713.簿記の仕組み⑫ 特殊な仕訳 リース
2025年6月29日
会計には経営をリスクから守る仕組みがあり、そのリスクから経営を守る仕組みを「リスクヘッジ」という。
そもそもリスクヘッジとは、これから起こるかもしれないリスクを予測し、そのリスクに対応できる体制を取ることをいう。
会計には、次のようなリスクヘッジの仕組みがある。
1.資金の調達と資金の運用の側面から企業の財政状況を貸借対照表として明らかにし、財政面からリスクを避ける仕組み
2.資金の源泉と資金の使途の側面から事業の損益状況を損益計算書として明らかにし、営業面からリスクを避ける仕組み
3.損益計算書の当期利益を貸借対照表の繰越利益剰余金に組み込み、資金面からリスクを避ける仕組み
4.引当や減価償却、月次棚卸などの仕訳によって、予めリスクに備えて健全な経営が継続できるようにする仕組み
これらの仕組みによって、会計は企業を健全な経営へ導くようになっている。
これまで『貸倒引当金』『月次棚卸』『減価償却』を紹介してきたが、今回は『リース会計』によるリスクヘッジを紹介する。
(4)リース会計とは
リースを直訳すると「賃貸借」となるが、経営では「リース会社が企業に対して機械や設備を長期間賃貸する」という意味で
使われている。
たとえば、機械や設備などをリースするときには、まず対象物件を決め、そしてその販売企業の提携リース会社を通じて、
リースを組み、その後、販売会社からその物件が納入されるという流れとなる。
リースは物件が納入されたあとスタートし、毎月のリース料が発生する。
ただし、リース物件の所有権はリース会社にあるので、リース会社がリース物件に保険をかけ、リース物件の所在市区町村に
固定資産税なども納める。
これがリースの仕組みだが、では会計処理はどうすればよいのであろうか?
①リース物件の会計処理
一番多く中小企業で採用されているリースの会計処理は、P/Lの「リース料」という科目を使い、次のように行われている。
【P/L費用科目】リース料 120,000 / 【B/S資産科目】現金または預金 120,000
これで一見、問題ないように思われる。確かに、多くの場合はそれでよいと思われる。
しかし、製造業などで何百万・何千万もする高額な機械設備などをリースする場合、それだけでは経営管理上、少々問題がある。
というのは上記の会計処理だけでは、生産性や資金使途に大きな影響を与えるリース物件が、その分析に反映されないことだ。
『借方リース料・貸方現預金』では、リース物件の生産性や資金使途分析ができない!
したがって、その問題を解決するためには、これから説明する管理会計的な会計処理を行う必要があるが、
その前にもう少しリースについて詳しく見てみよう。
②リースの種類
一口に「リース」と言っても、その契約内容によってさまざまなリース契約がある。
1.所有権移転ファイナンス・リース
一つは、リース終了後、対象物件の所有権がリース契約者に移転する「所有権移転ファイナンス・リース」と呼ばれるものだ。
このリースは、リース会社からおカネを借りて機械を購入し、その機械を使いながら、借りたおカネに金利を加えて返済し、
それが完了すれば、その機械の所有権がリース契約者に移転するという契約だ。
名称に「リース」という名がついているが、内容的にはおカネを借りて購入している場合と、ほとんど変わらない。
ただ、中途解約はできず、その期間中に機械が故障すれば、その修理代もリース契約者が負担し、リース期間が満了になれば、
その物件はリース契約者の所有となる。
結局、金融機関から融資を受けて機械設備を購入することと全く同じで、違いは借り先が金融機関ではなく、ノンバンク系
企業だという点だけだ。
2.所有権移転外ファイナンス・リース
二つめは、リース契約が満了しても、対象物件の所有権が移転しない「所有権移転外ファイナンス・リース」だ。
「所有権」移転 ”外” 、つまり所有権は移転しないというところが、前例との違いだ。
したがって、この契約は「所有権移転ファイナンス・リース」とほとんど同じだが、リース期間満了後の取扱いだけが違う。
つまり、リース期間が満了しても、物件はリース契約者のものにはならない。
よって、リース満了後も使い続けたい場合は、再リースするのか、あるいは買い取るのか、どちらかの選択になる。
日本のリース契約は、ほとんどがこの「所有権移転外ファイナンス・リース」である。
3.オペレーティング・リース
三つめは、リース会社から対象物件をただ借りるだけの契約となる「オペレーティング・リース」だ。
このリーズ契約は、リース会社から物件を借りているだけの契約だ。
借りているだけなので、故障した場合にはリース会社が修理代を負担し、契約者が機械を保有している実態もなければ、
おカネを借りている実態もない。
リース期間が終了すれば、借りている物件は返却するので、長期レンタルのような契約だ。
リース契約には所有権移転・所有権移転外・オペレーティングの3形態があり
会計はこの形態に即した処理をしないと、本当の自社の財務状態・生産性が把握できない!
