735.会計から見る強い経営の見分け方⑩

2025年12月5日

これまで貸借対照表の項目から見た「会計から見る強い経営の見分け方」を説明してきたが

最後に損益計算書から見た強い経営の見分け方を説明する。

しかしながら通常の損益計算書では(特に製造をしている事業にとって)、クリアに「強い経営の見分け方」は出来ない。

そこで『変動損益計算書(直接原価損益計算書)』に変換して見る必要がある。

その理由は通常の損益計算書では事業収益の体質やその問題点が見えてこないからだ。

そこで今回の「会計から見る強い経営の見分け方」は、『変動損益計算書(直接原価損益計算書)』をテーマにする。

 

10 強い経営のポイント⑩ 『変動損益計算書』

(1)変動損益計算書の概要

 ①『変動損益計算書』とは、費用を「売上に応じて変動する変動費」と「売上に関わらず一定の固定費」の2つに分けて

  表示し直した損益計算書である。

 ②変動損益は通常の損益計算書とは異なり、費用を「変動費」と「固定費」に分けることで事業の収益体質をよりクリアにし、

  「限界利益」(売上高から変動費を引いた利益)の分析や損益分岐点の算出に役立つだ。

 ③経営者は、それによって将来の利益計画を立てたり、価格設定やコスト削減などの経営戦略に役立てたりすることができる。

変動損益計算書はは事業の収益構造をより明確に把握でき、問題点が掴める!

 

(2)変動損益計算書の主な特徴

 ①費用の分類

  すべての費用を「変動費」と「固定費」の2つに分ける。

  変動費とは、売上の増減に比例して増減する費用であり、商品仕入や材料仕入などの直接原価である。

  固定費とは、売上の増減にかかわらず発生する費用であり、人件費や地代家賃などその他の経費である。

  特に固定費は、人件費とその他経費に分けて管理することで、より分析力が増す。

  変動費は下げると、変動費比率が下がり限界利益率が上がるので『収益体質』が改善される!

  固定費は削減すると、その分『利益』を増やすことができる!

 ②限界利益が算出できる

  売上高から変動費(直接原価)を差し引いたものを「限界利益」という。

  直接原価に付加価値を付けたものが限界利益と解釈できるので、「付加価値」ともいえる。

  この限界利益が固定費を上回ると、利益が生まれることになる。

 ③限界利益率

  限界利益率とは売上高に占める限界利益の割合のことなので、売上100円当たりの限界利益を表すことになる。

  仮に限界利益率が65%であれば、売上100円当たり、原価35円で65円の付加価値を付けたことになる。

  したがって、限界利益率が高ければ高いほど、いわゆる『高付加価値経営』をしていることになる。

  また限界利益率は「損益分岐点売上高」の算出にも用いれられる。

  限界利益率改善の戦略には「変動費を下げる」「売価を上げる」の2通りがある!

  変動費を下げる戦略は『コスト削減政策』であり、売価を上げる戦略は『高付加価値化政策』である。  

 ④意思決定への活用

  経営者は目標利益を達成するために必要売上高を逆算したり、売上増加による利益の変化をシミュレーションしたりできるので

  経営の意思決定にも活用できる。

 ⑤作成の目的

  変動損益計算書は法的に作成義務があるものではないので、事業の経営管理や業績管理を目的として作成する。

  通常の損益計算書との相違点は、次のとおりである。

   [項目]    [通常の損益計算書]                   [変動損益計算書]

   費用の分類  細かい勘定科目ごとに分類                 変動費と固定費に分類

   主な指標   売上総利益や営業利益、経常利益など            限界利益、限界利益率、損益分岐点など

   主な目的   企業の財政状態や経営成績の報告(外部向け、制度会計)  経営判断のための分析(内部向け、管理会計)

変動損益計算書は『限界利益率』を把握することが肝!

