727.会計から見る強い経営の見分け方③
2025年10月12日
「会計から見る強い経営の見分け方」として、これまで『手元流動性比率』と『当座比率』を紹介した。
第3回目の今回は、近く手元資金となる『売上債権』の見分け方を紹介する。
売上債権の回収がしっかり出来てこそ、資金繰りに強い会社になれるのだが、売上を上げることには熱心な企業が多くとも、
売上債権の回収をしっかりしている企業は意外と少ないものだ。
3 強い経営のポイント③ 『売上債権回転期間』
(1)売上債権とは
売上債権とは、売上によって得た『売掛金』と、その売掛金回収で得た『受取手形』のことである。
売掛金は手形回収でない場合は、請求書という形で請求し、その支払期限が到来し、得意先が支払すれば現金又は預金となる。
受取手形は決済日がくれば当座預金に決済額が入金される。
いずれも手元資金直前の形であるが、意外と支払期日に入金チェックされていない企業が多い。
売掛金の場合は期日通りに支払いいただくということが自社の信用を高めることにつながるのだが、督促しているように誤解し、
未入金であっても催促されない場合が多い。
そうこうしているうちに自社の支払順位が下がり、未入金額が増え回収率を下げ、資金繰りを悪くしてしまう。
受取手形の場合は安直に了解してしまい、決済日も相手の言いなりとなってしまい、割引をすることで資金コストを上げてしまう。
しかし、ここで重要な出来事が2027年4月に起こることになる。それは「手形取引は廃止される」ということだ。
手形取引は2027年4月から廃止される!
(2)2027年4月から支払手形は廃止されるということは?
まず、手形が廃止されれば、どのようなことが起こるのか、考えてみよう。
現在の情勢では、間違いなく2027年4月から『支払手形』は発行できなくなる。
このことは、再来年の2027年4月からは支払手形がなくなるので「売掛金回収が早くなる」ように思われるかも知れないが、
おそらくならないことが予測される。
なぜなら、支払手形というものは、どちらかと言えば、力の強い方の企業が使っているからだ。
したがって、支払手形が使えなくなると、力の強い企業の資金繰りが悪化するので、そのまま売掛金の回収期間を長くすることを
力の弱い企業に押し付けることが考えられる。
いまままでは、受取手形を割引したりあるいは裏書したりして、たとえ少々費用がかかっても力の弱い企業も早く資金化することが
できたが、再来年4月以降はその手形が無くなるので、割引や裏鍵ができなくなり、手元で売掛金のまま眠ることになる。
そうなると力の弱い企業の資金繰りが非常に苦しくなることが予想でき、2027年4月以降できることといえばファクタリングだけ
となり、いままで以上に資金コストが高くなり、やはり資金繰りを圧迫することになる。
したがって、手形廃止は弱い企業ほど大問題となり、いまから対策を練っていく必要がある。
手形廃止の対応策を今から講じる必要がある!
(3)売上債権は多くあればあるほど「安心」というものではない
経営者の中には、貸借対照表の中の「売上債権」が多くあれば、安心している経営者が多く見られる。
債権なので多くあると安心だという心理だ。
しかし本当は、売上債権が多くあるということは、その債権の中に「不良債権」が多くあるかも知れないということを示している。
売上債権は、企業ごとに「適量」というものが必ず存在し、それ以上ある場合は不良債権となるおそれがあることを示す。
たとえば、売上高が毎月税込11,000万円、すべて掛売で、月末に締めて翌月初に請求書を出し、翌月末に手形回収し、決済日が
3カ月後であったとすれば、9月の売上高は10月末に手形回収し、3カ月後に決済日を迎えるので、翌年の1月末に資金として
回収されることになる。
そうなると、9月の貸借対照表では売上が毎月税込11,000千円なのだから、きちんと約定通り回収していれば、
9月売上の売掛金が11,000千円、受取手形が3カ月分の33,000千円と表示されていることになる。
これ以上、売掛金や受取手形がある場合は、それぞれに手形回収が遅れていたり、手形決済が遅れている売上債権があることを
示していることになる。
支払が遅れている企業があるということは、それぞれ該当する企業に何某らの理由があることを示し、その何某らの理由には決して
いい理由はない。
よって、不良債権になるおそれがあることになる。
適量以上の売上債権は不良債権になるおそれがある!
(4)売上債権回転期間とは
そこで大切になるのが『売上債権回転期間』による、売上債権の管理だ。
『売上債権回転期間』とは、企業が商品やサービスを販売した際に発生する「売上債権(受取手形や売掛金など)」を、
どのくらいの期間で現金として回収できているかを示す財務指標だ。
売上債権回転期間で次のようなことがわかる。
①資金繰りの健全性
売上債権回転期間が短いほど、売上代金が短期間で現金化されるため、企業の資金繰りが健全かつ効率的であると判断できる。
②経営効率
回収に要する期間が短いことは、売上債権を効率的に現金に換えることができている証拠となる。
③長期化のリスク
売上債権の回収に時間がかかると、現金不足に陥ったり、不良債権化したりするリスクが高まり、資金繰りを悪化させる原因と
なる。
④計算式
売上債権回転期間は、通常、「月」または「日」で算出される。
月数で求める場合:売上債権回転期間(月)=売上債権残高÷平均月商
日数で求める場合:売上債権回転期間(日)=売上債権残高÷平均日商
⑤分析のポイント
1.業界平均や同業他社との比較によって、自社の状況が客観的に評価できる。
2.過去数年間の自社の数値を比較することで、資金繰りの傾向や変化を把握できる。
3.売上債権回転期間と仕入代金の支払いにかかる期間を示す仕入債務回転期間を比較することで
総合的な資金繰り状況を判断できる。