730.会計から見る強い経営の見分け方⑤

2025年11月1日

「会計から見る強い経営の見分け方」に話を戻す。第5回は『固定資産』だ。

『固定資産』とは、企業にとって設備投資であり、それによって製品等の生産を目的としている資産である。

そのように考えると、固定資産の稼働率が非常に重要であることが気づける。

また、固定資産の購入にはそれなりの資金が必要となるので、その資金の出どころもポイントとなる。

強い経営を続ける企業は、固定資産の稼働率も高く、その設備資金にも無理がないことが特徴として挙げられる。

 

 

5 強い経営のポイント⑤ 『固定資産回転期間・回転率』と『固定比率』

(1)固定資産とは

固定資産とは、会社や事業者が長期に渡って使用し、モノを生産することを目的として所有する資産である。

固定資産は継続的に収益を生み出すための基盤となる資産であり、通常は1年以上の期間に渡って利用される。

会計上では1年以内の期間で利用する資産は『流動資産』に計上し、それ以上は『固定資産』として計上するように求められ、

それを正確に区分しないと、会計で経営状況を判断する場合、誤ってしまうので、このルールを守ることは大事なことである。

会計では流動資産と固定資産を正しく区分しないと、正しい経営判断ができなくなる!

 

固定資産の主な特徴は以下のとおりだ。

1.長期保有・長期使用するものである

  固定資産は、資産を「1年を超えて」使用する目的で保有する。

2.売却が目的ではない

  固定資産は、商品や製品のように短期間での販売を目的としたものではない。

3.長期的な収益への貢献

 固定資産は、事業活動を通じて長期的に収益を生み出すために利用されるものである。

 ※投機的な固定資産購入は、その意味では固定資産とは言えない。

4.減価償却の対象となる

  建物や機械など、時間の経過とともに価値が減少する資産は、減価償却によって費用化される。

 ※ただし、土地などの価値が減少しない資産は減価償却の対象とはならない。

 

(2)固定資産の種類

固定資産はその性質によって、主に以下の3種類に分類される。

1.有形固定資産

 土地、建物、機械装置、車両運搬具、工具器具備品などのように、 形があり、実体を持つ資産である。

2.無形固定資産

 ソフトウェアや特許権、商標権、のれんなどのように、形がなく、実体を持たない資産である。

3.投資その他の資産

 長期保有目的の株式や出資金、長期貸付金など、上記に該当しない長期保有を目的とした資産である。

 ※基本的に事業を営む企業としては、投資その他の出資産は保有しないことが望ましい。

 

(3)固定資産の具体例

1.オフィスであれば、事務所として使用するビルや土地など。

2.生産設備であれば、製品を製造するための機械設備など。

3.運搬具であれば、営業活動に使用する社用車や車両など。

4.IT機器であれば、長期間使用するパソコンやサーバーあるいは業務ソフトウェア。

※ただし固定資産のうち「減価償却を必要とする資産」を減価償却資産というが、取得価額が30万円未満のものは「少額減価償却

 資産」と定義され、税法上の特例で該当する資産は取得した期に一括して費用計上できる。

 

(4)流動資産との違い

固定資産は「長期保有(1年以上)」を前提とするが、流動資産は「1年以内に現金(資金)化できる資産」を指す。

たとえば、流動資産には現金・売掛金・在庫商品などがあり、固定資産には建物、設備、ソフトウェアなどがある。

会計はこの両者を区別し、貸借対照表に流動資産と固定資産に分けて記載されるように会計処理をする。

 

