737.2026年度 法改正の予定
2025年12月19日
もう間もなく、2025年も終わり、2026年を迎える。
2026年も経営環境は大きく変わるだろうが、なかなか予測することは難しい。
しかし、その中で読める経営環境がある。それは「法改正」だ。
今回は企業経営に影響すると思われる『2026年の法改正』をテーマにコラムを贈る。
2025年に労働や事業に関するさまざまな法改正が行われ、その多くは2026年に施行される予定だ。
事業運営に大きな影響を与える法改正も多くあり、できるだけ早い段階から改正のポイントをおさえておくことが大切だ。
その主なものは以下のとおりだ。
1 年金制度改正法の施行
2 改正労働安全衛生法の施行
3 中小受託取引適正化法(旧:下請法)の施行
4 労働基準法の大幅改正の見通し
以上について、少し詳しく紹介する。
1 年金制度改正法の施行
2025年6月13日に年金制度改正法が成立したことを受け、2026年4月1日から新たな年金制度が施行される。
その改正の主なポイントは、以下の6点だ。
(1)被用者保険の適用拡大等
(2)在職老齢年金保険の見直し
(3)遺族年金の見直し
(4)厚生年金保険等の標準報酬月額の上限の段階的引上げ
(5)将来の基礎年金の給付水準の底上げ
(6)私的年金制度の見直し
(1)被用者保険の適用拡大等
改正後は社会保険の適用対象者が拡大される。
具体的には、中小企業の短期労働者等を新たな対象としている。
大きな変化としては2025年10月に導入された「賃金要件の撤廃」だ。
これまで、短期労働者の加入対象は以下のとおりであった。
「従業員51人以上の企業等」で働く者
「月給が88,000円以上」の従業員
「週の勤務時間が20時間以上」の従業員
「雇用期間2カ月以上」の従業員
それが、改正後は 月額88,000円以上の要件が撤廃 される。
さらに 企業要件も2027年~2035年の間に段階的に撤廃 され、最終的には「従業員10人以下」の企業で働く
短期労働者も対象となる。
なお、個人事業所は、現行法では「常時5人以上」を使用する場合は、法律で定められた17業種に限って、社会保険の適用対象と
なっているが、改正によって 2029年10月からは非適用業種の農業・林業・漁業・宿泊業・飲食サービス業等が解消 され、
新たに設立される場合にも被用者保険の適用事業所となる。
※「被用者保険」とは
企業や公的機関などに雇われて働いている人(被用者)が加入する公的社会保険制度の総称。
会社員や公務員が対象で保険料は雇用主と被用者が折半して負担する「労使折半」が特徴。
(2)在職老齢年金保険の見直し
働く意欲のある高齢者が年金を減額されにくくするために、在職老齢年金の見直しが行われる。
一定収入のある厚生年金受給者の在職老齢年金制度が、支給停止となる収入基準額が50万円から「62万円」に引き上げられる。
(3)遺族年金の見直し
遺族厚生年金の男女格差解消と、子どもが受け取りやすくすることを目的として、遺族年金も改正される。
18歳未満の子がない20~50代の配偶者を原則5年の有期給付の対象とし 60歳未満の男性を新たに支給対象とする ことで
男女格差解消を図る。
ただし、配慮が必要な場合は5年目以降も給付が継続されるが、それに併せて有期給付の収入要件が廃止され年金額は増額される。
また 2028年4月から父・母と生計を同じくしている子どもも遺族基礎年金を受け取れる ようになる。
これによって、たとえば夫の死亡後に妻が収入要件を超えるほどの稼ぎがあったとしても、子どもは遺族基礎年金を受け取ることが
可能となる。
(4)厚生年金保険等の標準報酬月額の上限の段階的引上げ
厚生年金等を計算する際の「標準報酬月額」について 上限額が65万円から「75万円」へ段階的に引き上げられる。
これによって、現役時代の賃金に見合った年金が受け取れるようになる。
(5)将来の基礎年金の給付水準の底上げ
公的年金制度の所得再分配機能の低下によって、基礎年金の給付水準の低下が見込まれる場合には、
