712.簿記の仕組み⑪ 特殊な仕訳 減価償却

2025年6月20日

 会計には経営をリスクから守る仕組みがあり、そのリスクから経営を守る仕組みを「リスクヘッジ」という。

そもそもリスクヘッジとは、これから起こるかもしれない危険を予測し、その危険な状況に対応できる体制を取ることをいう。

会計には次のようなリスクヘッジの仕組みがある。

 

 1.資金の調達と資金の運用の面から企業の財政状況を貸借対照表として明らかにして、財政面からリスクを避ける仕組み

 2.資金の源泉と資金の使途の面から事業の損益状況を損益計算書として明らかにして、営業面からリスクを避ける仕組み

 3.損益計算書の当期利益を貸借対照表の繰越利益剰余金に組み込み、B/SとP/Lを結び付けて、資金面からリスクを

   避ける仕組み

 4.引当金や減価償却、月次棚卸などの仕訳によって予めリスクに備えておき、健全な経営が継続できるようにする仕組み

 

これらの仕組みによって、会計は企業を健全な経営へ導くようになっている。

これまで『貸倒引当金』と『月次棚卸』を紹介したが、今回は『減価償却』によるリスクヘッジを紹介する。

 

 

(3)減価償却とは

 減価償却とは、購入した設備の費用を、購入した年度だけの費用としないで、購入設備の使用期間における費用と考え、

より正確な期間損益を見るために「当期収益に対応する費用」を計上するルールのことだ。

したがって、その使用期間中は『減価償却費』として計上し、当期収益に対応する費用として計上する。

 

 

①減価償却費の仕訳

 減価償却費の仕訳の仕方には、2つの方法がある。それが『直接法』と『間接法』だ。

 1.直接法による減価償却費の仕訳

 【決算時】 借方:減価償却費 / 貸方:固定資産の対象科目

 これは、決算のときに、該当する固定資産の減価償却費を計上する方法だ。

 この仕訳で、B/Sの該当する固定資産は減額され、その減額分がP/Lの減価償却費に計上される。

 

 しかしこの方法には、2つの問題点がある。

 1)固定資産の取得価額がわからなくなってしまう

 直接法は、減価償却費を該当する固定資産から直接減額するので、固定資産の取得価額がわからなくなってしまう。

 したがって、減価償却累計額を決算のときに、「注記」に掲載しなくてならない。

 2)より正確な月次の損益が把握できない

 直接法による減価償却費の計上では、決算のときに一括して1年分の減価償却費を計上するので、月次では減価償却費を考慮した

 正確な月次の損益は把握できない。

 

 そこであるのが、『間接法』による減価償却費の計上だ。

 

 2.間接法による減価償却費の仕訳

 【月 次】 借方:減価償却費 / 貸方:減価償却累計額

 間接法では、毎月、概算の減価償却費を、P/Lの減価償却費とB/Sの減価償却累計額に計上する。

 この仕訳で、月次の損益も減価償却費を含めた損益が把握できるようになると同時に、B/Sの減価償却累計額にも計上される

 ので、個別の固定資産は取得価額がわかり、かつ固定資産合計は減価償却費分を減額した残高になる。

 

 【決算時】 借方:減価償却累計額 / 貸方:減価償却費

 決算を迎えると、一旦、これまで概算計上した減価償却費と減価償却累計額をゼロクリアする。

 そして、あたらめて正確な減価償却費をP/Lに計上し、同じく減価償却累計額にも計上する。

     借方:減価償却費 / 貸方:減価償却累計額

 これで固定資産の各科目は常に取得価格が表示されることとなり、同時に今まで計上してきた減価償却費の累計額も

 減価償累計額を見ればわかるようになる。

 

 このように見ると、管理会計的には『間接法』の方が優れていることがわかる。

 また、減価償却累計額は少なくとも各固定資産科目ごとに内訳管理すべきことはあらためて言うまでない。

減価償却費の計上は管理会計としては『間接法』を採用すべき!

 

 

②減価償却費の重要なもう一つの意味

 減価償却費とは取得した設備購入費を、使用期間の「当期収益に対応する費用」として計上することだが、

 この費用計上は、観点を変えれば「当該固定資産の消耗度合いを表している」とも理解できる。

固定資産の耐用年数に近づくとは、入替時期が近づいていることを示している!

 

 つまり、耐用年数期間が近づくに連れ、その固定資産の入替時期が迫って来ていることを示しているわけだが、

 この減価償却費は、利益計算からは減額されていても、キャッシュアウトを伴っていないところに大きな特徴がある。

減価償却費は費用ではあるが、現預金支出を伴っていない!

 

 したがって、減価償却費分のキャッシュは、固定資産入替時期に備えて積み立てしておくべきおカネであることに気づける。

 

 その意味で、減価償却費相当分を、預金科目を口座別に管理にして、毎月、預金からその口座へ振替えるという会計処理を行い

 手元資金として減価償却費分を持っておくように励行したいものだ。

 そうすれば、次回の固定資産購入時には銀行借入に頼らず、自己資金だけで購入することが可能となり、『固定比率』や『固定

 長期適合率』などを改善できるようになる。

減価償却費分のキャッシュは次回の購入資金として『手元資金』で持つことが大事!

 

 

 

このように、会計の理解が深まれば、それだけ経営技術を向上させられることになる。

つまり、会計のルールには健全な経営をしていくための意味が隠されているのだ。

だから経営者自身が会計に対する造詣を深めることが大切だ。

科目の読み方や意味がわかれば、健全な経営への道筋が見えてくるようになる。

もうや、「どんぶり勘定」や「勘に頼る経営」は、はるか彼方のものだ。

これからは「管理会計」と会計を読む力「会計リテラシー」が問われる。

会計はわかれば、楽しい!