764.インボイス制度が再改正
2026年7月25日
令和5年(2023年)10月にインボイス制度が導入されてから、約3年が経過しようとしています。
忘れている方も多いかもしれませんが、当初、インボイス導入にあたっては、スムーズな制度移行と税負担の急激な増加への対応が
課題とされていましたので、インボイス開始から数年間は納税者の負担を緩和する「特例」がいくつか設けられました。
この特例のことを『経過措置』と言っています。
この経過措置は、今年の令和8年2026年9月30日で縮小・廃止が予定されていましたが、令和8年度の税制改正によって、
内容を見直したうえで延長されることが決定しています。
1 免税事業者等からの仕入れに係る経過措置(8割控除)の改正
(1)経過措置が設けられた背景
1.消費税とは、事業者が物品等を売った時に受取った消費税額から、仕入した時に支払った消費税額を控除し、
その残額を国に納付する仕組みです。
この、仕入したときに支払った消費税額を控除することを『仕入税額控除』といいます。
2.インボイス開始前は、免税事業者(注1)からの仕入れであっても、全額を「仕入税額控除」の対象にできました。
3.しかしインボイス開始後は、免税事業者からの仕入れに関しては原則として仕入税額控除ができなくなっていますので、
インボイス制度の導入に伴い、免税事業者が取引先から排除される動きが懸念されていました。
4.そこでこれに対処するため、インボイス開始後3年間に限って、免税事業者からの仕入であっても、消費税に相当する額の
80%の仕入税額控除は認めるという『8割控除』と呼ばれる「経過措置」が設けられました(注2)。
注1:免税事業者の典型としては、前々期の課税売上高が1000万円以下の小規模な法人や個人事業主などが該当します。
注2:これは免税事業者がインボイス開始後の期間を使った価格交渉やインボイス発行事業者としての登録検討ができるように
することが目的とされています。
(2)改正の概要
1.もともとは、仕入税額控除が認められる80%という割合は、今年令和8年(2026年)10月1日以降から50%に
引き下げ、令和11年(2029年)10月1日以降は仕入税額控除ができなくなる予定でした。
2.しかし令和8年度の税制改正で、小規模事業者への配慮として更なる激変緩和を図る観点からこの控除割合の縮小をなだらかに
するために、下表のとおり令和13年(2031年)9月30日まで延長されることになりました。

※この経過措置の適用を受けるには帳簿への記載と一定の書類の保存が要件とされています。
(3)2026年10月までにするべきことは?
1.会計システム等の更新
多くの会計システムでは取引毎に、100%控除・80%控除・50%控除の選択ができるようになっていますが、
システムを更新し、70%控除・30%控除の選択できるようにする追加修正する必要があります。
また、会計システムと連携している経費精算システムなどもあるのであれば、忘れずに更新する必要があります。
2.控除割合変更の社内周知
2026年10月1日以降の取引から、今まで「80%控除」として計上していたものを「70%控除」として計上することに
なりますので、あらかじめ社内の関係部署に注意喚起を行いしましょう。
特に、過去の仕訳をコピーして新規の仕訳を作成する場合に、「80%控除」としたまま更新を忘れてしまう誤りが想定されます。
十分に注意しましょう。
2 小規模事業者の2割特例の改正
(1)経過措置が設けられた背景
1.インボイスの導入によりこれまで免税事業者であった事業者が「課税事業者」になることが想定され、
急激に税負担が増加することが予測されました。
2.また、税負担の増加が障壁となってインボイス制度の定着が妨げられることも懸念されていました。
3.これに対処するため、インボイス制度開始に伴い課税事業者になる選択をした者(注3)に対しては、
納付すべき消費税額を売上げに係る税額の「2割」とする特例が設けられました。
この特例は一般的に『2割特例』と呼ばれています。
注3:インボイス制度に関係なく、課税事業者となる者は除かれます。
(2)改正の概要
1.個人事業者は『3割特例』へ変更のうえ、令和10年(2028年)まで延長し、法人は延長なしとなります。
2.2割特例は令和8年(2026年)に終了する予定でしたが、令和8年度税制改正によって個人事業者に限っては
割合を3割に変更したうえで、令和10年(2028年)まで、2年間延長されることになりました。
3.この改正は、事務負担への配慮がより必要と考えられる個人事業者を対象に、インボイス制度の定着をより確実なものとする
主旨で行われます。
4.法人は、当初の予定通り令和5年(2023年)10月1日から令和8年(2026年)9月30日までの日の属する
各課税期間が2割特例の対象期間であり、その後の延長はされません。
(3)個人事業者がこれからするべきこと
1.3割特例を受けようとする場合
「3割特例の適用」には税務署への届出などの事前手続きは必要ありませんが、自社が3割特例の適用を受けられるかどうか、
下記の事項を確認する必要があります。
①前々年の課税売上高が1000万円以下であるか
②前年の1月から6月の課税売上高または給与等支払額が1000万円以下であるか
③前々年の課税売上高が1000万円を超える被相続人の事業を承継していないか
④高額な資産の取得により免税事業者になることが制限されていないか
2.簡易課税制度との比較
中小事業者向けの制度に「簡易課税制度」があります。
これは仕入税額を考慮せずに、売上げに係る税額に一定の割合を乗じて消費税額を計算する恒久的な制度です。
「簡易課税制度」で使用する割合は業種ごとに異なりますが、卸売業では1割、小売業・農業・林業・漁業では2割であるため、
これらの業種では『3割特例』を利用するよりも税金が安くなります。
なお、簡易課税の適用を受けようとする場合には、税務署に「消費税簡易課税制度選択届出書」を提出する必要があります。
「消費税簡易課税制度選択届出書」は、通常はその適用を受けようとする課税期間が始まる前に提出します。
なお、2割特例または3割特例を受けた事業者に限って、簡易課税の適用を受けようとする年の確定申告期限まで(注4)に
提出すればよいこととなっています。
これから、どの方法で計算するのが良いのかを検討し、必要に応じて期限までに届出書を提出しましょう。
注4:令和8年9月30日以前に終了する課税期間の場合は、その課税期間中まで。
今回取り上げたインボイス制度の令和8年度税制改正によって、経理実務や申告実務が大きく変わります。
正しく申告・納税するためにも、いま一度自社の状況を見直し、改正に備えていくようにしましょう。