基礎年金と厚生年金のマクロ経済スライドによる調整を同時に終了させる措置を講じる旨の規定 が追加される。
これは、経済の推移に合わせて基礎年金の水準が下がってしまうことを防ぐための措置であり、
現行の給付水準では将来的に経済が好調に推移する場合は、年金の水準もおおむね維持されることになる。
しかし一方、経済が好調に推移しない場合、基礎年金の水準が低下してしまう点が問題視され、そこで2029年に予定されている
次の財政検証によって、給付水準の低下が見込まれる場合には必要な法制上の措置がとられることなっている。
(6)私的年金制度の見直し
私的年金については個人型確定拠出年金の加入可能年齢の上限が 70歳未満までに引き上げられる 予定となっている。
また、企業型DCの拠出限度額も拡充される予定で、これらは公布から3年以内に実施される見込みだ。
さらに、企業年金の運用の情報開示を行うため、厚生労働省が情報を集約して、公表するという取り組みも盛り込まれている。
これは、公布から5年以内に実施される予定だ。
(7)その他の見直し
ひとつは、子を持つ年金受給者への保障強化が挙げられる。
具体的には、子に係る加算額の引上げ等を行いつつ、老齢厚生年金の配偶者加給年金の額が見直される仕組みだ。
また、外国人の脱退一時金に関するルールも改正され、公布から4年以内に施行される予定だ。
老後を日本で暮らす可能性がある外国人が増加する見通しを受け、再入国の許可を得て出国した外国人について許可の有効期間内は
脱退一時金を請求できないこととなる。
2 改正労働安全衛生法の施行
2025年5月に「労働安全衛生法及び作業環境測定法の一部を改正する法律」(令和7年法律第33号)が成立し、その多くは
2026年4月1日に施行されることになっている。
その改正の主なポイントは次のとおりだ。
(1)個人事業者等に対する安全衛生対策の推進
(2)職場のメンタルヘルス対策の推進
(3)化学物質による健康障害防止対策等の推進
(4)機械等の労働災害の防止の促進等
(5)高齢者の労働災害防止の推進
(1)個人事業者等に対する安全衛生対策の推進
2026年4月1日から 既存の労働災害防止対策に個人事業者も取り込むための措置 が実施される。
具体的には、注文者が講ずべき措置を定め、「職業上の安全及び健康並びに作業環境に関する条約」の履行に必要な整備を行う。
また改正法には、個人事業者自身がそれぞれ講ずべき措置や、業務上災害の報告制度等を定めるとの内容も盛り込まれる。
ただし、個人事業者が講ずべき措置や業務上災害の報告制度等の一部は、2027年1月1日に施行予定となっている。
また注文者が講ずべき措置については一部が公布日に施行されているものの、残りは2027年4月1日に施行予定となっている。
(2)職場のメンタルヘルス対策の推進
職場のメンタルヘルス対策の強化措置として 「ストレスチェック」の義務化対象が拡大 される。
具体的には、努力義務となっていた「労働者数50人未満の事業場」について、実施が義務化される。
ただし、施行は公布から3年以内に政令で定める日となっている。
(3)化学物質による健康障害防止対策等の推進
化学物質による健康障害防止対策として、下記の措置が盛り込まれる。
■化学物質の譲渡等実施者に課せられた「危険性・有害性情報の通知義務」の違反に罰則を設ける。
これは、公布後5年以内のうち、政令で定める日に施行される予定だ。
■化学物質の成分名が営業秘密である場合に一定の有害性の低い物質に限り、代替化学名等の通知を認める。
2026年4月1日に施行される。
ただし、代替を認めるのはあくまで成分名のみであり、人体への作業や応急の措置等は対象とならない。
■有害物質を扱う作業者にサンプラーを装着して検査する「個人ばく露測定」について、作業環境測定の一つとして位置付ける。
作業環境測定士等による適切な検査の担保を図るための措置であり、2026年10月1日に施行される予定だ。
(4)機械等の労働災害の防止の促進等
2026年4月1日からボイラーやクレーン等に係る製造許可の一部や製造時等検査について、
