転資金の計算
では、運転資金はどのくらい必要なのでしょうか。その必要な運転資金額のことを『必要運転資金』と言います。それは次の計算式で求めます。
計算式:必要運転資金=売上債権(売掛金+受取手形)+棚卸資産
-買入債務(買掛金+支払手形)
つまり、売上債権回収までの資産と、買入債務支払までの負債との差額が『必要運転資金』となります。仮に、買入債務の方が大きいと、それは『余裕運転資金』となります。「あれ?これだと給料や経費が入っていない・・」と思われるかも知れませんが、これらの中にしっかりと入っています。給料や経費は売上高の回収資金で支払われるものですから、売上債権・棚卸資産の中に入っています。従って、運転資金が楽と言えるビジネスモデルは、商品等は掛けで仕入れ、販売は現金で回収するという事業です。例えば、食品・飲食関係やクリーニング取次店などを始めとする小売業は、全般的にそうだと言えます(但し、運転資金面についてだけですが)。

必要運転資金の見方と活かし方
(1)必要運転資金の見方
『必要運転資金』の見方として大切なことは、「(条件が変わらずに)売上が増えると『必要運転資金』が増加する」ということです。一見すると、売上高が増えると資金繰りが楽になるように思いますが、売上が増えると売上債権、棚卸資産、買入債務それぞれ金額が大きくなり、利益率や取引条件が変わらなければ、その差額である『必要運転資金』の金額も大きくなります。事業が成功し、売上が増え始める時期においては、短期借入金を手当するなどして資金準備をしないと黒字倒産の恐れがあるということです。また、賞与支給月は、通常月よりも人件費が増加しますので、同じく資金準備をしないと資金が回らないという恐れがあるということです。
(2)必要運転資金の活かし方
売上高が大幅に増えている時に『必要運転資金』を活用し、必要資金額を予測する方法があります。それは『運転資金の調達率』を計算するという方法です。『必要運転資金』を年間売上高で割ると、売上高に対する割合が計算できます。これを『運転資金の調達率』と呼びます。
計算式:運転資金の調達率=必要運転資金÷年間売上高
*年間売上高=売上高÷経過日数×365日
例えば『運転資金の調達率』が16.0%の会社であれば、その会社は売上高が1,000万円増えると『必要運転資金』が160万円増えるということになります。

必要運転資金を改善するには
では、『必要運転資金』を改善するにはどうすれば良いのでしょうか。計算式から考えれば、売上債権を減らすか、棚卸資産を減らすか、あるいは買入債務を増やすかということになります。
(1)売上債権を減らして必要運転資金を改善する
①受取手形で回収している場合は「受取手形の取り扱いを止める」ことです。「そう簡単にできないよ」とおっしゃるかも分かりませんが、こういうことは得意先の了承を得てからと考えていては実行できません。何よりもまず先に、停止のお願い文を発信することが重要です。それから個別の問題解決を図るために、得意先とよく話し合いをされ、落としどころを見出すということです。
②売掛金の回収を早める。これも早める前に、今、約定通りに回収していますか。恐らく出来ていない得意先が何件かあると思います。売掛金回収を早める前に、場合によってトップ自らが出向き、誠心誠意、未回収の得意先にお願いすることが大事です。
(2)棚卸資産を減らす
在庫の現状をいま一度確認して、仕入数量などを見直すことが重要です。仕入単価を下げるためには、大量仕入も必要ですが、他方、運転資金を減らすには、こまめに仕入をするように方針転換することが重要です。
(3)買入債務を増やす
これは仕入を増やすということではなく支払期限を延ばす、あるいは仕入単価を下げるということです。しかし、これについてもその前に、約定通りに支払うように改善することが大事です。意外と、ルーズに支払っていることもあろうかと思います。

いま中小企業は大変な時代に突入しています。小売業はピーク時の1982年の172万店から2007年には113万店と、実に25年間で34%も減っているそうです。これでは、シャッター通りと言われる商店街も増えるはずです。しかし一方、賑わいを取り戻している商店街もあります。そのような商店街は顧客視点からマーケティングをやり直し、地域状況に即した「変革」を実行しています。いずれにせよ、時代は大きく変わったということであり、「これまでと同じことをやっていてはダメだ」ということです。その場その場凌ぎの対処療法ではなく、地味ですが「会計資料」という企業診断書を読み、自社の症状を自覚し、その処方箋を明確にして実行することが根本的な治療となります。いままでは確かに「会計資料」が少々読めなくとも、市場が大きくなって行きましたから、困ることにはなりませんでした。しかし、いまは収縮の時代です。「会計資料が読めない」と経営の危機がそこに迫っているのに気づくこともできず、表面化したときには「倒産」という憂き目に会うことになります。時代は違っているのです。自社にちょっとした「チェンジ」というスパイスをふりかけましょう。

では、次回もお楽しみに・・