(5)固定資産回転期間

『固定資産回転期間』とは、企業が保有する固定資産(建物、機械など)を、どれだけ効率的に活用して、売上を生み出しているか

を示す経営指標だ。固定資産を売上につなげるまでの期間を表し、この期間が短いほど設備投資効率が良いと判断される。

計算式は下記のとおりだ。

固定資産回転期間(ヶ月)=固定資産÷平均日商

固定資産回転率(回)=年商÷固定資産

『固定資産回転期間』は、固定資産を売上につなげる期間を示している。この期間が短いほど、固定資産が効率的に活用され、

収益に結びついていることになるので、短いほど一般的に良いとされる。

『固定資産回転率』は、保有固定資産で何倍の売上高を上げているかいうことになるので、高ければ高いほど、固定資産が効率的に

活用されていることになる。

なお、固定資産に無形固定資産や投資その他の資産が多く存在する場合は、有形固定資産だけで計算すると良い。

ポイント1.効率性の評価

 『固定資産回転期間』は、固定資産投資が事業の収益にどれだけ貢献しているかを測る指標でもある。

1.期間が短かければ「回転率が高い」といい、固定資産を効率的に活用し、多くの売上を生み出している状態を示している。

2.期間が長かれば「回転率が低い」といい、機械設備が十分に活用されておらず、非効率な経営が行われている可能性を示す。

3.原因として、遊休資産の存在や過剰な設備投資が考えられる。

ポイント2.業種による目安の違い

 『固定資産回転期間』の良し悪しは、業種によって大きく異なる。

1.製造業であれば、工場や機械設備が必要なので、固定資産が大きくなり、回転期間は長くなる傾向がある。

2.小売業であれば、店舗の賃借や小規模な設備投資が中心となるので、製造業に比べて固定資産は少なく、回転期間は短くなる。

3.判断の際には、時系列の固定資産回転期間や同業他社あるいは業界平均と比較することが重要だ。

ポイント3.変動要因の分析

 『固定資産回転期間』は、単一の年度だけで判断することは出来ないので、時系列で判断することが重要だ。

1.たとえば、新工場建設などの大型設備投資を行った場合は直後は固定資産額が急増するため、一時的に回転期間が長くなる。

 しかし、これは収益性悪化を示すものではなく、将来の成長への投資と捉えられる。

2. 減価償却が進むと、固定資産の帳簿価額が減るため、見かけ上、回転期間が短くなることがある。

 したがって、固定資産が大きい製造業などでは、直接簿価を減らすのではなく、『減価償却累計額』を活用することが大事だ。

ポイント4.固定資産回転期間が長い/固定資産回転率が低い場合の改善策

『固定資産回転期間』が長いあるいは『固定資産回転率』が低いと判断される場合は、以下のような対策が考えられる。

1.売上高の増加を図る

 いまの固定資産を最大限に活用し、売上を増やすための営業強化や生産性向上などの施策を実施する。

2.固定資産を削減する

 不採算事業や遊休資産を売却・処分することで、固定資産の額を減らす。

3.効率的な設備投資を行う

 投資対効果をきびしく見極め、将来の収益に直結する設備投資だけに限定する。

 そのためには、特に自社の規模にとって大きな設備投資をする場合は「設備投資採算計画」を策定することが大事だ。

大きな固定資産を購入する場合は「設備投資採算計画」を策定する!

ポイント5.キャッシュフロー

『固定資産回転期間』の分析は、資金繰りの健全性にもつながってくる。

1.固定資産回転期間が長い(固定資産回転率が低い)場合は、多額の資金を固定資産に投じているため、資金繰り悪化リスクを

 抱えることになる。

2.固定資産回転期間を短く(固定資産回転率を高く)することは、固定資産を効率的に現金化するスピードを上げていることに

 なるので、キャッシュフローを改善する。

固定資産回転期間を短く、回転率は高くすることが資金繰りを改善するポイントだ!

 

(6)固定資産とキャッシュフロー計算書との関係

固定資産とキャッシュフローは、企業の投資活動を通じて密接に関連している。

キャッシュフロー計算書では、固定資産の取得や売却が「投資活動によるキャッシュフロー」として記録され、

企業の資金の流れを理解する上で重要な情報を提供する。

1.固定資産の取得とキャッシュフロー

 ①キャッシュの流出:事業拡大や設備更新のために固定資産を購入する場合、その対価として多額の現金が支出され、

           キャッシュの流出となる。

 ②投資活動によるキャッシュフロー:この現金支出はキャッシュフロー計算書の「投資活動によるキャッシュフロー」に

                  マイナスとして計上される。

                  これは、事業活動から生み出した現金を収益向上のために投資していることを示している。

2. 固定資産の売却とキャッシュフロー

 ①キャッシュの流入:事業再構築や非効率な資産整理のために、固定資産を売却した場合はその売却代金として現金が流入する。

 ②投資活動によるキャッシュフロー:この現金収入は「投資活動によるキャッシュフロー」にプラスとして計上される。

 ③売却損益の調整:損益計算書に計上される固定資産売却益は、実際の現金収入とは異なるため、キャッシュフロー計算書を

          作成する際には調整が必要となる。

3. 減価償却費とキャッシュフロー

 ①非現金支出:固定資産の購入代価は耐用年数によって『減価償却費』として費用計上されるが、しかし、減価償却費は帳簿上の

        見かけの費用なので、実際には現金流出は伴わない。

 ②キャッシュフロー計算書での調整:したがって、キャッシュフロー計算書を作成する際には、損益計算書上の当期純利益に、

                  現金支出を伴わない減価償却費を加算して調整する必要がある。

                  これにより、実際の現金収支を正確に把握することができる。

4.経営判断への影響

 固定資産とキャッシュフローの関係を分析することで、経営状況をより深く理解できる。

 ①積極的な設備投資:成長企業は将来の収益拡大を見込んで積極的な設備投資を行うので、投資活動によるキャッシュフローが

           大幅なマイナスになる場合がある。

 ②資産の切り売り:業績不振企業は資金繰りのために固定資産を売却し、投資活動によるキャッシュフローがプラスになることが

          ある。これは、表面上プラスでも、本業の収益性が悪化している可能性を示唆している。

 

(7)固定比率

大きな固定資産を購入する際には多額の資金を必要とする。

経営上、そのような場合でも、理想は自己資本で固定資産を購入できることが望ましい。

その見方が『固定比率』である。

1.固定比率とは

 固定比率とは、固定資産を自己資本(純資産)でどの程度賄っているかを示す、財政の安全性を示す指標だ。

 計算式は下記のとおりだ。

固定比率(%) = 固定資産 ÷ 自己資本 × 100

 この比率が低いほど、返済義務のない自己資本で固定資産を購入できていることになるため、財政上、安全性が高いとされる。

ポイント1.財政の安全性を示す

 長期間にわたって使用する固定資産の購入資金を、返済期限のない自己資本でどれだけ賄っているのかを示すので、

 低ければ低いほど、返済義務のない自己資本で固定資産を調達しているため、会社の資金繰りに余裕が生まれ、

 万が一、損失が発生してもカバーしやすくなる。

ポイント2.理想的な状態

  固定資産を自己資本だけで賄うことが理想とされる。

 しかしながら、設備投資が多い企業では難しい場合もあり、その場合は『固定長期適合率』も見ると良い。

ポイント3.固定長期適合率との違い

 固定長期適合率は、固定資産購入の資金源として、自己資本のほか、長期返済できる固定負債も財源として捉える。

 計算式は下記のとおりだ。

固定長期適合率(%)=固定資産 ÷(自己資本 + 固定負債)×100

 固定長期適合率は100%以下であるべきとされる。

 もし、100%超の場合は、固定資産を自己資本と固定負債に加え、短期返済しなくてならない流動負債も財源にしている

 ということになり、無理な設備投資と考えられる。

 

 

固定資産は回転期間(回転率)と固定比率から見分けることが大事!