723.夢のような夢でない話⑥ ナノテク
2025年9月12日
ナノテクノロジーとは10億分の1mであるナノメートル(nm)という非常に小さなスケールで原子や分子を制御し、
新しい機能を持つ材料やデバイスを作り出す非常に極小の技術のことだ。
この技術で材料の特性を根本的に変えることができるので、エレクトロニクスや医療あるいは環境やエネルギー分野など、
非常に幅広い分野で技術革新が起こせると言われている。
今回は、そのナノテクについて紹介する。
6 ナノテクノロジー
(1)ナノテクノロジーの主な特徴
ナノテクには次のような特徴がある。
①物質の特性を変化させる
ナノスケールでは物質が本来持つ性質とは異なる、超機能・超集積・超感度などの性能を示すことがある。
それによって新たな技術革新が起こせるという。
②新しい材料が創出できる
従来の材料では実現できなかった、軽量で高強度なナノコンポジット材料などが開発でき、新しい材料を創り出すことができる。
③いろいろな分野での革新的な応用ができる
それらによって、たとえば医療分野でのドラッグ・デリバリー・システムやがん治療、環境問題解決のための高効率フィルター、
小型で高機能な電子機器などで応用し、革新的な技術がすでに開発されている。
ナノテクは物質特性を変化させ、新しい素材を提供し、幅広い分野での技術革新を実現する!
(2)ナノテクの具体的な応用例
ナノテクは現在でもさまざまな分野で応用がなされているが、その具体的な例を見てみよう。
①エレクトロニクスでの応用
CPUの配線に使われるカーボンナノチューブや高効率な太陽電池、メモリの小型化などですでに応用されており、
不可欠な技術となっている。
②医療・バイオテクノロジーでの応用
ナノ粒子を利用した低侵襲な診断やピンポイントで癌細胞を攻撃するドラッグデリバリーシステムなどですでに応用されている。
③素材科学での応用
軽量で高強度な素材や耐熱性や耐摩耗性の向上など、製品の耐久性や性能を高めることにすでに応用されている。
④環境・エネルギー分野での応用
CO2をプラスチックにリサイクルする技術や超高効率な太陽光発電技術への応用など、さらに応用が期待されている。
ナノテクは電子分野、医療分野、素材分野、環境・エネルギー分野で技術革新を起す!
(3)ナノテクの最新動向
①医薬・生命科学分野
早稲田大学と理化学研究所では細胞内にタンパク質を効率的に輸送し、その機能を維持させるナノ構造体をすでに開発している。
これは、癌細胞など、さまざまな細胞での活用が期待されている。
また、医薬品のドラッグ・デリバリー・システム(DDS)において、ナノ粒子の形態に変換することで薬剤の投与量を減らす
臨床試験もいま進められている。
②エレクトロニクス分野
人間の髪の毛25分の1以下の薄さを持ち、かつフルカラー表示が可能な極薄ディスプレイがすでに開発されており、
将来的にはエレクトロニクス分野だけでなく、素材衣類への転用も考えられているという。
また、スマートフォンやパソコンでは、ナノサイズのICによる小型・軽量化・高機能化が進んでおり、より性能の高いCPUの
開発も進んでいる。
③素材分野
植物由来の次世代素材であるセルロース・ナノ・ファイバー(CNF)は、軽さや強度、リサイクル性などに優れ、
循環型ものづくりにおける重要な素材として注目されており、自動車などへの実用化が進んでいる。
(4)ナノテクの未来
いまでもさまざまな分野で応用されているナノテクノロジーだが、将来どのような技術革新をもたらすのだろうか。
ある研究機関によると、次のような年表が発表されている。
2030年 日本国内のナノテク関連市場が『26兆2645億円』に成長。
2030年 木材から作る極細繊維「セルロースナノファイバー」の市場が『1500億円』の規模に拡大。
2030年 1キロ300円の低コストを実現した植物由来の新素材セルロースナノファイバー(CNF)の商業生産が開始。
2032年 磁場、電場、重力などを制御してナノ粒子を操作し、組み立てる技術が利用可能になる。
2050年 バイオテクノロジーやナノテクノロジーを重視する社会の到来。
ナノテクのシンギュラリティは2030年に始まる!
また、ナノテクの応用によって大きな変化がもたらされつつある6つの分野について、以下のような予測がある。
①素材・コーティング分野
ナノテクはさまざまな種類の素材と保護コーティングにおいて進歩をもたらす。
布地やスポーツ用具、メガネ、コンピューターやカメラのディスプレイまで、ナノテクの応用には多くの可能性がある。
ナノテクを利用することで、素材における多くの特性(特に強度、軽量性、耐久性、反応性、ろ過性、導電性など)を
効果的に向上させることができる。
さらにナノテクにより化粧品のカバー力や吸収性を向上させたり、布地のしわや細菌増殖を発生しにくくすることも可能になる。
② 医薬分野
生命科学の分野では、治療技術、診断法、複合ドラッグ・デリバリー・システム(DSS)などでの進展が考えられる。
オーストラリアのメドラブ・クリニカルが開発したDSS「NanoCelle」は、特許のある医薬品をナノ粒子の形態に
変換し、通常容量の一部のみでの投与を可能にしている。
コレステロール低下薬のアトルバスタチン(リピトール錠)や2型糖尿病向けのインスリンなどで使用される予定という。
その他、抗ウイルス薬やRNA干渉治療薬なども挙げられる。
③食品分野
ナノテクを利用することで、食品の食感や風味を高める手法も研究されている。
また、ナノテクを用いた包装によって、食品保存の向上や微生物から食品を保護する研究などもされている。
④エレクトロニクス分野
エレクトロニクスの世界では「トランジスターの集積密度は毎年倍増する」というムーアの法則が有名だが、
ナノテクはそれを後押ししている。
電気回路はますます小型化しているが、こうした進歩を可能にしているのがナノテクだ。
最新チップは、指の爪ほどの大きさのチップ上に、5ナノメートルのスイッチがなんと300億個も集積されているという。
⑤エネルギー分野
エネルギーの貯蔵および石油や天然ガスの回収の両面でのナノテクの利用が挙げられる。
また再生可能エネルギー分野でも利用されている。
その一つが太陽電池の性能向上であり、ブラックシリコン太陽電池と全背面接点シリコンヘテロ接合太陽電池構造を開発し、
この技術で太陽電池に銀が不要になるため、太陽光発電のコスト低減になる。
⑥ 水と空気の処理分野
ナノテクは、幅広い環境や衛生面でも応用されており、そのひとつとして、水と空気の処理がある。
本型の浄水器があり、この「本」のページには、銀ナノ粒子でコーティングされた紙が使われ、汚水をろ過することができる。
さらにナノテクは空気の質を向上させるためにも使われており、ろ過システムにおける絹とそのナノフィブリル(繊維を構成
している微小な組織単位)の新たな使用法が発見されている。
また、塵を効率的に遮断できる空気フィルターもナノテクを利用している。
ナノテクノロジーは素材、医薬、食品、エレクトロニクス、エネルギー、環境など、
幅広く生活インフラに直結する技術革新を誘発していくので、事業にとっても要注目の技術だと思われる。