③リースの仕訳
では、管理会計的な会計処理の話に戻る。
1.所有権移転または所有権移転外ファイナンス・リースの場合
事例として、キャッシュで購入した場合の価格が500万円、リースしたときの支払総額が600万円(12万円×50回)とする。
《取得したとき》
【B/S資産科目】リース資産 5,000,000 / 【B/S負債科目】リース債務 5,000,000
リース債務という他人資本を調達し、リース資産を運用する形になる。
ただし、リース資産は購入した時と同じ価格で計上し、リース債務はリース総額ではないことに注意が必要だ。
この仕訳で、リースで設備投資をしたことが、月次試算表や決算書に反映されることになる。
《リース料を支払ったとき》
【B/S負債科目】リース債務 100,000 / 【B/S資産科目】現金または預金 120,000
【P/L費用科目】支払利息 20,000
【p/L費用科目】減価償却費 100,000 / 【B/S資産科目】減価償却累計額 100,000
まず、リース料12万円の内、元金部分10万円がリース債務の減少になり、利息部分2万円は支払利息となる。
同時に、減価償却費を元金部分で毎月計上し、相手科目は減価償却累計額となる。
この仕訳で、負債であるリーズ債務が減少し、月々の費用として減価償却費が計上され、さらに固定資産であるリース資産の
減少額として固定資産累計額が計上されることになる。
《決算のとき》
【B/S資産科目】減価償却累計額1,200,000 / 【P/L費用科目】減価償却費1,200,000
【P/L費用科目】減価償却費 1,200,000 / 【B/S資産科目】リース資産1,200,000
まず、一旦、概算の減価償却費を減価償却累計額を相手に洗い替えして、リセットする。
次に、購入した場合と同じ方法で、正式な年間減価償却費を計算し、再度、減価償却費を計上するとともに、リース資産を
減算させる。
この仕訳で正式な減価償却費が計上されるとともに、リース資産もその分減算されることになる。
2.オペレーティング・リースの場合
事例として、キャッシュで購入した場合の価格が500万円、リースしたときの支払総額は750万円(15万円×50回)とする。
《取得したとき》
仕訳ナシ
資産の取得も借入もないので、仕訳する必要はない。
《リース料を支払ったとき》
【P/L費用科目】リース料 150,000 / 【B/S資産科目】現金または預金 150,000
単に15万円で「借りている」だけなので、リース料に対して、元金部分も利息部分もない。
また、自社の資産でもないので、減価償却費も発生しない。
《決算のとき》
仕訳は必要ない。
このように実態に即した会計処理をすれば
作成される毎月の試算表にも本当の会社の財政状況が現れる!
このように、会計の理解が深まれば、それだけ経営技術を向上させられることになる。
つまり、会計のルールには健全な経営をしていくための意味が隠されているのだ。
だから経営者自身が会計に対する造詣を深めることが大切だ。
科目の読み方や意味がわかれば、健全な経営への道筋が見えてくるようになる。
もうや、「どんぶり勘定」や「勘に頼る経営」は、はるか彼方のものだ。
これからは「管理会計」と会計を読む力「会計リテラシー」が問われる。
会計はわかれば、楽しい!