民間登録機関が実施できる範囲が拡大 される。
これまでも民間活力の活用という観点から検査制度の民間への移管が進められており、今改正でさらに取り組みが推進される。
また2026年1月1日からは登録機関や検査業者の適正な業務実施のため、不正への対処や欠格要件が強化され、
検査基準への遵守義務が課される。
(5)高齢者の労働災害防止の推進
60歳以上の就労者が増加し、労働災害の死傷者に占める60歳以上の割合も増えていることから、高齢者の労働災害防止の推進が
行われる。
具体的には2026年4月1日から 高年齢労働者の労働災害防止に必要な措置の実施 をすべての事業者の努力義務とする。
必要な措置については明示されていないが、厚生労働省がまとめている「エイジフレンドリーガイドライン」を参考にすれば、
「安全衛生管理体制の確立」「職場環境の改善」「健康や体力の状況把握」「健康や体力に応じた対応」「安全衛生教育」などが
取り組みとして挙げられている。
3 中小受託取引適正化法(旧:下請法)の施行
2026年1月1日、従来の下請法が 「中小受託取引適正化法(取適法)」 に名称を変えて、新たに施行される。
取適法の主な改正ポイントは、以下のとおり。
(1)用語の変更
(2)適用対象の拡大
(3)禁止行為の追加
(4)面的執行の強化
(5)その他
(1)用語の変更
取適法では実態をより適切に表現するために 下請事業者を「中小受託事業者」、親事業者を「委託事業者」 へと呼称が変わる。
また、下請代金は「製造委託等代金」に、下請代金支払遅延等防止法は「製造委託等に係る中小事業者に対する代金の支払の遅延等
の防止に関する法律」へと名称が変わる。
(2)適用対象の拡大
従来の下請法では適用対象として「資本金による区分」のみだったが、今回は取引の内容に応じて、
一定以上の資本金を持つ会社を「親事業者」 一定以下の資本金を持つ会社を「下請事業者」 とし、その条件に該当する場合のみ
下請事業者を保護するという仕組みになっている。
今回の取適法の施行により、新たに 「従業員数による区分」が加わり より幅広いケースで適用されることになる。
具体的には、取引内容に応じて従業員300人超あるいは従業員100人超の会社から、それ以下の規模の事業者へ委託する際も
適用対象となる。
また、対象取引に「特定運送委託(軽貨物ドライバーへの発注等)」が加わり、取引内容の面でも適用対象が拡大される。
(3)禁止行為の追加
従来の下請法では、委託事業者(親事業者)側に対し、さまざまな義務と禁止行為が定められていた。
たとえば、受託事業者に責任がない状態での「受領拒否」「減額」「返品」「支払遅延」の禁止や、支払期日を定める義務等だ。
それに 取適法の施行によって新たに「協議に応じない一方的な代金決定」と「手形払い」が加わる ことになる。
これによって 委託事業者には4つの義務と11の遵守事項が課される ことになる。
(4)面的執行の強化
従来、事業所管轄庁に対して与えられていたのは「調査権限」のみだったが、取適法では、新たに指導・助言権限が付与され、
「面的執行」が強化 されることになる。
また「報復措置の禁止」に関する情報提供先にも、従来の公正取引委員会および中小企業庁長官に、事業所管轄庁が加わる。
報復措置とは、受託事業者が委託事業者の不公正な行為を告発したことを理由に、何らかの不利益な取扱いが行われることを指す。
今回の改正により、万が一、委託事業者から報復措置が行われた時には、中小受託事業者が申告しやすい環境が確保される。
(5)その他
その他として、製造委託の対象物品への「金型以外の型等」の追加が挙げられる。
また、書面交付義務については、中小受託事業者の承諾の有無にかかわらず、電子メール等の電磁的方法を選べるようになる。
4 労働基準法の大幅改正の見通し
厚生労働省では2024年1月に「労働基準関係法制研究会」を開催し、2025年1月には労働基準法の改正案をまとめた資料が
公開されている。
その内容は2026年の「労働基準法改正」に反映され、2027年4月から施行される見通しとなっており、
