714.簿記の仕組み⑬ 注意すべき科目

2025年7月4日

 仕訳によって「月次試算表」は作成され、その月次試算表は「決算書」につながる。

さらにその決算書は、「法人税申告書」に結びつき、それによって企業は法人税等を納付している。

この流れの中で、「損金不算入」「益金不算入」と言われるものがある。

そもそも、会計上の「収入・費用」と税務上の収入・費用である「益金・損金」の概念が違うことから、このようなことが起こる。

 

 「損金不算入」とは、会計上は費用となるが、税務申告上は損金にならない取引のことをいう。

したがって、損金不算入の分だけ「課税所得」が増えることになり、納める法人税等も増える。

 

 一方、「益金不算入」とは、会計上は収入になるが、税務申告上は益金にならない取引のことをいう。

したがって、益金不算入の分だげ「課税所得」が少なくなり、納める法人税等は減ることになる。

 

今回は、そんな税務申告上、注意すべき科目ついて紹介しよう。

 

 

4 注意すべき科目

(1)『損金不算入』になる科目・取引

 専門書を見れば、損金不算入になる科目・取引として、次の6項目が紹介されている。

 1.役員報酬 2.交際費 3.寄附金 4.経営者取引 5.減価償却超過額 6.租税公課

これらの中で、普通の中小企業を想定して結論から言えば、注意すべき項目は『租税公課』だけである。

あとは会計を難しく思わせる、まやかしのようなもの(?)である。

普通の中小企業が『損金不算入』として注意すべき科目は『租税公課』!

 しかし、一つ一つを見てみよう。

 

 1.役員報酬

 取締役以上の役員報酬は、なんと、基本的に『損金不算入』である。 つまり、費用にならないという。

 「ええ!」と思われる方が多いかもわからないが、しかし落ち着いて結論を見れば、一部の人の役員報酬だけである。

 ほとんどの普通の役員報酬は『損金』となる。

 なのに、基本的に損金不算入と説明されている理由は、

 「多くの利益が出たなら自分の報酬を増やして、支払う税金を減らす」と考える経営者が出てくることを未然に防ぐためである。

 そのため、以下の普通の役員報酬については「損金算入」しても良いことになっている。

 《損金算入が可能な役員報酬》

  ・定期同額給与   いわゆる月給である。事業年度内に1カ月内に定期的に同額が支払われる役員報酬。

  ・事前確定届出給与 いわゆる役員賞与である。但し、厳密にいうと、事前に税務署に支給金額・支給時期などを

            「事前確定届出給与」として申請する必要がある。

  ・業績連動給与   利益や株価など客観的な指標に連動して支給される報酬。

  ※つまり、利益が多かったから費用として増やそうと、恣意的に操作できないようになっているということだ。

   なお、上記に当てはまった役員報酬であったとしても、社会通念上、高すぎる役員報酬は損金不算入として認められない。

常識的な役員報酬・賞与であれば、結局『損金算入』できる!

 

 2.交際費

 交際費も「損金不算入」と、記憶されている方が多いと思う。

 テレビ番組なんかでも、交際費が税務調査の事例として取り上げられていることが多く、またある意味、身近な科目なので

 そう思われている。

 しかい、交際費は原則「損金不算入」だが、中小企業に関しては「ほぼ全額損金算入」だ。

  ・一人当り1万円以下の飲食費は全額、損金算入となる。

  ・一人当り1万円を超える飲食費は50%が損金算入又は年間800万円までが損金算入となる。

  ・飲食費以外は 年間800万円まで損金算入、超えた分は損金不算入となる。

 なお、会議に使用する茶菓子や一人当り5千円以内であれば、「会議費」として全額、損金算入となる。

 一方、社内の一部の人が飲み会などに使った交際費は全額、損金不算入だ。

交際費は年間800万円までは、結局『損金算入』!

