716.建設業法の改正
2025年7月26日
昨年2024年6月7日、「建設業法及び公共工事の入札及び契約の適正化の促進に関する法律の一部を改正する法律」が
国会で可決・成立した。
この改正法は公布日から1年6カ月以内に施行される予定なので、本年2025年内には施行される予定だ。
この改正は建設業の担い手を確保するために、労働者の処遇改善や働き方改革あるいは生産性向上を促すことを 目的としている。
しかし建設業界には非常に多くの中小企業が関係しているので、中小企業経営に大きな影響を与えることが予想される。
そこで今回は、その建設業法の改正について紹介する。
1 建設業法が改正される背景と必要性
建設業は地域のインフラや住居・オフィス・商業施設の建設を担う重要な存在だ。
しかしながら建設業は他産業よりも、賃金が低い、就労時間も長いと言われ、担い手の確保が困難という課題がある。
そこで建設業が地域の守り手としての役割を今後も果たしていけるように、建設業法等を改正し、
労働者の処遇改善や働き方改革あるいは生産性向上を目指す規制変更が行われたという次第である。
2 建設業法等改正の概要
今回の建設業法等改正による変更点は、大きく以下の3点が上げられる。
1.労働者の処遇改善(賃金の引上げ)
2.資材高騰に伴う労務費へのしわ寄せ防止
3.働き方改革と生産性向上による労働時間の適正化と現場管理の効率化
では、それぞれについて、詳しく見ていこう。
3 改正のポイントその1:労働者の処遇改善(賃金の引上げ)
労働者の処遇改善に関して、以下の改正が定められている。
1.労働者の処遇確保を努力する義務の義務化
建設業者はその労働者が有する知識・技能その他の能力についての公正な評価に基づいて適正な賃金を支払うことと、
その他の労働者の適切な処遇を確保するための措置を効果的に実施するよう努めなければならないとされた。
(改正建設業法25条の27第2項)
労働者の処遇確保措置はあくまでも努力義務なので、怠っても別段具体的なペナルティはない。
しかし、建設業者には上記改正の主旨を尊重し、労働者の処遇改善に努めることが求められている。
2.標準労務費の勧告
国土交通省には、建設業やその周辺分野における有識者を委員とする「中央建設業審議会」が設置されている。
その中央建設業審議会の所掌事務は、公共工事に関する経営事項審査の項目・基準や適正化指針について意見を述べることと
建設工事標準請負契約約款の決定および当事者に対する採用の勧告ならびに建設工事の工期に関する基準の作成および実施の
勧告などである。
今回の建設業法等改正では、中央建設業審議会には新たに建設工事の労務費に関する基準を作成し、その実施を勧告する権限が
付与されている。(改正建設業法34条2項)
労務費に関する基準においては建設業の工事に関する標準的かつ適正な労務費(=標準労務費)が示される見込みとなっている。
3.著しく低い材料費等の見積り・見積り依頼の禁止
建設工事の請負業者は、材料費等や施工のために必要な経費の内訳などを記載した「材料費等記載見積書」を作成する努力義務を
負っている。
今回の建設業法等改正によって、材料費等記載見積書に記載する材料費等の額は、当該建設工事を施工するために通常必要と
認められる材料費等の額を著しく下回るものであってはならないものとされている。(改正建設業法20条2項)
また、建設工事の注文者の側においても、材料費等記載見積書の交付を受けた後、その材料費等の額について、当該建設工事を
施工するために通常必要と認められる材料費等の額を著しく下回る変更を求めては ならないものとされている。(同条6項)
この規制に違反して著しく低い材料費等の見積りを依頼した発注者は、国土交通大臣又は都道府県知事による勧告および公表の
対象となる。(同条7項・8項)
材料費等を請負代金へ十分に転嫁できないと、労務費の圧迫につながるため、それを防止することを意図した改正である。
4.受注者における原価割れ契約の禁止
建設工事を請け負う建設業者は、自らが保有する低廉な資材を用いることができるなど、正当な理由がある場合を除き
建設工事を施工するために、通常必要と認められる原価に満たない金額の請負契約を締結してはならないものとされている。
(改正建設業法19条の3)
原価割れ契約も労務費の圧迫につながるため、それを防止することを意図した改正である。
4 改正のポイントその2:資材高騰に伴う労務費へのしわ寄せ防止
資材高騰に伴う労務費へのしわ寄せ防止として、以下の点が改正されている。
1.受注者の注文者に対するリスク情報の提供義務化
具体的には、資材の供給減少や価格高騰の可能性を事前通知すること、工期や請負代金に影響を及ぼす事象を報告すること、
契約締結前の段階での情報提供を義務付けることなどのことを指す。
2.請負代金の変更方法を契約書記載事項として明確化
具体的には、請負代金の変更における算定方法を契約書に明記すること、資材価格変動時の契約金額への反映をスムーズにする
