753.改善方法を掘り下げる 生産性①
2026年5月8日
2026年6月12日更新
経営にはさまざまな改善事項があり、その課題を発見するひとつの資料が「月次試算表」であり「決算書」です。
そしてその読み方を「経営分析」と呼んでいます。
したがって、経営分析とはパターン化された読み方ですが、本来は課題を見つけるためには自由なものです。
したがって、それぞれ独自の意味ある分析は、立派な経営分析と言えます。
今回からはそれら経営分析を通じて発見した経営改善課題を「如何にして掘り下げて解決策を見出すべきなのか」について考えてみ
たいと思います。 その第一回目は『生産性』です。
1 生産性は常に高めなければならない
いつの時代であっても原価や人件費あるいは経費などは毎年値上がりしていくものです。
しかし昨今のように急激に値上がりするときは、なおさらそれらを吸収できるだけの『生産性』である「一人当りの売上高」を高め
て行かねばなりません。
一人当り売上高を高めるには「一人一人が売上高を増やせばよい」ということになりますが、しかし、一人一人に売上高を増やすこ
とを求めることは間違っています。
なぜなら、一見、そのことに妥当性があるように思えますが、結果的に「ノルマ」を課していることになってしまうからです。
したがって、一人当りの売上高を高めるとは、一人一人に売上高を増やすことを求めることではなく、全社一丸で売上高を増やすこ
とを言います。
いわゆる『全員参加型の経営体質』に変えて行かねばならないことを意味しているわけです。
一人当りの売上高を増やすとは『全員参加型の経営体質』に変革していくことをいいます!
事業を継続させていくにしろ、事業を新規に立ち上げるにしろ、安定した経営状況で事業を行っていくためには売上高を少しでも増し、かつ粗利益も増やし、それを原資にして給料や賞与増額に回し、かつ黒字経営を続けることを指針にして行かねばなりません。
そのヒントが、実はこれからご紹介する『マズローの法則』にあります。
2 マズローの法則とは
マズローの法則は「従業員のやる気と成長」こそが企業成長のカギと看破している!
今日の経営において、事業規模の大小を問わず従業員のやる気と成長に基づいた「高付加価値な経営」と「高効率な経営」が求めら
れています。
下図『マズローの欲求5段階』は、誰もが一度は見られたことがあるかと思います。

上図は、次のように説明されています。
(1)ベースとなる基本的な欲求が『生理的欲求』
『生理的欲求』は、生きていくための欲求です。
企業としてはこれを満たせないと従業員の成長意欲をもたらすことはできず、やがて退職者を招くということになります。
中小零細企業ほどいろいろ弁明はあるのでしょうが、この段階をなかなかクリアすることができていません。
経営が厳しいからこれ以上の賃金は支払えない、辛抱してほしいという論法です。
しかし、この状況から脱出するためにはまず自社の姿勢を従業員に説明し、そのうえで改善策を着実に少しずつでも実行し、従業員
の方たちに自社の姿勢を示すことが大事なのです。
したがって、その姿勢を一番示すことになる「昇給」から、まず始めなくてはなりません。
「人はお金のためだけに働くのではない」という経営者もいますが、それは生理的欲求が満たされている経営者が言うセリフです。
またさらに大事なことは、生理的欲求が満たされているか否か、その判断を行うのは経営者ではなく、従業員だということです。
従業員がそう思えていないのなら、それは出来ていないことになります。
(2)第2段階の欲求である『安全の欲求』
『安全の欲求』とは、「経済的に安定した中で暮らしたい」という欲求です。
そのためには、快適な職場環境や納得できている給与水準などが求められます。
従業員の立場になって自社を見直してみると、給料水準以外にも雑然とした職場、汚れた男女混同のトイレ、自分のスペースがない
など、改善すべきことが多く目に付きます。
給与水準は大企業と比べると、どうしても見劣りする中小零細企業ですが、「当社もそういうことを目指す経営をしており、まだ十
分ではないが、少しでも昇給を続けていく」などと従業員に説明することが大切です。
大事なことは大企業と同じ職場環境や同じ給与水準を実現することだけではなく、まずその姿勢を従業員に示したり、できる範囲で
その姿勢を見せていくということです。
お客や社会のために貢献しようなどという、外ばかりに目を向けた中身が伴わない経営姿勢でなく、「まだ満足はできないかもわか
らないが、現状の待遇を改善し続けていくので、だからこの方向でこうして行こう!」という経営者の真摯な姿勢が大切なのです。
(3)第3段階の欲求である『社会的欲求』
第3段階の『社会的欲求』とは、「この会社に勤めていて安心」という欲求です。
具体的には、安定的な経営状況、従業員のことを考えた職場環境、将来を見据えた給与体系、責任と権限移譲などに加えて、給料に
よるプライドが持てることです。
これが満たされてくると、そこに働く人たちに、他の従業員やお客に能動的な働き掛けをしようというモチベーションが芽生え始め
『全員参加型経営』に必要な、自ら成長しようする兆しが見られて来ます。
第3段階の『社会的欲求』を満たすことが「全員参加型経営」の基礎となる!