その改正ポイントは以下のとおりだ。
(1)14日以上連続勤務の禁止
(2)法定休日の特定義務化
(3)勤務間インターバル制度の義務化
(4)有給休暇時の賃金策定におけるルールの明確化
(5)副業・兼業者の割増賃金算定に関するルールの見直し
(6)法定労働時間の週44時間の特例措置廃止
(1)14日以上連続勤務の禁止
現行の労働基準法では、法定休日として「1週間のうち少なくとも1日の休日」を設けることが義務付けられている。
しかし、業務の都合等で難しい場合には「4週間で4日の休日」の変形休日制を導入することで、週休1日に縛られない特例も
認められている。
そのため、場合によっては、休日を連結させる等の方法で長期の連続勤務も可能となっていた。
こうした極端な連勤による負荷の発生を防ぐため、改正案では 「連続14日以上の勤務禁止」 が盛り込まれる。
具体的には変形休日制の特例を「2週間で2日の休日」に変形し 事実上の連続勤務の上限を13日まで となる。
(2)法定休日の特定義務化
現行法における法定休日は、必ずしも曜日が定まっているわけではない。
このため、働くリズムが保たれにくくなるとともに、法定休日と法定外休日の区別が曖昧になってしまうという問題が生じている。
その結果、休日労働による割増賃金の取扱もグレーになる恐れがあるので、改正後は 法定休日の特定義務化 が盛り込まれる。
(3)勤務間インターバル制度の義務化
「勤務間インターバル制度」とは、勤務の終了時刻と翌日の始業時刻の間に、少なくとも「原則11時間」のインターバルを
確保するという制度だ。
労働者の休息時間を十分に確保し、労働災害や健康被害を防止するための取り組みであり、2019年から努力義務となっている。
しかしながら、2023年1月時点での導入企業割合はわずか6.0%で、実施はなかなか進んでいない。
こうした状況を受け、法労働基準関係法制研究会から 勤務間インターバル制度の実質的な義務化 が提言されている。
ただし、義務化にあたっては「インターバル時間を短くする」「一定の経過措置を設ける」等の緩和措置も検討されている。
(4)有給休暇時の賃金算定におけるルールの明確化
現行法において、年次有給休暇取得時の賃金算定の方式は「平均賃金方式」「通常賃金方式」「標準報酬日額方式」の3通りから選ぶ
ことができる。
一般的に、月給制で働く労働者については、どの方法を選んでもそれほど大きな差額は生まれないが、しかし日給制・時給制で働く
労働者については、平均賃金方式や標準報酬日額方式を用いると、賃金が大きく減額されてしまう恐れがある。
そのため、改正後は 原則として「通常賃金方式」のみを採用する 方向性で検討されている。
(5)副業・兼業者の割増賃金算定に関するルールの見直し
副業・兼業者の賃金の算定については事業主が異なる場合でも、労働時間を通算して計算することとなるため、法律上は割増賃金が
発生することなる。
このため、企業が副業や兼業を許可するには「自社以外の業務時間についても1日単位で細かく把握しなければならない」という
負担が生じている。
こうした制度の仕組みが、企業による副業や兼業を受け入れる際の大きなハードルになっていると考えられており、
改正後は 労働時間の通算ルールを適用しない 方向性が検討されている。
(6)法定労働時間の週44時間の特例措置廃止
現行法において、一定条件を満たす事業場(常時10人未満の労働者を使用する特定の業種の事業場)では、
法定労働時間を週44時間まで延長できる特例が認められている。
しかし、厚生労働省の委託調査によれば、対象となる事業場の87.2%が特例措置を使っていないことが明らかにされている。
特例措置はすでにその役割を終えていると考えられることから、改正後は 「週40時間へ一本化」する ことが見込まれている。
2026年にはさまざまな法改正が施行される予定であり、企業経営に影響を与えるものも少なくない。
特に年金制度や労働安全衛生、業務の受託・委託に関するルールは大きく改正されるため、内容を正しく把握しておく必要がある。