 

 3.寄付金

 寄付金も利益操作によって、支払う税金を減らせる可能性があるので、損金算入できる額に上限がある。

 寄付金損金算入上限額の計算式は「資本金の額×1/400 + 所得の金額×1/40」だ。

 つまり、資本金300万円で、課税所得が100万円であれば、「7,500円+25,000円」までとなる。

 ただし、国・地方公共団体への寄付金は、全額、損金算入できることになっている。

 なお、交際費と寄付金の区別は、相手先が、交際費は取引先であるのに対し、寄付金は取引とは直接関係のないところになる

 というのが原則的な区別の方法だ。

寄付金は「資本金×0.25% + 所得金額×2.5%」まで『損金算入』となる!

 

 4.同族会社と経営者の取引

 社長親族が経営している会社への支払を大きくして、損金を多くすることを防ぐために、同族会社と経営者の取引は

 『損金不算入』となっている。

 例えば、社長の土地を会社が相場よりも不当に高い値段で借りて、「賃借料」として損金処理をしようとする場合などだ。

 これは「同族会社の行為計算否認」と呼ばれるが、心ある経営者ならこんなことはしない。

不当に高い経営者物件の賃借料以外は『損金算入』できる!

 

 5.減価償却超過額

 償却限度額を超えた減価償却費は『損金不算入』になる。

 例えば、機械を1000万円で購入し、5年で定額償却したとすると、年間200万円が費用になる。

 しかし税務上の耐用年数が10年だとすれば、1年間に償却できる上限額は100万円となり、100万円は損金不算入になる。

 したがって、固定資産の耐用年数を「国税庁の耐用年数表」から調べることが重要だ。

耐用年数に基づく償却限度額を超えた減価償却費以外は『損金算入』できる!

 

ここまで、役員報酬も交際費も寄附金も経営者取引も減価償却も、常識的な対応さえしていれば、結論すべて『損金算入』できる。

しかし、次の『租税公課』は注意しなければならない。

 

 6.租税公課

 次の租税公課は損金に算入できない。

法人税、地方法人税、延滞税、罰金等、所得税、復興特別所得税は『損金不算入』!

 法人税   企業の所得に対する国税である。

 法人住民税 地方自治体に支払う税金である。

 延滞税   税金の納付が遅れたために課税される延滞金である。

 加算税   申告漏れや過少申告などに対するペナルティとして課税される税金である。

 過怠税   法律違反(交通違反など)に対する罰金や科料である。

 法人税や地方法人税などは、益金から損金を控除した「課税所得」に、税率をかけて算出されているので、損金算入はできない。

 その他は罰金なので、当然のことながら、損金算入はできない。

 したがって、租税公課は内訳管理を行って損金不算入になるものと損金算入できるものを管理しておくことが大事だ。

租税公課は『損金不算入』と『損金算入』に分けて管理することが必要だ!

 

 なお、以下のような租税公課は『損金算入』できる。

 ・酒税、事業税、事業所税、不動産取得税、固定資産税、自動車税、印紙税、償却資産税、ゴルフ場利用税など

 法人事業税  企業が地方自治体に支払う事業税である。

 事業所税   事業活動を行う事業所に対する税金である。

 固定資産税  事業用の土地や建物にかかる税金である。

 自動車税   事業用自動車に対する税金である。

 印紙税    契約書や領収書などに貼る印紙にかかる税金である。

 償却資産税  事業用の償却資産にかかる税金である。

 

 

(2)『益金不算入』になる科目・取引

 『益金不算入』とは、会計上は収入として計上しているが、税務では益金として計上しないもののことをいう。

 益金不算入となった分だけ、課税所得が減るので、その期の法人税が減少することとなる。

 

 1.益金とはならないもの

 ・株式の配当金などの「受取配当金」 ※但し、適用する場合は「受取配当金等の益金不算入に関する明細書」が必要となる。

 ・所得税や法人税などの税金の「還付金」  

 ・保有する資産の評価益

 

 

 

このように、会計の理解が深まれば、それだけ経営技術を向上させられることになる。

つまり、会計のルールには健全な経営をしていくための意味が隠されているのだ。

だから経営者自身が会計に対する造詣を深めることが大切だ。

科目の読み方や意味がわかれば、健全な経営への道筋が見えてくるようになる。

もうや、「どんぶり勘定」や「勘に頼る経営」は、はるか彼方のものだ。

これからは「管理会計」と会計を読む力「会計リテラシー」が問われる。

会計はわかれば、楽しい!