725.会計から見る強い経営の見分け方①

2025年9月27日

経営環境は気づくか、気づかないかに関わらず、絶えず変化している。

そのためにも変わりゆく経営環境に適応していく『環境適応戦略』を取ることが大事ではあるが、

その結果を見て「強い経営」が出来ているか、確認することも重要なことである。

その状況を知るツールが、決算・申告のために、日々処理している『会計』である。

状況は貸借対照表と損益計算書でまとめられるが、それを作成することだけに終始し、自社の状況を見てないのではないだろうか。

経営を永続的に続けさせるためには、貸借対照表や損益計算書から自社の状況が理解できなくてはならない。

その手法が『経営分析』と呼ばれている。

今回から「会計から見る強い経営の見分け方」と題し、自社が強い経営状況になっているのかどうか、その見るポイントを

紹介していく。

 

はじめに 強い経営の見分け方

強い経営の見分け方として、自己資本比率が高いとか、売上高が伸びているとか、借金が少ないとか、

いろいろなことが言われるが、その究極は『資金繰り状況』だ。

資金繰り状況さえ良ければ、たとえ自己資本比率が低くとも、売上高が思うように伸びなくても、借金が多くとも、

経営は続けていくことができる。

経営を続けていくことができれば、時間を稼ぐことができるので、その間に自己資本比率を高めたり、売上高を伸ばせたり、

あるいは借金を減らせたり、いわゆる『経営改善』ができる時間が得られる。

しかし資金繰りが悪く、いつまで経営してられるのか、わからない状況では、経営改善をする時間はない。

したがって、強い経営の見分け方は、根本的には『資金繰り状況』を見ることだ。

そこで本稿では、「自社の資金状況を見分け方」をわかりやすく紹介する。

強い経営の見分け方は『資金繰り状況』!

 

1 強い経営の見分け方① 『手元流動比率』

(1)経営資金とは

日常の経営をしていくための資金のことを『経営資金』という。

確実な経営資金とは、手元にある「現金」と「預金」だ。

ただし、預金の中で借入のための担保となっているような積立預金のような『固定性預金』があるのであれば、

それは自由に使うことができなので、除かなくてはならない。

だから企業の意思で使える資金のことを『手元流動性資金』と呼ぶ。

『経営資金』は「現金」と「流動性預金」!

 

(2)売上債権とは

手元流動性資金に加えて、経営資金となりそうなものとして「売上債権」がある。

しかし、売上債権(受取手形と売掛金)は、手元資金になるまでに1カ月から数カ月はかかること、また必ずしもすべて回収できる

とは限らないことから、確実な「明日の資金」にはならないこともある。

したがって、「明日の資金」にするためには、コストとリスクを負って支払期日を待たずに資金化することになる。

そのためには、3つの方法がある。

 1. 回収期日前に銀行や手形割引専門業者に受取手形を買い取ってもらって「手形割引」で現金化する。

  このようにすると、 期日を待たずに受取手形はすぐに資金化できる。

  しかし、 手形額面から割引料(手数料)が差し引かれるので、受け取る金額は少なくなり、コストが発生する。

  また、受取手形が不渡りになった場合は、手形を買い戻す義務が発生するというリスクも発生するので、気をつけたい。

 2.受け取った手形に裏書をして、仕入れ代金や買掛金の支払いとして、取引先に手形を「裏書譲渡」する。

  このようにすると、 手元の現預金からではなく、受取手形で支払いすることが可能となる。

  ただし、取引先の了解が必要なことと、 割引と同様、受け取った手形が不渡りになった場合は、支払いの義務が生じるという

  リスクが発生する。

 3. 手形そのものではなく、売掛債権自体を「ファクタリング」会社に買い取ってもらい、現金化する。

  このようにすると、早期に資金調達ができることとなり、不渡りリスクなども回避できる。

  ただし、それ相当の手数料が必要になるので、コストが高くなる。

売上債権を「明日の資金」とするにはそれ相当のコストとリスクが伴う!

 

以上のことから、一般的には、売上債権は「経営資金」には含めない。

 

(3)経営資金と比べるもの

経営資金は理解できたとして、ではその有り高を何と比べると、経営資金の有り高の評価ができるのだろうか。

この問に関しては、家計でたとえて考えてみるとわかりやすい。

家計の生活資金も手元にある「現金」と銀行に預けてある「預金」になる。

その他にも、NISAや株式などの投資もあるかもわからない。

しかしそれらは、将来的な資金として保有されている場合が多いので、それらは企業経営で言えば「売上債権」に近いものとなる。

したがって、当座の生活資金の総額は「現金と預金の合計」となる。

では、生活資金はどの程度あれば安心なのかという問題だ。

それはそれぞれの生活者や家族構成によって違うのだろうが、それは企業も経営者や企業規模によって違うので、そこも同じだ。

ただ尺度は共通で、それは「1カ月分の生活費」となる。

1ヵ月の生活費が40万円かかるのに、現預金が20万円程度では心許なく、自転車操業の生活となってしまう。

やはり、最低でも2カ月分から3カ月分程度の現預金は持っておきたいということになる。

つまり、1カ月の生活費が40万円ならば、80万円から120万円の生活資金は最低でも持っておきたいということになる。

それを事業に戻すと、事業の生活費は「売上高」となる。

したがって、手元流動性資金は2カ月分から3カ月分の売上高に相当する額を持っておきたいということになる。

経営資金と平均月商を比較することで『経営の持続性』が読み取れる!

 

(4)手元流動性比率

この考え方を『手元流動性比率』と呼んでいる。

手元流動性比率は、企業が月商に対して、どれくらいの現預金などの流動性の高い資産を持っているかを示す指標だ。

通常、手元流動性比率の目安は『2ヶ月以上』と言われている。

これは、売上がゼロになったとしても、事業が2ヶ月は持ちこたえられることを意味する。

しかしながら、より具体的な目安としては月商3ケ月分の現預金があれば、事業の立て直しに必要な時間的な余裕を確保できる

言われているが、これは各経営者の判断だ。

ただし、業種や企業の状況によって適正な水準は異なり、例えば、大企業では1ヶ月分の手元資金があれば良いという目安もある。

 ①手元流動性比率の計算式

  手元流動性比率 = (現金 + 預金 +1年以内換金可能な有価証券) ÷ 平均月商

 ②手元流動性比率の重要性

  資金繰りでは、 短期的な支払能力を示し、急な資金ニーズに対応できるか、判断する上で重要だ。

  銀行評価面では、金融機関は企業の安全性を測る指標として、手元流動性比率を重視する傾向がある。

  事業継続では、 売上が減少しても、一定期間、事業を継続できるかどうかの判断材料となる。

 ③注意点

  財務分析はバランスが重要なので、手元流動性比率だけではなく、自己資本比率や流動比率など、他の分析と合わせて

  総合的に判断することが大切だ。

  手元流動性比率が高すぎる場合は、資金を有効活用できていない可能性も指摘されるというが、

  それは上場・大手企業の場合であって、中小零細企業の場合は人件費などに問題なければ、高ければ高いほどよい。

『手元流動性比率』は高ければ高いほどよい!