 

(3)変動損益計算書による基本的な収益構造の見分け方  『損益分岐点分析』

 ①変動損益計算書による収益体質の見分け方に、「損益分岐点分析」と呼ばれるものがある。

 ②損益分岐点分析は、事業が利益を生み出すために最低限の必要売上高である「損益分岐点売上高」を把握するための

  経営分析手法である。

 ③この見分け方は、費用を「変動費」と「固定費」に分けることから始める。

  既述したように、変動費とは売上の増減に比例して増減する費用のことで、簡単にいえば直接原価のことである。

  固定費とは変動費を除く売上の増減にかかわらず発生する費用のことで、人件費とその他経費のことである。

 ④それによって、売上高と総費用である変動費と固定費の合計が等しくなる点である売上高を計算し、

  赤字にならない売上目標を設定し、適切な販売計画やコスト管理に役立てられる。

 ⑤損益分岐点分析のポイント

  目的は、黒字化に必要な最低限の売上高(損益分岐点売上高)を明らかにすることである。

   総費用を、売上に応じて増減する変動費と、それ以外の売上規模に関係なく発生する固定費に分けて、

  以下の計算式で損益分岐点売上高を計算する。

  損益分岐点売上高 = 固定費 ÷(100%ー 変動費比率)

   *「100%-変動費比率」とは、すなわち「限界利益率」のことである。

 ⑥活用方法

 1.目標設定に活用する。

   利益目標を達成するために必要な売上高を試算する。

 2.リスク管理

   たとえ売上高が減少しても、赤字転落までにどの程度の余裕があるか、「経営安全率」を把握する。

 3.価格・コスト設定

    販売価格の設定や、コスト削減の必要額などを検討する。

 4.投資判断への活用

    新規事業や設備投資の採算性をシミュレーションする。

 ※損益分岐点分析は「CVP分析」とも呼ばれる。

  「CVP分析」という用語も聞くことがあるが、損益分岐点分析と同じことをいっている。

  CVP分析は、Cost(コスト)、Volume(販売量)、Profit(利益)の頭文字からそう呼ばれているが、

  損益分岐点分析と同じ意味である。コスト、販売量、利益の3つの関係性を明らかにし、経営判断を行う。

「損益分岐点分析」と「CVP分析」は同じである!

 

(4)損益分岐点比率

 ①損益分岐点比率とは、利益がゼロになってしまう「損益分岐点売上高」に対する現在の売上高の状況を示す。

 ②損益分岐点比率は低いほど、利益がゼロとなってしまう売上高に対して余裕があることになる。

 ③その余裕を示す比率を「経営安全率」と呼ぶ。

 ④その算出は以下のように行う。

 1.損益分岐点売上高を求める

  損益分岐点売上高=固定費÷限界利益率

   *固定費=売上高ー(変動費+利益)

   *限界利益率=100ー変動費比率

   *変動費比率=変動費÷売上高×100

  つまり、固定費全額が賄える売上高が損益分岐点売上高である。

  仮に売上高が1000万円、変動費が300万円、利益が10万円であれば、固定費は690万円、変動費比率は30%、限界利益率は

  70%となるので、損益分岐点売上高は、690万円÷70%≒986万円となる。 

 2.損益分岐点比率の算出

  損益分岐点比率=損益分岐点売上高÷売上高×100

   ※経営安全率=100%-損益分岐点比率

  上記の例の場合、損益分岐点売上高が986万円で売上高が1000万円なので、損益分岐点比率は98.6%となる。

  つまり、あと1.4%売上高が下がれば、利益が出なくなるので、この1.4%のことを「経営安全率」と呼ぶ。

  したがって、損益分岐点比率は高ければ「利益」が出にくい収益体質であることを示す。

  なお、損益分岐点比率が100%を超えると「赤字経営」ということになる。

損益分岐点売上高は変動費を除く「固定費」を限界利益率で割れば求められる!

 

(5)労働分配率

 ①労働分配率とは、限界利益に占める人件費の割合のことである。

  労働分配率=人件費÷限界利益×100

   *人件費には、給与・賞与のほかに法定福利費が含まれる。

 ②経営的には労働分配率を低く抑えられれば、それだけその経費に回せる限界利益が多くなり、黒字経営を維持でき易くなる。

 ③しかし、そのために給与・賞与が低くいと従業員の士気は下がるので、労働分配率と給与・賞与のバランスが重要となる。

 ④現在は(本当は以前からなのだが)、如何に多くの従業員給与・賞与が支給できるかが経営上の重要な課題となっているので、

  労働分配率は一元的に管理するのではなく、少なくとも役員、正社員、非正規社員に分けて管理することが常識だ。

労働分配率は役員、正社員、非正規社員に分けて求めることが大切!

 

 

損益分岐点分析(CVP分析)で強い経営の収益体質が見分けられる!