ことなどが明計化されている。
3.資材高騰時の変更協議へ誠実に応じる努力義務・義務の新設
リスク情報を通知した後、実際に資材高騰などが発生した場合の円滑な協議体制を確保するため、発注者側の対応義務が
定められている。
その内容は、民間工事の場合には
受注者からの変更協議の申出が可能であること、発注者は誠実な協議への対応を努力義務とすること、根拠を欠く場合などは
例外として認定できることとなっている。
また、公共工事の場合には、
受注者からの協議申出に対する対応を義務化すること、工期や請負代金の変更に関する協議することが対象となっている。
これらの規定によって、資材高騰時の適切な契約変更と、受発注者間の円滑な協議が促進されることが期待されている。
5 改正のポイントその3:働き方改革と生産性向上(労働時間の適正化・現場管理の効率化)
その主な改正点は以下のとおりだ。
1.受注者における著しく短い工期による契約締結の禁止
短い工期は、労働者の処遇を悪化させる要因となる。したがって、著しい短い工期契約は禁止された。
建設業では、長時間労働や過重労働が重要な問題となっており、その原因の一つに発注者による不当に短い工期設定があると
考えられており、適正な工期を確保することで労働者の健康を守り、安全な作業環境を整備し、結果、品質の高い建設工事が
期待できるとされている。
2.現場技術者の専任義務の合理化
現場技術者の専任義務の合理化とは、建設業における技術者の配置に関する規制を緩和し、一定の条件下で複数現場の兼任を
認めることをいう。これにより、現場技術者の効率的な活用と、建設業全体の生産性向上が目指せることになる。
これまで原則として「1人1現場」とされていた現場技術者の専任義務が、一定の条件を満たせば複数現場を兼任できるように
なる。
3.公共工事発注者に対する施工体制台帳の提出義務を合理化
建設業者が公共工事の下請契約を締結した場合、発注者に提出する施工体制台帳の写しの提出を一定の条件を満たせば不要と
する措置のことだ。具体的には、発注者が情報通信技術(ICT)を活用して施工体制を把握できる場合、提出を省略できる。
4.効率的な現場管理の努力義務化・国による現場管理の指針作成
具体的には、特定建設業者や公共工事の受注者に対して、ICTを活用した効率的な現場管理を「努力義務」として課すこと、
また、国がそのための指針を策定することが柱となっている。
これによって建設業界は、ICT技術の導入・活用を積極的に進め、生産性向上と労働環境改善の両立を目指す必要が生じてくる。
国は指針の策定や制度設計を通じて、建設業の持続可能な発展を支援していく。
6 事業者の対応のポイント
最後に事業者としての対応のポイントを考えてみよう。
大まかに、対応策として6点ほどが考えられる。
1.標準労務費の確認および見積り等への反映
まず、標準労務費を確認し、しっかりと見積書等へ反映させることだ。
相手の顔色をうかがい、忖度するような見積書の提出は勇気をもって是正しなけばならない。
2.低すぎる金額の見積りを出す(依頼する)慣例がある場合は、その是正
同様に、これまで明らかに低い見積書を提出していた慣行がある場合は、是正しなければならない。
また依頼することも慎まなければならないし、求められられても毅然とした姿勢を貫く必要がある。
そのためにはしっかりした説明力や提案力が求められることになる。
3.資材の供給不足や高騰への対策に関するリスク情報の提供フローの構築
市場の情報収集力も問われることとになる。
したがって、その提供・収集フローも構築しなければならない。
その他にも以下のようなことが考えられる。
4.請負契約書のひな形において、請負代金を変更する際の金額の算定方法の定めがない場合は、その追加をする
請負契約書のひな形において請負代金の変更に関する条項がない場合、契約締結後に請負代金が増額または減額される可能性が
生じた際にはその金額の算定方法を明確にするために、契約書に条項を追加することが推奨されている。
5.著しく短い工期での施工を受注する慣例がある場合は、その是正
具体的には、建設業法で禁止されている「著しく短い工期」での請負契約を締結しないようにしなければならない。
このことは「改正のポイントその3」に対する対応であり、建設現場で働く労働者の長時間労働を是正しなければならない。
6.現場管理におけるICTの活用 など
具体的には、ドローンやセンサー、AI、クラウドカメラなどの技術を駆使して、測量、設計、施工、検査、維持管理といった
建設プロセス全体を効率化・高度化をする。
今回の参議院選挙で既成政党がいずれも苦戦し、新しい政党が議席を伸ばしたように、
どの業界もこれまでの既成概念に囚われないことが大事だ。
新しいことに取り組みには確かに苦しみを伴うが、それは新しい世界にたどり着くためには避けられないことだ。
しかしたどり着けばまた新しい道が拓けている。 がんばりたいものだ!