いくら職場環境や給与水準を改善しても、このような安心感や満足感が伴わないと『社会的欲求』は芽生えません。
なぜなら、現代社会の風潮は、他人のことより、自分の現在や将来のことが心配でならないからです。
(4)第4段階の欲求である『承認欲求』
第4段階の『承認欲求』とは、「自分は高く評価されている、自分の能力は認められている」という実感のことをいいます。
具体的には、褒められる・認められる・課長や部長などの役職や上級ポジションにつくなどが、この承認欲求を満たします。
だれでも褒められれば「やる気」が出ます。
名刺や肩書に役職が付くようになると、それなりの自覚が芽生えて来ます。
「環境が人を育てる」とも言われますが、承認欲求が満たされると、従業員は職場依存的な評価軸から自立して自分で立てた基準や
目標あるいは使命感に沿った欲求に従うようになり、さらに成長を見せ始めます。
第4段階の『承認欲求』が満たされてくると「全員参加型経営」へ向かうようになる!
但し、陶酔するあまり自己陶酔となってしまう恐れもありますので、思い違いの行動であるパワハラやセクハラなどのハラスメント
行為や横領などの不正行為の温床にならないよう、注意する必要があります。
また、組織として、自立という「出る杭」を打ってしまうことにならないように注意することも大事です。
(5)第5段階の欲求『自己実現欲求』
最後の『自己実現欲求』とは、「自分にしかできないことを成し遂げたい、自分らしく生きたい」という欲求です。
経営者やそれに準じる層である支店長や店長など、高いポジションの責任管理者に芽生える欲求です。
もっとも最近ではそんな気概を持った従業員も少なくなったと嘆く経営者もいるようですが、それはその企業固有の問題であり、ま
たオーナー自身の資質や人柄の問題でもあります。
(6)第5段階を超えた第6段階の欲求『自己超越欲求』
第5段階の上位概念に、マズローが晩年あと付けした『自己超越欲求』というものがあります。
『自己超越欲求』とは、社会をより良いものにしたい、世界の貧困をなくしたいなど、一般的にはオーナー経営者によく見られる
「自分自身の自我を超えた理念を実現したい」という欲求です。
自己実現欲求と似ているようですが、自己実現欲求は「理想的な自分になりたい」というようにベクトルが自分に向いていますが、
自己超越欲求は、社会など自分の外にあるものに対する貢献というように、ベクトルが自分外に向いています。
しかしそこまで従業員に求める必要はないかと思われます。
なぜなら、オーナーと従業員では立ち位置が違うからです。
しかし立ち位置が違うのに、従業員に同じことを求めるオーナー経営者が多いこともまた事実です!
3 マズローの法則を経営に落とし込む方法
(1)人事戦略に埋め込む
『マズローの法則』の説明が長くなりましたが、では、『マズローの法則』を「全員参加型の経営」に落とし込むにはどうすればよ
いのでしょうか。
ひとつは人事戦略に埋め込むということです。
5段階欲求と社内役職とを結びつけて考えれば、次のような形になります。
第1段階 生理的欲求 →新入社員レベルの欲求
第2段階 安全の欲求 →一般社員レベルの欲求
第3段階 社会的欲求(全員参加型経営のベース) →課長レベルの欲求
第4段階 承認欲求(全員参加型経営の始まり) →部長レベルの欲求
第5段階 自己実現欲求 →役員レベルの欲求
これらを自社なりに具体化したものを人事考課規定などに埋め込み、従業員成長戦略の方向と結びつけることです。
そうすることで、ただ営業成績の良い人や著しい成果を挙げた人を昇進させるなどという、成果と昇進を混同した人事戦略を是正す
ることもできます。
一般的には成果と昇進を混同した人事が多い!
こうすることで資質的に問題がある従業員を役職者にしてしまうような問題も是正でき、人を育成する上司がリーダーとなる健全な
社内組織を作っていけることになります。
(2)経営者自身がわが身を振り返る
もうひとつ大切なことは、経営者自身が自身を振り返って『マズローの5段階』を考えてみることです。
中小零細企業の場合はさまざまな権限が経営者に集中していますので、経営者自身がわが身を振り返ることが大事です。
1.創業時代には、何としてでも生活できるようにしたいと思われていませんでしたか?
それが第一段階の『生理的欲求』であり、新入社員は何とかしてこの仕事を通じて自立したいと思っているわけです。
2.それが落ち着いてくると、より安定した生活をしたいと思っていませんでしたが?
それが第二段階の『安全の欲求』であり、従業員も世帯を持ち、家族が出来てくると、安定した経済的環境の中で暮らしたいと思う
わけです。
3.さらに子供も成長してくると、この事業で安定した生計を立てたいと思っていませんでしたか?
それが第三段階の『社会的欲求』であり、従業員も役職者となって、会社側に立った思考をするようになります。
これらのことをいま一度思い出して、従業員のことを思い、人事戦略などに活かせば、全員参加型の経営となり、生産性も向上して
きます。
このように、マズローの法則をただ理論として理解するだけでなく、自分の経営や思いを通じて理解すると、
従業員との意思疎通もよくなり、全員参加型の経営に近づくことができるようになります。